『ソーシャル・ネットワーク(The Social Network)』  デヴィッド・フィンチャー監督   2010年アメリカ

 

今年初めての映画のご紹介は、以前から一度観てみたかったデヴィッド・フィンチャーの作です。私も日々愛用しているSNS「facebook」の創業者であるマーク・ザッカーバーグを主人公とした物語、でも実話ではないらしい。

 

作家ベン・メズリックの『facebook ~世界最大のSNSでビル・ゲイツに迫る男』を元ネタとするものの、ザッカーバーグ本人への取材も無かった脚本だそうで、大部分はフィクションと考えつつ鑑賞すべきもののようですね。

 

実際に、作品中にこんな台詞があるんです。「普通は、証言の85%は誇張、15%は偽証」と。これは訴訟を起こされたザッカーバーグに弁護士が言ったものですが、なんとなく作品全体に対する意味を含むようにも思えました。

 

さて、主人公は何故訴訟を起こされる羽目になったか。本作はそこに至るfacebook創業者の軌跡と人間模様を描いたものであり、それもフィンチャー監督が大部分をフィクションとしてまで表現した物語、だと言えるでしょう。

 

ネタバレをせずに内容を書いていくのは難しいですが、私の感じたところで言うなら、本作は「王に登り詰めた代わりに大切なものを失った男」のお話。普通はまず経験できないサクセス・ストーリーの裏側にあったことの話。

 

主人公を演じるのはジェシー・アイゼンバーグ、『エージェント・ウルトラ』が印象的だった人。冒頭シーンで別れてしまう彼の恋人役はルーニー・マーラ。この出演が名作『ドラゴン・タトゥーの女』へとつながったのかも。

 

そして、物語の発端となるこの2人の会話シーンが本作の大きなポイントです。約5分ワンカットで描くこの会話というか言い争いが。後で調べるとこれは完全にフィクションで、即ち監督にとって重要なシーンなのでしょう。

 

思うに、デヴィッド・フィンチャーという監督はサスペンス・サイコホラー系のヒトだと考える方も多いでしょうが、彼が描きたいのはそうした異常性へ駆り立てられる原因となる出来事、人の心の動きなのかもしれませんね。

 

本作はフィンチャー監督作では比較的「おとなしい」話に見えますが、それは殺人やサイコ的事件が起きないからであり、ただの学生があっという間に億万長者になるという、むしろその方がずっと異常な出来事だとも言える。

 

その異常な出来事においてもやはり何らかの「歪み」が生じているはず、そういう視点で監督はこの物語を描いたようにも思えます。そしてその歪みとは主人公の本性なのか、あるいはただ大きな波に揉まれただけなのか、と。

 

なお、本作と名作『市民ケーン』との類似性を論じた評論を多く目にしました。残念ながら私は観ておりませんが、映画史上の最高傑作だと言う人も多いそうですね。またフィンチャー監督も強くリスペクトしているらしい。

 

また、彼が2020年につくったNetflix映画『Mank マンク』は、映画『市民ケーン』の舞台裏を描いたものだそうです。そう考えると、監督にとってこの映画には『市民ケーン』の21世紀版、という意図があるのかもしれません。

 

ただ、そういうことを知らなくても充分に楽しめる映画になっていると思います。完璧主義者であるフィンチャー監督の厳しい求めに応えた俳優陣の演技もなかなかに素晴らしい。成功劇の光と影を描いた傑作だと感じました。

 

via やまぐち空間計画
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