これまでにつくった間取りを語るシリーズ、遂に50回目となりました。第1回に書いた通り、お客さまの個人情報にはならないものを選び語ってきましたが、それでも結構な数あるもんやなあ、と自分でも少し感慨深いですw。

 

さて記念すべき50回目、ちと毛色の違うものをと考えまして、今回はリフォームの絵です。それもいわゆる「古民家改修」。昔ながらの日本の「田の字」の間取りを現代の住まいとして如何に再生するかに挑んだ間取りですね。

 

改修前の絵はお出しできないのですが、まさに「田の字」の和室四間に、一番南側が土間と台所という間取りでした。南東角の土間が玄関で、今回はその玄関の位置変更というなかなかチャレンジングなことをやっております。

 

間取りを見ますと、南東の角ではなくてそのひとつ北側に玄関がきていますね。では何故あえて位置変更するのかと言えば、それは「家の中で一番良い方位の場所は、玄関ではなく居室であるべきだ」という私の想いからです。

 

今回もいつもと同様「出来る限り廊下を無くす」間取りで考えていて、変更後の玄関を入るとすぐにLDKです。ソファとTVのあるリビングと、L型キッチンに面したダイニング、そして薪ストーブのある「土間コーナー」。

 

この土間コーナーが、元の玄関土間なんです。一段下がったタイル張りの土間に薪ストーブを置いて、その周りの段差に腰掛けるというイメージの場所。炎を囲む、この間取りの「特等席」と言っていい空間になっていますよ。

 

なお、図中LDKの字のすぐ下がケヤキの大黒柱。この大黒柱で、同じワンルーム内のリビング・ダイニング・土間が別のコーナーになる、というイメージですね。玄関の位置をずらすことで、人の居場所がこれだけ豊かになる。

 

さて、次は水廻り。田の字の4室とは別に、細長い4帖の部屋があったところを脱衣場とお風呂にしました。洗面は部屋から出して、リビングとの間の両面収納の中に組み込んでいます。キッチンを含め家事動線もよいですね。

 

今回の改修で、2階への階段の位置は変えていません。元々緩めの勾配だったので、それを調整するくらい。でもその奥の6帖は、スタディルームとトイレになりました。階段下の立体交差でそれぞれの入口を確保しています。

 

2階はダイニングキッチンと土間の上を吹抜けにしています。ここは元々1.5階分くらいの高さだったのでちょうど良いですね。他の部屋はあまり大きく変えず、畳から板張りに変更して収納を少し付け加えたくらいとしました。

 

最後に、1階北東の和室8帖と縁側について。ここは部分的な補修程度で、ほぼ元の状態を維持しています。田の字の間取りで一番良い場所、それは床の間と仏壇のある奥の客間です。そこは「暮らしの記憶」が多く残る場所。

 

そう、何でもかんでも改修・再生してしまえば良いものではない、と想うんです。古民家と呼ばれるようになるまで使われた歴史ある建物なのですから、そこに宿っている「記憶」はいくらかでもそのまま後世に引き継ぐべき。

 

そういう意味で、古民家改修という志事では「変える」と「残す」のバランスの取り方こそがキモ、と言ってよいかと思います。それは傷みの補修という面でも、性能強化という面でも、そして「暮らし」というソフト面でも。

 

この建物でも、間取りでは見えない立体空間のあちこちでそのバランスが意識されています。これこそまさに古民家改修の醍醐味、新築とはまた違ったプロの愉しみですし、歴史ある建物も喜ぶ志事なのだと強く思う次第です。

 

via やまぐち空間計画
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