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『トゥモロー・ワールド(原題:CHILDREN OF MEN)』 アルフォンソ・キュアロン監督 2006年英・米合作
色々と映画を観る中で、やはり何人かは常に気になる映画監督がいます。例えばクリストファー・ノーラン、例えばデヴィッド・フィンチャー。そしてあの傑作『ゼロ・グラビティ』で知った監督がアルフォンソ・キュアロン。
『ゼロ・グラビティ(原題:Gravity)』にはとても大きな衝撃を受けました。登場人物ほぼ2名で進む宇宙でのドラマ、冒頭20分ほどもあるワンカットのシーンの見せ方、主演サンドラ・ブロックもとても良かったと思います。
今日ご紹介するのは、同監督の過去作。アマゾンプライムビデオには無いのですが、SF映画だと知って矢も盾もたまらずNET注文しました。キュアロン氏は『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』の監督でもあるそうですよ。
本作の舞台は2027年イギリス、もう6年後ですね。いわゆる近未来SFというジャンルですが、残念ながら良き未来ではなく、むしろ終末に向かってゆく世界を描いている。それはすなわち「子どもが生まれない世界」です。
ネタバレはいけませんが、これはどの映画紹介にも書かれていることなのでOKでしょう。人類に子供が誕生しなくなってもう18年という、全く未来への希望がもてない世界が舞台です。そして社会はもはや崩壊しかけている。
主人公セオを演じるのはクライヴ・オーウェン。別のSF『ANON』でも主役だったし、SF作品でよく見る俳優さんで、なんというか「無気力、諦めムードに見えてその奥に熱いものをもっている」感じの役が似合う人ですね。
そしてイギリスが誇る名優マイケル・ケインも出ています。しかも彼には珍しいヒッピー風スタイルの元フォトジャーナリストで、森の奥に隠れて住んでいるという設定。英国ですらもう町に住めないほどい治安が悪いのです。
各地で紛争が起き、軍が常に出動して銃撃戦の場面も多い。英国への不法入国者である難民たちは非人道的な扱いを受けている。「子どもが生まれないこと」とはこれほどの事態を生むものだろうか、最初私はそう感じました。
でも、その理由は「子どもが生まれないから」それ自体ではなく、それにより人類皆がもはや未来に絶望しているから、なんですね。そこに思い至ると、繰り広げられる凄惨な場面も納得でき、監督の意図が伝わる気がします。
冒頭の写真はもう結末に近い場面ですが、そんな危険な世界にあって、主人公はこの女性を守りつつ逃げることになります。この映画の宣伝文句は「2027年、人類の存亡をかけた戦いが始まる」で、彼の逃避行がそれにあたる。
逃げる理由は彼女を「Human Project」という組織に引き渡すためで、それはある反政府組織による計画でした。彼は自分の意思に反してその計画に巻き込まれていきます。政府軍との戦闘状態の中を、港へと向かう主人公。
これ以上は完全にネタバレですので控えますが、彼が自分の意思を翻したのも、写真で周囲の兵士が攻撃の手を止めているのも、同じことが理由です。皆さんにはもうおわかりかと思いますが、それが本作の描く光なのですね。
銃撃の音がやんだ静かな戦場の中を、ゆっくりと進んでいく主人公たち。そこにひとつだけ鳴り響いている音、それを立てるものこそ、誰もが同様に理解している「希望のかたち」であり、それはなんとも感動的な場面でした。
私自身は最初、正直言ってその極端な背景設定に「?」も感じたのでしたが、その世界表現には説得力がありましたし、また鑑賞後には大いに考えさせられる映画でした。ある意味ではとても美しい映画だったと思う次第です。