私がつくった間取りについて語るシリーズも、もう10回目ですね。自分でも毎回、その間取りを考えていた時のことを思い出すのがなかなか楽しいこの連載、今回はごく普通の2階建てとはだいぶ違うタイプかも。

 

皆さんは「スキップフロア」という建築の用語をご存知でしょうか。普通は1階の上に2階が乗るものですが、そうではなくて部屋と部屋が「半階」ずつずれてつながっていく間取りのことです。

 

今回は120坪という広い敷地の中に、ほぼ平屋で少しスキップフロアという少し変わったタイプのお宅。ご夫婦2人のための住まいで、特徴的なところは、お仕事柄大量にある蔵書のための書庫でしょう。

 

LDKとご夫妻それぞれの寝室、水廻り、書斎と書庫、ゲストルーム的な予備室。これらを配置していくにあたって、私は敷地の高低差に着目しました。前面道路は坂で、その端と端では約2mもの段差がある。

 

できれば全部が平屋でおさまるのもよいのかもしれませんが、そうなると一番高いところに合わせて地盤を調整するため、擁壁などの土工事に費用がかかり過ぎそう。それに、書庫の室内環境としても向いてない気が。

 

そこで思い浮かんだのが、半地下になった書庫の上に書斎を設けて、生活空間と仕事の空間を分け、仕事の側をスキップフロアで生活空間側につなぐ、というアイデアです。駐車場の奥がちょうど半地下側の入口に。

 

このアイデアによって、仕事場と家とは半階ずつの階段でつながれることに。それがちょうど「気持ちの切替え」にもいいのでは、という思いもあったんですね。書斎は畳敷きに文机を置いて、という使い方です。

 

次に生活空間側。平屋で問題になるのは、家の中央部が暗くなったり、風が通りにくくなったりというところだと思います。なのでここではLDKを「北の庭」と「南の庭」の双方に面するようにしました。

 

キッチンは昨今多い「対面オープンキッチン」ではなくて、部屋になった台所です。こういうタイプの方が落ち着いて調理が出来るという方も多くて、それもまたひとつの考え方。決まりはありませんから。

 

水廻りもキッチンの隣の南側にあって、物干場に連続します。でもLDKから物干場はほぼ見えない。キッチンが少し出っ張るだけでそうなっていること、おわかりでしょうか。あと浴室にもバスコートが。

 

そして2つの寝室の間にはあえて「西の庭」を設け、どちらの部屋からも楽しめるようにしています。そしてトイレも2寝室の間。この位置関係は寝室完全分離の少し手前、なんとなく気配は伝わるという感じかと。

 

玄関は格子の引違い戸で和風な感じ。そして玄関入ったところのホール的な場所と、先程のトイレの手前の廊下に天窓(トップライト)が。これは平屋で中央部が暗くなりがちなのに対処したものです。

 

トップライトも間取りの採光を補うのに時々使いますが、私が守っているルールは「南向きの屋根には天窓を付けない」ということです。夏、暑くてたまりませんから。基本的に棟より北側の屋根に設けていますね。

 

平屋の間取りには2階建とはまた違うノウハウが必要になると思いますが、私としては出来れば正方形に近い間取りは避けたいと思っています。日照採光や通風の面であまり上手く行くとは思えませんから。

 

それより多少デコボコしても例えばT字形とかH字形とか、そういう感じの方が室内環境はよくなる気がします。今回のスキップフロアも、敷地形態を活かしつつ無理なくそれぞれの室内環境を整えた結果とも言える。

 

広い敷地だとお庭が多くとれますが、それも画一的なものでは面白くありませんね。家を取り巻くいくつもの「余白」、その役割分担を想定した「土地利用計画」の妙がこの間取りにも活きているかな。

 

昨今、平屋に住みたいという方が多いと耳にします。同じ面積なら2階建より3階建てより費用が嵩むのが平屋ではありますが、たしかに魅力ありますよね。私もまた平屋の家、つくってみたいです。

 

via やまぐち空間計画
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