我が趣味の古い器集め、これも長く続けているといくつか「狙い」が出来てくるものです。前々回にご紹介した古志野の向付もしかり、「ああいうものをコレクションに加えてみたい」と思いつつヤフオクを渉猟する類のモノ。

 

今回、またひとつそうした狙いのモノが私の手元に来てくれましたのでご紹介をば。画像がそれ、「古伊万里染付霊芝文茶碗」です。口径三寸五分、高さ一寸七分、時代は不明ですが絵柄から察するに江戸末期かと思われます。

 

 

この器、まず特徴的なのがこの外側にびっしりと描かれた文様です。全体をいくつかのマスに区切ってその中に植物を描いているのですが、その区切り自体もくねくねと曲線で構成され、植物もまた独特の表情をしています。

 

こういうタイプの絵柄を古伊万里では「霊芝文(れいしもん)」あるいは「薺文(なずなもん)」と呼んでいますね。この文様の器を入手するのが我が収集のテーマのひとつでして、ようやくお気に入りのモノに出逢えました。

 

この文様の器を探していた理由は、一年前に佐賀へ旅行にでかけた時、九州陶磁文化館のカフェで遭遇した器に惹かれたから。そこでは古伊万里収集で有名な「柴田コレクション」と同手の古い器が実際に使われていたんです。

 

 

それがこの皿。「染付仙芝祝寿文小皿」と書かれてありました。このくねくねとした区切りと特徴的な植物文様に強く惹かれ、いつかは自分も、と思っていたんですね。そこから一年、皿ではなく茶碗で実現できたという次第。

 

カフェで見た皿は、円周を10等分した区切りに絵を描いています。その後もヤフオクで何度もこうした文様の器に出会いましたが、ここまで細かく割って描ききった逸品は全くない。多くは6等分ほどの大雑把なものなんです。

 

また、絵のタッチも好みのものが現れない。まあ気長に探そうと思っていた矢先にこの茶碗です。器が小さい割に8等分で、絵のタッチも迷いなくなかなかグッド。入手してじっくり堪能しつつ、その文様も調べてみましたよ。

 

元の皿の「仙芝」は「霊芝」と同義らしい。霊芝とは、現在ではマンネンダケというキノコのことを言ったり、あるいは「白鶴霊芝」という別の植物を指したりするようで、これらは共に漢方では妙薬とされているものですね。

 

しかし、器の絵柄はそれらとは似ても似つかない姿をしています。色々調べて私が思うに、ここに描かれた「霊芝」は、中国に古代から伝わり皇帝だけが摂ったとされる伝説の植物、その「想像図」なのではないでしょうか。

 

霊験あらたかなその植物の絵が一種の「吉祥文様」として扱われ、器に描かれた。一方で漢方での効果高い生薬にもその伝説の植物の名がつけられた、そういうことではないか。無論想像に過ぎませんが、それなら説明がつく。

 

では、なぜ「薺文」あるいは「薺手(なずなで)」とも呼ばれるのか。「霊芝文」は元々中国の明代で使われた文様らしく、それが伊万里に移植された際にこの呼び名が出来たと言いますが、その謎はまだ解明できていません。

 

でも、私にとっての古い器集めとは、そのものの美しさを愉しむと共に、こうした「歴史探索」がおのずとそれに付随してくるところが何とも言えない愉しみなんです。器の産地、技法、呼び名、形状、その入口は数限りない。

 

大袈裟に言えば、こうして器を皮切りに歴史の海へダイブすることもまた、我々日本人を知るひとつの有り様ではないでしょうか。私は日本人が継承してきた木造を生業にしていますが、それにもきっと役立つと感じるんです。

 

via やまぐち空間計画
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