いわゆる「建築」仕事よりかなり軽やかに仕上がった目隠しスクリーン。

 

ちょうど半年前、3月に「手つづき・手づくり・手わたし」と題して竣工をお知らせした、水彩画家あべまりえ先生の「スタジオ小屋」。今回、その後さらに空間が先生のイメージ通りの姿へ変貌した近況をお聞き出来ました。

 

私どもからのお引渡しまでにも、まりえ先生ご夫妻によるDIY工程がいくつもあったのですが、建築基準法上の完了検査合格のあとにも、さらにたくさんの「仕上げ工事」が当初から予定されていたんです。今日はそのことを。

 

「仕上工事」は無論我々の仕事にもあって、床・壁・天井の仕上を施工するのが普通です。でもこのスタジオ小屋では、そこで我々との役割分担がありました。お引渡し後の仕事を担ってくださったのは「木工屋takuto」さん。

 

まりえ先生とtakutoさんは長いお付き合いのようで、その仕事の「テイスト」がとてもお好みなんですね。計画当初からその仕上工事の役割分担についてご希望があり、私もそういう仕事は珍しいので、最終形が楽しみでした。

 

同じ建物に関わる以上、takutoさんの過去の仕事もサイト上で拝見しましたが、やはり自分が手掛けた建物に手が加わっていくとなると、そのテイストに加え「仕事の方法の違い」が強く感じられて、大いに刺激になった次第。

 

タイルもクロスも枕木の家具もアイアンも全て一手につくられてます。

 

まず思うのは、takutoさんは非常な「多能工」だということ。本来は家具・什器を制作する「木工屋」さんなんですが、鉄の加工もするし、タイルも張るし、クロスも張る。「家具屋は手が器用」とは言え、かなりすごいです。

 

我々建設業では分業体制が徹底していて、クロス職人とタイル職人は違って当然。それに慣れた感覚からは、家具・内装を一手にまとめ上げるシゴトは、正直かなり羨ましい。とにかく「つくる」のがお好きなんでしょうね。

 

 

また、空間のつくり方も建築屋とはかなり違います。上は玄関ドアの前に「風除室」的な空間をつくっておられるところですが、工場で事前に制作した、構造と仕上が一体となったパネルを組み上げて空間を構成していく方法。

 

これが建築屋、特に私のような木造在来工法が染み付いた人間には非常に難しいのですよ。これは完全に空間を「大きな家具」としてつくる方法論であり、その意味で私には非常に刺激的、目から鱗が落ちる感覚なのでした。

 

 

その点での圧巻はこれ、外部デッキとその「囲い」です。ウッドデッキは我々もよくつくりますが、このパーゴラ的な屋根、隣家からの目隠しの囲い、手摺を上手く組合せて全体を軽やかに構成するのは、まさに家具屋の妙技!

 

柱や梁などの「構造」をもっと軽やかにしつつ強度を出すには、それぞれの「面」をガッチリと組む必要があります。その組合せの精度こそ家具制作のキモであり、それを空間づくりに応用する凄さが、私には見えるようです。

 

そんなことで、己がつくった建物にもっと精度の高い「家具屋の仕事」が加味されていく面白さ、これは初めての感覚。建築のスケールによって様々な空間づくりの方法論があることに、改めて気付かされるような体験でした。

 

 

 

最後に、私とtakutoさん、2つの「ものづくり」を違和感なくまとめ上げた一番の理由をお話しましょう。上の絵を見れば一目瞭然ですが、それはこの「絵」です。まりえ先生が描かれたこれら数多のイメージ画、なんですね。

 

この絵が示すように、施主がこの空間でやりたいこと、そのビジョンが明確に見えつつ進められたからこそ、施工者の役割分担も明確になるし、よりそれぞれの仕事の良さを引出すことも出来た、と言えるのではないでせうか。

 

今回の仕事では、私はいわばイメージ通りの絵を描くための「3次元のキャンバス」をつくるような役割だったのかな、と。そしてtakutoさんはその絵を「仕上げる人」であり、施主がその全体を構想した「仕組む人」だった。

 

こういう役割分担の仕事はしかし、一般的にはなかなか難しいことではないかと想像します。つくり手には各々得手不得手と自己主張があるもので、役割を楽しめる人ばかりではありませんから。統括の難しさはあるでしょう。

 

なので「仕組む人」はとても大変ですね。空間の構想、人選び、各者への構想の伝達、全て含んで「仕組む」必要がありますから。工事全体が終わった今、改めてそれが上手くいったこの仕事の余韻を愉しく感じている私です。

 

※今回の写真はtakutoさんのブログから許可を得て拝借しています。そちらも、ぜひご覧くださいませ。

 

via やまぐち空間計画
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