趣味の古い器蒐集、なかなか熱は醒めず、ひとつまたひとつと好きなモノが増えていきます。今回は新規加入した変わり種を、写真多めでご紹介しましょう。織部の手鉢ですね。四角い容器に持ち手が付いたタイプのモノです。

 

こういう形状の器は、現代我々一般人の食生活にはあまり登場しない類のもの。それだけになかなか新鮮ですし、この織部の鉢は持ち手の付き方が面白い。長方形の対角線あたりに架かっているのが「動き」を感じさせますね。

 

 

「手鉢」というのはそもそも懐石料理(茶事に出される料理)で使われる容器のようです。懐石料理は「一汁三菜」がルールで、その三菜(向付・煮物・焼物)のうち焼物を入れる「焼物鉢」という平鉢の一種、なのだとか。

 

客全員の分を焼物鉢に入れて出し、客は向付に焼物を取って次客にまわす、という作法だそうで、この「まわす」のに都合が良いからか、手鉢は焼物に好んで使われる容器だといいます。確かに茶席に合いそうな姿をしている。

 

さて用途はそれくらいにして、この手鉢のディテールに迫ってみましょう。織部の四角い容器では、4つの角のうち対角2つのあたりに掛かっているのが常套手段のようです。また緑以外の部分に鉄絵が描かれるのもお決まり。

 

文様はおそらく植物や鳥などを描いたものと思われますが、かなり抽象化されていて何やらよくわかりません。これもまた古田織部以来の伝統なのでしょう。この絵付の配置やバランス、迷いのない描線が織部の魅力なのです。

 

 

形状の方では、単なる長方形でなく中央部に凹の部分を設けているのがポイント。こういう形状を骨董の世界で何と呼ぶのか、また調べることが増えましたw。そして斜めに掛かる持ち手には、三本溝+丸いポッチのデザイン。

 

 

さて、この織部手鉢はいつ頃のものなのでしょう?今回は裏にその手掛かりとなる陶印があったんです。私はこの陶印を知っていて、それもこの器を入手する決め手になったのでした。作者は、二代・加藤作助だと思われます。

 

 

二代・加藤作助は尾張の陶工で、天保15年生、大正12年死去。明治の名工と言われた人です。陶印があると言っても、陶芸家と呼ばれる現代の「作家」とは意味合いが違いますが、つくられた時代は明治頃だと言ってよいかと。

 

実は他にも同じ陶印のある角皿をもっていますが、やはりデザインに共通点がある。成形はともかく絵付はやはり作助本人がやってたのかなあなどと、150年前・尾張での制作風景に想いを馳せるのもまた楽しいものですよw。

 

 

さて、デザイン風合い共に大いに気に入ったこの織部手鉢ですが、残念ながら角皿のように普段の食事で多用する感じではないですね。さほどに私には見慣れない形の容器であり、上手い使い方が今すぐパッと思いつきません。

 

いわゆる「菓子鉢」として使うのもアリですが、もう小さい子のいない我が家ではその必要もなく、蜜柑を盛っておくには小さい。まあそのうちまた出番もあるでしょうし、当面は玄関の飾り、観賞用で楽しむことにしませう。

 

 

via やまぐち空間計画
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