これまでにつくった間取りを語るシリーズ、第33回目です。今回はかなり特色ある不整形の敷地でして、その条件を読み込んでつくられる間取りも自ずと特徴あるものになったように思います。順次ご説明してまいりましょう。

 

敷地面積は67坪なのですが、図面でわかるように、南の方はしっぽのような実際には使えない部分あり。道路は東と西、しかし西側道路とは3m以上の高低差があり、コンクリートの擁壁が。なので実際の敷地面積は54坪ほど。

 

また、南側には隣家があってあまり日照・眺望ともによろしくない。東側は道路で明るいが周囲から丸見え。西側は高台からの眺望がとても良く、方位が少し振っていることもあって、今回は「西へ開く家」として考えました。

 

西側へ大きく開口を設ける時、場所によっては気をつけるべき点として「夏の西日」があります。横方向から強烈に照りつける西日には、軒や庇も意味を成しません。室内の温熱環境に大きな影響を及ぼし、かつ眩しさも強烈。

 

今回そうした西日対策としてつくったのが「凹型間取り」です。図面を見ていただくと、リビングとダイニング、畳の間がウッドデッキを取り囲む形になっていますね。リビングと畳の間の西側は、開口部を少なくしています。

 

でも、リビングは南側に、畳の間は北側に掃出窓があって、デッキ越しに高台からの眺望を愉しむことができます。ダイニングは西側に窓がありますが、リビングの出っ張りで、西よりも更に北側で沈む夕陽からは陰になる。

 

更にここは高台という立地から、台風の時などは猛烈な風がまともに当たってくる可能性が高そう。西側の窓を絞るのはその意味もあり、デッキには台風時用の可動式の大きな引戸も用意して、暴風を防ぐ手立てとしています。

 

「西に向く高台の家」の工夫を先に書きましたが、改めて玄関から順に間取りを見ていきましょう。玄関は東側道路と西側道路から上がる階段の位置を考慮し建物の北端に東向きで。入ると奥にシューズクロークがありますね。

 

玄関入るとすぐリビングです。そして南にダイニング+キッチン、畳の間とカウンターのあるスタディコーナーへと連続。この敷地だと南側はあまり好条件ではないですが、却って落ち着いた雰囲気になる庭へと開いています。

 

庭の隣は物干場。この家は基本的にオープン外構ですが、物干場は囲みたいとのご希望があり、キッチンから食品庫を抜けてつながる場所に。北側の水廻りからキッチン、物干場まで家事動線は東側に全て並ぶようにしました。

 

水廻り、洗面脱衣室は2方向出入りで階段を含む回遊動線。またちょっとしたポイントですが、トイレの手洗いと3方向からの収納へと一畳分のスペースを振り分けています。こういう部分を考えるのも間取りの面白さの一つ。

 

二階は北側にご夫妻の寝室+ウォークインクロゼット、南側に最大で3つに仕切ることが可能なフリースペース+ロフト。ダイニングテーブルの上は吹抜とし、畳の間は下屋になっているためこの上階からの採光がとても大切になります。

 

最後に吹抜の北側にちょこんと飛び出しているのがご主人の書斎。ここはさすがに西日を受けますが、でも素晴らしい眺望が得られる場所。二畳しかないスペース、でも独り籠もって楽しむには小さい方が良かったりしますね。

 

思うに、「南側に大きな窓」なる固定観念からはこうした間取りはまず出てこないでしょう。敷地がもつ好条件は取り入れ、悪条件を回避する、それを突き詰め考え抜いてこそ、間取りは環境と一体化する。私はそう信じます。

 

via やまぐち空間計画
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