『新九郎、奔る!』  ゆうきまさみ 著   小学館

 

久しぶりに漫画を買いました。前回買ったのが『へうげもの』(全25巻)、その前はだいぶ昔、『ギャラリーフェイク』じゃなかったかな?漫画やアニメは今や世界に誇る日本文化、しかし私好みのものは滅多にないのでして。

 

『へうげもの』は古田織部の物語、『ギャラリーフェイク』はアートを巡る真贋の物語。私の興味はいつも「美しいもの」にあって、最近はそれに「日本史」が加わってきている感じ。それにぴたりと合致したのが本作でした。

 

これは室町の御世、京の都を舞台としたあの「応仁の乱」(1467年~)の物語です。主人公はタイトルにある通り新九郎、伊勢新九郎盛時です。この名前は皆さんよくご存じないかと思いますが、彼は後の北条早雲なんですね。

 

北条早雲と言えば「戦国大名の先駆け」、私などはいわゆる「下剋上」を体現した人物として教科書に載っていたような気がします。しかし近年の研究で、元々伊勢氏という室町幕府官僚家の出身であったとわかってきたそう。

 

私は以前から江戸時代、江戸文化に興味があって色々と時代小説など読んでおりましたが、徐々に興味がその前後へと拡大してきています。一方は安土桃山から室町へ、一方は維新以降の明治、大河『青天を衝け』の時代へと。

 

明治の方はまだしも、室町時代から安土桃山時代となると、江戸時代と同じくらいの年月があるんですよ。自分の意志で学ぶ日本史は、学生の頃の勉強とは全く違う景色を見せてくれますが、それでもまだまだ先は長いのです。

 

特に室町幕府が衰退し全国の守護大名たちが争いはじめ、そこから戦国時代へと至るあたりはとにかく混沌として全体像がよく見えない世界だと感じる。素人がそれらを咀嚼するには、漫画は非常にありがたい手段なのですね。

 

漫画は小説に比して情報量が段違いに多い。絵に描かれた人物達が動いて歴史の物語を紡いでいってくれるのですから、わかりやすいことこの上ない。『パトレイバー』以降、その画力を評価している著者ならそれは尚更です。

 

ということで本作は、久々に全巻揃えるつもりで私が買うコミックスと相成った次第。現在8巻まで刊行されていますが、私はまだ2巻までしか読んでおりません。物語は少年・新九郎が元服しついに応仁の乱が始まるあたり。

 

時の将軍は八代足利義政。将軍の下にいる政務のトップたる管領、軍事・警察を担当する侍所、財政を担当する政所、事務方・奉行衆などの室町幕府の機構、そして各々を家業とする「家」を知らないと物語が理解できません。

 

そうした面も漫画のわかりやすさは絶大です。本作は「時代漫画」ではありますが、史実はそのままに細部は色々と脚色され、表現も工夫されています。読み手の理解を促そうとする意図があちこちに見えて、とても親切かと。

 

皆さんは昔のアニメ『一休さん』に出ていた将軍様の家来「新右衛門さん」を覚えておいでですか?彼の息子、同じく蜷川新右衛門親元は伊勢氏の家来で、彼が物語中に挟む「室町コラム」なる解説コーナーまであるんですよ。

 

このように、私がよく把握していなかった応仁の乱、室町幕府の混沌と衰退を知るにこれほど素晴らしい教科書はないかと。それでもじっくりと噛み砕きながら読むと一冊に一時間かかる、さほどに濃厚な中身だと感じますね。

 

こういう好著は読み急いではいけません。第3巻はまだ買わずに、この2冊を何度も読んで細部まで頭に落とし込んでから次に進みましょう。私がそんなことを考える漫画は初めてで、まさに歴史好きには垂涎の作であります。

 

 

 

via やまぐち空間計画
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