アルネ・ヤコブセン専門ショップ「HOUSE OF TOBIAS JACOBSEN」(2016~2020) 山口撮影2016.7.1

 

今日は、いま設計を進めている案件のことを書いてみようと思います。この5月に「お寺の庫裏」のリフォーム設計に関わっていると書きましたが、それとは別の意味で、私がつくってきた木の家とは少し違う建物なんですよ。

 

それはアトリエ、時に撮影スタジオとしての使用を想定した、小さな小屋。そして冒頭の写真は、お施主様が「これを建てたい!」と希望された、イメージにぴったりの建築。それが、私が行ったことのある建物だったんです。

 

最初に見せてもらったのは雑誌からの切抜き写真。「このレトロ感が良いんですよね」とお話を聞いているとその空間の記憶が蘇ってきて、「ここ知ってます!」とお返事した次第。それは池田市にあったあるショップでした。

 

 

デンマークの建築家・デザイナーであるアルネ・ヤコブセンによるプロダクトを展示販売するショップ「HOUSE OF TOBIAS JACOBSEN」。孫であるトビアス・ヤコブセンがプロデュースしたため、この名になったようです。

 

私はこのお店が出来た年に訪問して、店長さんとも色々話をし、写真もたくさん撮らせていただきました。なのでここに掲載のもの含め全てをお施主様にお見せし、更にお話をしながらつくる小屋のイメージを膨らませました。

 

この建物は昭和初期に洋裁学校としてつくられたもののようです。当時の室内がどうだったのかは不明ですが、構造を全て表しにしてペイントした、白いインテリアになっていますね。屋根をトラス組みで支えているのが特徴。

 

おそらく当時は平らな天井で小屋組が隠されていたのかもしれません。使われている木材もずいぶんラフな感じで、それがまたレトロ感を醸し出して落ち着く空間です。窓もほぼ全て、昔の木製建具を使っているようでした。

 

 

さあ、このインテリア、この雰囲気を如何に再現するか、それが今回のキモ。雰囲気は良くても断熱性能などはかなり低いはずのこの建物、ショップとしてなら可能でしょうが、日常を過ごす空間であればそうはいきませんし。

 

そもそも、柱や梁を塗るという仕様も私にとっては初めての経験です。無垢の木をそのまま見せていく場合とはその材料選びから違ってくるし、このラフさ加減をどう出すか、真剣に考えるとこれはなかなかの難問なのですw。

 

また、断熱気密の性能確保も大きなポイント。屋根なりの勾配天井を写真のような見え方にしつつ断熱材も充填するには、ヤコブセンハウスと同じつくりでは出来ません。違うつくりで同じに仕上げる、そこが腕の見せ所です。

 

「床は古い足場板を使おうか」など、お施主様とレトロなイメージづくりの話で盛り上がりつつ、それをリアルに実現していくには、ただ図面を描けば出来るというものではありません。実際のつくり手との共同作業こそ重要。

 

なので今は馴染みの大工さんに図面や写真を見せ、その意図を説明して、じゃあ材料を何にするか、どういうつくり方・納め方にするか、みっちり打合せをした上で、その内容に沿って建設費を算出しようとしている段階です。

 

また進捗をここに書くこともあると思いますが、約80年を経た昭和レトロを今に再現しようとするこの計画、寺院建築という伝統工法のリフォーム検討とはまた違う頭の使い方をするのが面白く、大いに刺激を受けている次第。

 

一方は、古い建物を雰囲気を活かしつつリノベーションする。一方は、古い建物がもつ良さを現代の工法で再現する。思考法は異なっていても、その根本に「歴史を経たモノのもつ良さ」への理解が無いと出来ないことですね。

 

その意味で、古いもの好きの設計屋を自認する私にはどちらも有り難い志事です。時を経た建物へのリスペクトを忘れず、少しでもそのエッセンスを盛り込んだ空間に出来るよう、設計自体を愉しみながら進めて参りましょう。

 

 

via やまぐち空間計画
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