何度かここに書いた「遠方の志事」というのは、古い木造建築の改修工事です。そして今回、また別のお客さまからリノベーションのご相談を賜りました。続く時は続くもの、古い木の家が好きな私には本当に嬉しいことです。

 

最初は「改修可能かどうか」の判断のために伺いましたが、築60年ほどの建物はまだまだしっかりしており、改修で充分住めそうでした。なので2回目は、現状を詳しく知るべしということで建物の実測調査をおこないました。

 

 

建物の外観はこんな感じ。窓は全て木製建具、壁は土壁で、「古民家」の標準的な仕様ですね。築年数としてはさほど古くはないのですが、周囲にも似た感じの家が多くあり、当時このあたりの一般的な建て方だったようです。

 

さて実測調査ですが、まずは間取りを描き起こして各部の寸法を記入していこう、と思ったら、お客さまが「図面が出てきた」と。最初にお伺いした後に見つかったらしく、平面立面断面に伏図まで。いや、これはありがたい。

 

こういう昔ながらの建て方は、大工棟梁の裁量だけで建てることも多い。なので新築当時の図面が有ると無いでは情報量が段違いになります。こちらもプロですし、当時の図面から「設計意図」を読み取ることができますから。

 

しかし部分的にリフォームしている部屋もあり、寸法も微妙に違うところがある。現状間取りを描き起こし、図面と照らし合わせて確認していくことに。また、ご一緒したビルダーさんが冒頭写真の機器も用意してくれました。

 

 

あえて写真を暗くしましたが、緑のラインが見えますでしょうか?これはレーザー墨出し器といって、水平・垂直のラインを周囲に照射してくれる機械です。古い木造では建物が歪んでいることがままあるので、その確認です。

 

ここも2階の一部で水平が保てていない箇所があったので、そこの畳と根太板を剥がし、構造材の状況もチェックしました。原因を把握し、それに対処すべく構造補強をおこなうのもまたリノベーションの大事な項目ですから。

 

今回、この家ならリノベーションが可能と私が感じたポイントのひとつは階段でした。60年前のこうした建て方の家にしては、階段がとても緩やかなんです。階段の穴を広げたり、別の場所にしなくてよいのは構造上有利かと。

 

 

さらっと見ただけの前回と違い、寸法を追いながら詳細に見ていくとやはり様々なことがわかってきます。今は見えないけれどリノベーション後に見せたいモノ、別の場所で再利用したい部材もあり、更に想像が膨らみますね。

 

 

そう、この現況実測調査とは即ち、建物を細かく把握してリノベーションの方向性やおこなうべき項目の優先順位を見出す、そのための「手がかり」を集めることに他ならない。刑事さんによる捜査と似ているかもしれません。

 

リノベーション後にあるべき住まい、そこに役立つこと、活かしたいモノ、あるいは改善すべきこと、強化すべきこと。設計と工事を通しそれらを取捨選択しひとつの形にまとめあげるべく、今は地道に手がかりを集める段階。

 

今回は図面が見られて、また図面と現状との比較からも多くの手がかりを得られました。そこには、古民家とは少し違う様相も見えてきた気がします。さあ、それらで何を紡ぎ出していくか、ここからが腕の見せどころですね。

 

via やまぐち空間計画
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