これまでにつくった間取りを語るシリーズ、第48回です。今日はこれまでの投稿で一番広いのでは、という敷地。ある山手の自然豊かな住宅街で、高台で眺望に恵まれた場所に計画された、約50坪の木の家をご紹介しましょう。

 

敷地は不整形な四角形、北側道路です。南側1/3ほどが斜面なのですが、平地部分でも充分に建て得る面積ですから、斜面は散策路など設けたお庭で残すことにしました。駐車場は2台+α、アプローチにも余裕がありますね。

 

さて一目でお気づきの通り、建物が途中で折れ曲がり、屈曲部がくびれていますね。ここがこの敷地の持ち味を最大限に活かす工夫、その持ち味とは「南正面に隣家の目立つ屋根が見え、最も眺望が美しいのは南西方向」です。

 

目立つ隣家屋根は見えにくくし、建物を南西方向に開く。この間取りの狙いはそこにあります。間取りを2つに分け、一方は南西方向に折り曲げる。そこに出来た「くびれ」部分から残りの部屋も南西へと開く、そんな間取り。

 

では1階から見ていきましょう。玄関は北側に飛び出る形、広いポーチも全て屋根に覆われていますね。シューズクロークとの2動線、いつもの手法です。眺望を最大限に活かすべくLDKは2階とし、1階は個室群になっています。

 

ご家族はご夫妻と大学生のお子さんが一人。各々に個室を設け、ご夫妻の寝室は仕切り可能な形態に。屈曲部は客間+納戸ですが、将来的に両親との同居計画があり、納戸は水廻りに改修も可能。トイレ位置もその意味ですね。

 

客間とその横のデッキは南西の眺望に向いた場所。くびれ部分からデッキに出られて、ここにある小さな土間はワンちゃんの場所です。基本外犬ですが、ここは寒い地域なので、冬場など中でも過ごせるようにという配慮です。

 

階段をU字に上がって2階へ。メインは東西に長いLDKと予備室、屈曲部が水廻り。リビングのソファからはTVと薪ストーブが並ぶ壁が、ダイニングからはバルコニーデッキの手摺が、隣家の屋根を見えなくしていますよ。

 

そしてソファから南西方向はデッキを通して眺望を、ダイニングからはデッキに出て眺望を、それぞれ楽しめる仕掛け。なのでデッキ手摺の形も、リビング側は透けるように、ダイニング側は目隠しになるように違うタイプで。

 

キッチンはダイニングの北側で食品庫つき。窓は北側、2階からはこちらも眺めが良いのです。デッキはこちらにも延長してサービスバルコニーの役目も担い、更にキッチン全体を必要に応じ開閉できるよう建具も設けました。

 

予備室は、玄関の上に位置する場所。エアロバイクが描いてある通り、普段はトレーニングルーム的にも使う想定です。キッチン同様ここも建具で開閉可能としており、通常は開け放しでLDKと一体の方が気持ちいいですね。

 

最後は水廻りです。何と言ってもこのお風呂!南西方向の眺望へ全開です。逆に覗かれることがあり得ない場所なので。2階なのでハーフユニットを使いましたが、壁天井は全て桧の板張り。癒やされること間違い無しかとw。

 

脱衣室からもデッキに出る勝手口があり、その一部は深い軒で雨天でも可能な物干しになっています。トイレは奥まった位置に。収納は各部に設けつつ、2階にもう一つ納戸を。将来1階納戸が水廻りになる可能性もあるので。

 

以上、眺望に向けた屈曲部とそれが生む「くびれ」がメイン居室の快適性を高めながら、折れ曲がった先を「離れ」のような感覚にしているのがおわかりでしょうか。家の中に離れみたいな場所、なかなか楽しそうですよね。

 

私がつくる間取りには、往々にしてこうした「折れ曲がり」が出現します。でもそれにはちゃんと理由があって、その理由は敷地やご家族によって様々ですが、共通しているのはその場所での「心地よさ」のためだということ。

 

設計し難い、施工し難い、表面積増加でコストアップ等々、こうした屈曲間取りは敬遠される傾向なのでしょうね。費用も無論大切ですが、でもそこに生じる快適性が勝るならそれを諦めるべからず、そう強く想う次第です。

 

via やまぐち空間計画
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