趣味の古い器蒐め、「ほしい」と思えてかつ予算が合うものはなかなか少ないですが、それでも時々収穫があります。今日は手元に来たら少し手をかけるつもりで敢えてゲットした器をご紹介いたしませう。画像の膾皿がそれ。

 

古伊万里の「花唐草」、直径五寸高さ一寸五分。こうした「唐草もの」にも色々あって「蛸唐草」が人気ですね。このように花を配して他を蔓と葉で構成するものを花唐草と呼び、その他にも萩唐草、微塵唐草などがあります。

 

 

側面に描かれているもの、これが本来の唐草ですね。この描き方で時代がわかると言われ、このように形の縁取りを描いてから中を埋めるのが古い方法だそうです。後にはこれを「一筆書き」するようになり、段々と雑になる。

 

 

高台内には二重角枠にいわゆる「渦福」の銘。以前にもここに書いたと思いますが、「福」の字の「田」の部分がぐるぐる渦巻になっているので渦福と呼ばれます。この渦福の描き方でも、目利きには時代がわかるそうですよ。

 

この器、ヤフオク出品者(古美術商さん)いわく江戸・享保頃だと。暴れん坊将軍の時代、今からざっと300年前です。本当かどうかわかりませんが、この非常に繊細な文様表現や渦福から見ても、そう新しくは無さそうかと。

 

まあ私自身はそんな細かい時代特定に興味は無く、美しい器であればよいのです。ただ、本来そんな古い器がこんな懐の寂しい設計士の元に来る筈はありません。実はこの膾皿には「直し」があったので、安く入手出来た次第。

 

 

ちなみにこれが、ヤフオクに掲載されていた元々の直し。金直し(漆と金粉を使った直し)に見せていますが、少し様子がおかしい。ひと目見てこれが合成樹脂系のものだとわかりました。それも素人の手によるものでしょう。

 

そう、「手を入れる」つもりで入手したというのは、この「直し」を自分で再度補修することだったんです。この正直かなり不格好な直しがあるが故に安く入手もでき、私にとってはありがたい出来事であったわけなんですね。

 

実際に補修出来るかどうかは現物を見るまでわからず、まあ一か八かという感じ。でも届いたモノを見たらやっぱり合成樹脂系の直しでした。ならばとばかり、まずは彫刻刀で余分にあふれた樹脂をこそげ落としに掛かります。

 

次に水ヤスリ(耐水サンドペーパー)で更に表面を擦り、平滑にしていきます。直しは出っ張らず、元の器形を損なわないことが大事。元の直しはだいぶ盛られていて器が可哀想な感じでしたので、優しく丁寧に削っていきました。

 

出っ張りが取れたら一日乾かし、次は着色です。直しの本来の趣旨である「破片の接着」は充分出来ている様子なので、それはそのままで。私もプロではないし、まあ見た目を整えるのが精一杯、今回は銀の塗料を塗りました。

 

この塗料がポイントで、私がもっているのは「ペベオ ポーセレン150」というフランスの素材。これ、陶磁器に絵を描いたりするための塗料で、塗った後オーブンで焼き付ければ食器として普通に使用出来るという優れもの。

 

江戸時代の器を食洗機に入れたり電子レンジに入れたりしようとは思いませんが、でも通常の食事やその後の洗い物などでも、やはり塗料の安全性は大事ですよね。それを面相筆でそっと塗って、オーブンで焼いて出来上がり。

 

 

まあなにせ不器用な私のことですから、これくらいの出来でお許しくださいw。でもやる前よりは出っ張りが少なく、色も金から銀に変え器との相性もよくなり、目立たなくなりました。自画自賛ですが、器も嬉しそうですよ。

 

そんな感じで、今回は手元に来てくれたこの古伊万里と対話するように直しの直しで遊ぶ時間を楽しみました。他にも器全体をハイター漬けでクリーニングして時代の汚れを落としてあげたら、器肌自体もとても美しく若返り。

 

骨董陶磁器は、鑑賞用としてあるべきハイレベルなモノも数多ありますが、私が入手出来る程度の器なら、やはり暮らしの中で慈しみ使ってあげたいところ。歴史と美を感じられる古い器、やはり何とも言えず愉しいものです。

 

via やまぐち空間計画
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