ここに何度か書いた通り、いま2つの寺院建築に携わっています。どちらも「庫裏(くり)」と呼ばれるご住職のお住まいのリフォームで、古い建物が好きな私には何とも有難いお志事、やり甲斐をもって取り組んでおります。

 

滋賀のお寺の方が先に着工していて、このたびもうひとつの奈良のお寺も工事がスタート。昨日はその2現場を連続して訪れ、お施主様や職方の皆さんと色々決め事など話し合いました。「お寺現場巡り」はしばらく続きそう。

 

冒頭の写真は昨日着工した方の外観、塀の外側から写したものです。うん、まさにこの一枚に日本の伝統建築のエッセンスが詰め込まれている、そんな感じがしませんか。いぶし銀の瓦、古色を帯びた木部、そして純白の漆喰。

 

特にこの漆喰の白が、まさに絵で言うキャンバスのような「地」の役割。屋根や木部の色をくっきりと映えて見せつつ、周囲の緑や青空と何とも美しく調和している。こういう社寺建築には、無くてはならない伝統素材ですね。

 

この漆喰という素材が日本に伝わったのは、飛鳥時代だそうです。消石灰を主原料とし、高い耐久性・耐火性をもつ高級建材として古くから使われ、この「白壁」の風景は日本人の心に強く刻まれていると言っていいでしょう。

 

漆喰は強アルカリ性なので高温多湿の環境下でもカビや菌を寄せ付けない。この点も我が国でこうした社寺建築に多用された理由ではないかと思います。「白さを保つ」ことで社寺の美観を維持できるのは大きな魅力ですから。

 

今回この庫裏では外壁に絡むリフォームがほとんど無いので、壁での漆喰の出番はちょっと無さそうですが、もうひとつの滋賀のリフォーム現場には新しく外壁をつくる部分があって、無論そこには漆喰が採用されていますよ。

 

 

昨日はちょうど漆喰壁が仕上がったところでした。足場から撮った縦長の写真を2枚並べています。よく見る蔵のように外壁下半分が黒い板張り、上半分が白い漆喰というツートンカラー。そこに軒裏の板の色が映り込むよう。

 

前回書いた瓦の時と同様、今回も「やっぱりこうでなくては」と感じました。庫裏の既存部分やお隣の御本堂との調和が取れること、さらに今だけでなくこれからずっと永く調和を保つと感じられるのは、本物の素材ならでは。

 

「新建材」などと呼ばれる外壁材は、出来上がった時が最も美しく、そこから次第に古びて汚くなっていきます。そんな「時の試練」に弱いモノを、歴史ある建物の改修で使うわけにはいきません。それは裏切り行為でしょう。

 

もちろん漆喰壁は、左官屋さんが手間暇を掛けてつくっていくものなので、費用面でリーズナブルとは正直言えません。しかしイニシャルコストをきちんと掛ければ、永く美しさを維持できる壁になる。費用対効果は充分です。

 

ただ、「永く住み続けられる家」を設計の信条とする私でも、実際に瓦屋根や漆喰壁を常に使うのかというと、残念ながらそうでは無い。今回2つの寺院建築との関わりで、大切なものを思い出したような気がしているんです。

 

代々のご住職がずっと住まわれてきた歴史ある建物に、今後もずっと心地よく住み続けられるよう少し手を入れてあげる。私のような設計屋には冥利に尽きるお話ですから、納得できる素材と方法で更に進めてまいりましょう。

 

via やまぐち空間計画
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