最近は「野鳥観察」なる新しい趣味に時間を取られ気味ですが、古い器蒐めの方も細く長く続けていく所存です。今回は織部の向付が仲間入りしてきましたので、ご紹介をば。口辺部三寸七分✕三寸、高さ三寸三分ほどのもの。

 

こう書くと長方形のようですが、そうではなくてこの器は「菱形」なんです。織部吊し柿文菱形向付、と呼べばよろしいでしょうか。「織部釉」とも言われる緑釉が菱形の口辺廻り全体に掛かり、所々で下へと垂れていますね。

 

 

最初この器をヤフオクで見たときは、「きっと窯の中で変形したんだな」と思いました。窯で焼成中に歪んでしまうのは焼物にはままあることですし、美濃や唐津など土物(陶器)ではそれも魅力のひとつだったりしますから。

 

それに角向付の口は普通正方形で、そうでないものを見るのは初めてですし。でも実際どうなんだろう、と半信半疑で何とか落札し、届いたものをじっくり観察すると、最初から菱形にするつもりだったようにも見えるんです。

 

というのは、碁笥底(ごけぞこ)になった裏側もきれいに菱形だから。口辺部が歪みやすいのに対し、底部分は歪み難いはずです。底が正方形に近くて口辺が菱形ならば徐々に歪んだとわかるんですが、そういう感じではない。

 

 

なので私としては、意図的に菱形につくられたと考えることにしました。またよく見ると、菱形各面の中央には凹みをつくり、底と各稜線が当たる部分にも三角に欠取りを設けたりと、形態的にかなり凝っていると感じますね。

 

 

絵付は上記各稜線に沿ったライン、そして面によってV字や逆V字のラインを入れ、そこに「吊し柿」と何か枝垂れた感じの草花が描かれています。絵付そのものは達者とは言えない気がしますが、織部らしい無邪気さがある。

 

 

向付という器も勿論お料理を入れるためのものなんですが、この織部は高さ約10cmとかなり深いですね。現代の「小鉢」に慣れた眼からすると、いかにも食べにくそうに見えます。でもこれも、きっと意図的なのでしょうね。

 

もしこの器の高さが半分だったら、おそらく魅力も半減する気がします。このぐいっとそそり立つ四つの面とその中央の凹みライン、そして菱形で強調される尖った稜線がこの器のキモだし、底の欠き取りもだからこそ活きる。

 

そう感じ取ると、今度は四面に描かれたV字も、菱形の尖った形と呼応していることが見えてきます。このVが無かったら、各面の絵付はとても寂しい感じになる気がしませんか。やはり最初から造形も絵付も計算されていた。

 

時代の特定は私には難しいですが、そう新しいものでもないかと。手元に置いて眺めること一ヶ月、つくった職人の造形感覚がじわじわと私の中へ染み込んでくるのを感じています。それもまた器蒐めの喜びのひとつでしょう。

 

 

via やまぐち空間計画
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