S君、営業成績1位おめでとう。社長直々にほめていただけるよ、楽しみにしていなさい。
上司が言った。そう言われても何がいいのかちっともわからない。
夜、指定された場所に行ってみたが、広くて何もないがらんとした所だ。あたりは暗く、心細い。
向こうから作業服姿の女が近づいてきた。社長だった。
S君がんばっているようね。今日は遊覧飛行に連れて行ってあげる。
小型機に乗るようにうながされ、言われるままに乗り込んだ。
機は離陸し、夜空を上昇した。眼下に夜景が広がり、宝石のように輝いている。
どう、空を飛ぶ気分は。社長が話し始めた。
私ね、パイロットになりたかったの。そのための学校に行って卒業し、内定ももらっていたわ。
でも、リーマンショックのせいで入社が延期になった。
Sは社長の意外な経歴に驚いていた。社長はなおも続ける。
就職浪人していた時、実家の工場が倒産の危機になった。私は迷ったけれど、実家に帰ることにした。
家族で協力して何とか会社は持ち直した。それから数年たって、私は今の会社を立ち上げたの。
でも、空を飛ぶ夢はあきらめたくなかった。
今、こうして自家用機であなたたちと飛ぶことができて、本当に良かったと思うわ。
これからつらいことがあるかもしれないけれど、夢はあきらめずにいれば何とかなるものよ。
社長の日に焼けた横顔に、白髪のおくれ毛が揺れていた。