あるお寺で進めてきた庫裏(ご住職の居宅)のリフォーム工事、いよいよ竣工間近です。約100年を経た木造建築を現代住宅として再生する計画で、古い木造を愛する私にはとても有り難い、建築屋冥利に尽きるお志事でした。

 

以前に外壁の漆喰塗りについてここに書きましたが、もう竣工ですから室内も全て仕上がっていて、写真の白い壁も同じく漆喰塗りです。と言っても、今は内部仕上用の簡易なローラー用漆喰があるのでとても便利なんですよ。

 

さて、実はこの文章の主役は「白」ではなく「黒」なんです。見ての通り、伝統工法による創建時の構造体、太い柱や曲がった梁などがあちこちに顔を出していますね。今回はこれらをそのままに活かして空間を構成しました。

 

 

冒頭の写真の続きはこんな感じ。大きな一室を通路と部屋に分けたので、曲がり梁が室内外に連続していますね。そしてその部屋の中が下の写真。低い位置の梁も、足元のものも構造体ですので残し、それ以外を改修しました。

 

 

昔の柱や梁は、特に塗り直しなどしていません。でもその古びた感じと新しい部分の見え方、雰囲気はすんなりと馴染んでいて違和感がないですね。はい、これこそ私が想う「古民家改修のキモ」、常に意識しているポイント。

 

そのキモとは、実に簡単なこと。「自然素材で揃える」ということです。新設部分、例えば床は無垢の唐松材で、窓枠・建具枠は全て無垢の杉材を使用しています。建具は無垢材ではありませんが、楢の突板を張った引戸です。

 

今日の写真の中での「既製品」は、断熱性能を確保すべく使用したサッシだけ。それもなるべく見付の細いものにし、木枠の方が見えるようにしています。こうして自然素材でまとめることから「一体感」が醸し出されてくる。

 

この部屋がもし、プリント合板のフローリングや樹脂を多用した既製品の建具や窓枠、ビニールクロスや化粧石膏ボードで出来ていたら?古い構造体は完全に「浮いて」しまい、柱や梁が「泣く」ような空間になるでしょうね。

 

日本の家屋は古来「石と土と植物」で出来ていました。土を均し固め、石の上に木の柱を建て、壁は藁と土を捏ねて塗り、屋根には粘土を焼いた瓦を葺いた。後に使われるようになった漆喰を含め、自然素材だけの建築でした。

 

思うに、日本人のDNAにはそうした住空間の記憶も受け継がれている。ユングの言う「集合無意識」に埋まっていると言ってもいい。そしてそれは主に「色彩」「質感」の記憶として我々の心のどこかに隠れているのでしょう。

 

その記憶にある一体感を損なうような空間に身をおいた時にそれが違和感として噴出する、ということなのではないでしょうか。建築のプロでない方々でもそれは全く同様、「ちぐはぐ」と感じておられるのがすぐわかります。

 

ですから古民家改修では、人が触れる部分には「色彩と質感」を馴染ませるべく全て自然素材で仕上げることが望ましい。そしてその奥に構造や断熱、施工性等現代の知見を忍ばせた、ハイブリッド的な改修でありたいですね。

 

今回ももちろん、そうしたスタンスで全ての工事を貫きつくっています。そして、何だか古いような新しいような楽しい空間になりました。私自身もいずれはこういう古民家に住みたいなあ、そう思える有り難いお志事でした。

 

via やまぐち空間計画
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