性の相談室
誰にも言えなかった悩みに寄り添う
続編・第1話
「彼のにおいが気になる」
登場人物
27歳の会社員・美穂。
30歳の恋人・拓也。
整体師・和真(58歳)。
二人は付き合って一年。
仲はいい。
結婚の話も少しずつ出ている。
けれど、美穂にはどうしても言えないことがあった。
恋人のデリケートゾーンのにおいが気になる。
最初は、「汗をかいたからかな」 と思っていた。
ところが、入浴したあとでも気になることがある。
さらに、美穂は拓也の包皮の状態も気になり始めた。
インターネットで調べれば調べるほど、
「感染症」
「包茎」
「手術」
という言葉が並ぶ。
そして、だんだん怖くなってしまった。
それでも拓也には言えない。
好きだからこそ、言えなかった。
「臭うよ」
なんて言えば、傷つけてしまう。
「病院へ行って」
と言えば、男として否定されたと思われるかもしれない。
そんなことを考えているうちに、美穂は性的な触れ合いそのものを避けるようになる。
当然、拓也は気づく。
「最近、俺のこと避けてない?」
「そんなことないよ。」
嘘をつく。
その嘘が、また苦しくなる。
そんな時、美穂はいつもの肩こりで、やすらぎ整体院を訪れる。
施術を受けながら、和真が言う。
「今日は、いつもより身体に力が入っていますね。」
「何かありましたか。」
一年以上通っている整体院だった。
だからこそ、美穂はようやく言えた。
「先生……男性のことで相談してもいいですか。」
「もちろんです。」
「彼の……においが気になるんです。」
和真は驚かなかった。
そして、手術を勧めることもしなかった。
「まず、二つに分けて考えましょう。」
「二つ?」
「清潔の問題なのか、炎症や感染症など医療的な問題なのかです。」
美穂は黙って聞いた。
「そして、包皮がかぶっているからといって、
それだけで病気というわけではありません。」
「そうなんですか?」
「はい。ただ、痛みや炎症を繰り返したり、清潔を保つのが難しかったり、
包皮がむけず困っていたりする場合には、泌尿器科で相談したほうが安心です。」
美穂は少し考えてから言った。
「私、先生に『手術してもらったほうがいい』って言われると思っていました。」
和真は笑った。
「手術が必要かどうかを決めるのは、整体師ではありませんよ。」
美穂も思わず笑った。
張り詰めていた空気が、ほんの少し緩んだ。
「それより大切なのは、あなたが不安を抱えたまま我慢しないことです。」
「性感染症が心配なら、お二人で検査を受ける方法もあります。」
「二人で……。」
「はい。『あなたが悪い』ではなく、
『二人の健康のために一緒に確認しよう』と伝えてみたらどうでしょう。」
美穂はその言葉を何度も心の中で繰り返した。
あなたが悪い、ではない。
二人のために、一緒に考える。
それなら言えるかもしれない。
その夜。
美穂は拓也の隣に座った。
「ちょっと話していい?」
「何?」
心臓がドキドキする。
それでも逃げなかった。
「私ね、あなたのことが嫌だから言うんじゃないよ。」
拓也の表情が少し固くなった。
美穂は続けた。
「これからも一緒にいたいから、二人の身体のこと、ちゃんと話せる関係になりたい。」
そして初めて、自分が感じていたにおいへの不安を話した。
拓也はしばらく黙っていた。
やはり傷つけてしまっただろうか。
そう思った時だった。
「……実は俺も気になってた。」
美穂は顔を上げた。
「病院へ行くのが恥ずかしくてさ。」
今度は二人とも笑った。
何か月も一人で悩んでいたことが、話してみれば数分で「二人の問題」に変わった。
美穂は拓也の手を握った。
「じゃあ、一度ちゃんと診てもらおう。」
「うん。」
性の悩みは、とても言いにくい。
好きな相手だからこそ、もっと言いにくいこともある。
けれど――。
愛することと、我慢することは同じではない。
相手の身体を大切にすること。
自分の身体も大切にすること。
そして、言いにくいことほど二人で話せること。
それもまた、愛情なのかもしれない。

















