これまでつくった間取りを語るシリーズ、第34回です。今回は久しぶりに木造3階建、それもおそらく私の経験上最も厳しい条件だったのでは、という家。それだけにとても思い出深い、そんな間取りをご紹介いたしましょう。

 

まず敷地面積が15坪に満たない。そして細長く、間口は5mを切る寸法。ここにお客さまがご要望されたのは「1階に駐車スペースのある、5人家族が楽しく住める家」でした。正直申し上げて、当初は頭を抱えましたねえw。

 

でも、これまでにないチャレンジングな課題だと考えを切り替えてスタート。まずは最初の課題「1階に駐車スペースを確保する」から。間口の狭い木造3階建ではこれが技術的にかなりの難問、それは即ち「壁が無い」から。

 

木造在来工法では耐震要素は主に「耐力壁」が担っています。しかしここでは、1階間口を全て開放しないと車が入らず、人も通れない。この厳しい条件は、耐力壁の代用となる「剛接門型フレーム」を設けてクリアしました。

 

車の両側にある長方形の断面をした柱がそれ。通常よりもずっとゴツい柱と梁を組んで、壁がなくとも耐震強度を保つという木造住宅の強い味方なんです。よしこれで駐車場は大丈夫、でも1階は残りの部屋面積が少なくなる。

 

ほしいのは玄関とトイレとあと1室、あるいは部屋の代わりに水廻り。ここでは四帖半の部屋を設けてご夫妻の寝間とし、階段の途中に手洗場をつくりました。階段の下、手洗い下を立体的に3方から使う収納にご注目ですw。

 

水廻りを2階へ上げたのは、バルコニーデッキを確保して「洗濯物動線」をワンフロアでまとめたいから。面積は2階全部で16.5帖、ここに階段を取り込んだDK、L型キッチン、洗面脱衣とお風呂、サービスバルコニーも確保。

 

ここで、ご家族が「床座」派なのが幸いしました。ダイニングテーブルやソファの類を置くスペースはなく、でも床座なら座卓一つで何でも出来ますから。キッチンには、子供たちがお母さんに向かって座れる席もありますよ。

 

LDKに居る人の空間認識としては、浴室手前の壁までの階段を含めた約13帖が部屋として感じられます。ここに広いバルコニーをアウトドアリビングとして連続させ、少しでも狭苦しさを緩和したい。そんな想いが入ってます。

 

3階は全て子どもたちのスペース。いずれは3つに仕切れるように考えておいて、いまは3人並べるカウンターのある勉強コーナーと、奥でみんな一緒に寝るコーナーに別れているだけ。トイレは1階と3階に分散させました。

 

水廻りで言うと、ここでは上階からの配管を納める「パイプスペース」の面積ですら勿体ないのです。両側のお宅も近接して建っているという敷地条件からも、ここでは外部でカバー付の露出配管として面積を節約しています。

 

この間取りの面積は約22坪。しかし無駄はほぼ無く、空間を使い切った感がありますね。こうした狭小地の住宅ではいわゆる「常套手段」が使い難い分だけ、空間をより緻密に組み立てる能力が試されると言っていいでしょう。

 

私も、狭小地で他に何軒も間取りをつくりました。他にも「鰻の寝床」に間口3mの家をつくったこともあります。厳しい条件に悶え苦しみつつ一方でそれを楽しんでいる、それもまた間取り屋の性なのかもしれませんねw。

 

via やまぐち空間計画
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