古い器集めを趣味として始めてから、もうすぐ2年になります。ヤフオクという新しいマーケットの存在を知った私には、得意の「収集心」を駆使してその大きな海の中を渉猟するのが楽しく、飽きずにずっと続いていますね。

 

そんな中、今まで幾度もヤフオクに出品されながら、あまりに値が高騰するので私には手が届かなかった器があります。実は今回、上手く幸運が重なりその類の器が手元に来てくれました。画像がそれ、「古志野筒向」です。

 

上部二寸二分角、胴部径二寸五分、高さ二寸六分。下部が丸く口辺に向かって徐々に四角くなっていく形状、そして胴部にはいくつも凹凸があり、各辺に二つずつ二分ほどの丸いチョボも付いて、なんとも可愛らしい姿。

 

時代はおそらく江戸初期くらい。そして、何と言っても素晴らしいのはその絵付です。2面に草花、そして建物か竹垣のような縦横の文様、もう一面には鳥たちが描かれていて、そののびのびとしたタッチが実に素晴らしい。

 

「筒向(つつむこう)」というのは筒型の向付(むこうづけ)ということで、本来は茶懐石で膳の向こう側に置かれる小鉢の類ですね、その筒型のもの。この形状でチョボ付の志野は、骨董好きにとても人気の品なんですよ。

 

まして、2年間何度も落札を逃した末にようやく対面できた古志野筒向ですから、もう私にとっては宝物のような逸品。入手して何日間も眺め回して愉しんでいましたが、そのあと実は、宝物ならではの悩みに直面することに。

 

その悩みとは「洗浄」です。上の画像のようにかなり「古色」が付いている。具体的には「貫入」と呼ばれる釉薬の細かい亀裂の奥にまで長年の汚れが入り込んでいるんですね。器全面に網目が入ったような見た目なんです。

 

一般的にはこの「古色」こそ骨董好きが珍重する「ありがたみ」だとされていて、私もそうした時を経た風情を美しいと感じる人間のひとりです。でも、器漁りを続ける中で、また別の考え方もあると思うようになりました。

 

それは「これをつくった陶工の眼」に遡って見てみたい、という願望です。古色をある程度洗浄すれば、この器が出来た当初の姿に近づくことになる。さあ、この古志野のこの風情を活かすか、洗浄してリフレッシュするか!?

 

ちなみに今まで入手した器の場合、磁器であれば必ず洗浄しました。具体的には塩素系洗剤で洗うのですが、磁器は表面がしっかりしており器を傷めず洗えるからです。でも陶器の場合は、時に風情が全く喪われる場合も....。

 

いや、つまらん骨董好きの悩みを吐露し申し訳ありません。結果的にはこの古志野は洗浄しました。理由はふたつ。ひとつは日々これを使うことにしたから。宝物なればこそただ飾るのは逆に勿体ないことだと考えました。

 

もうひとつは先日の通り、この素晴らしい絵付を当時に遡って見てみたい、その願望に勝てなかったからです。表面を網目のように覆うこの貫入が薄まるだけで、絵がぐっと前面に出てくる、それを見ながら日々使いたい、と。

 

とは言え、あまり強くやり過ぎて風情が全く喪われるのも正直言って怖いw。だいぶ気をつけながらキッチンハイターを使い、結果的にはまずまず及第点を上げられる程度には仕上がったかと思います。それが下の画像です。

 

いかがでしょう、網目が薄まり絵付が更に鮮やかに良く見えるように。この古志野を私は湯呑み、そして焼酎呑みに使う予定です。こうした時を経た逸品を日々己の友とする暮らし、それもまた骨董が齎す「豊かさ」でしょう。

 

via やまぐち空間計画
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