夜話千46 久留米警察署で虐殺された西田信春 | 善知鳥吉左の八女夜話

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夜話千46 久留米警察署で虐殺された西田信春 


西田の祖父は奈良県十津川の人 明治維新に先駆けた十津川郷士のことは あこがれ話として しばしば触れた
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明治中期 再三の水害を避け ここのひとたち数戸は北海道に居をうつし その地に新十津川という村を作った 

西田信春は明治三十六年そこで十津川郷士の流れをくむ者として生まれた 西田の父は村長などの要職を務めた

札幌第一中学校・第一高等学校を経て東大入学 やがてマルキストとして新人会に入会する

東大卒業後 昭和二年 全日本鉄道従業員組合本部職員になり日本共産党に入党した 

そのころ彼の周りには中野重治・石堂清倫・原泉らがいたということは 党内の彼の位置の重要さがわかる

昭和七年に党再建のために九州にきて九州地方委員会委員長になる 

そのころ筑後で後年 芥川賞候補になった若き日の牛島春子らと知り合う 

十九才の牛島は西田のことを「大きな声も激した調子も怒った顔も一度もみたことはなかつた いつも小声でやさしく和やかな目つきだつた」と語っている 牛島にとつて西田は眩しい同志だったようである

昭和八年十二月 筑後市船小屋での九州地方委員会の後 スパイの密告で西鉄久留米駅前で西田は逮捕される 
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その他の九州での逮捕者は牛島春子も含む五百八人だった 


逮捕直後 西田は久留米警察署で拷問をうけ虐殺された 亨年 三十

作家小林多喜二が特高により虐殺される十日前の昭和八年二月十一日のことだった

福岡警察署説もあるが 最近岩波書店から刊行された川西政明の『新・日本文壇史』によれば逮捕された久留米警察署で虐殺されたという 

戦後九大法医学教室教授による死亡解剖鑑定書が発見された

それにより中野・石堂は「細引きで縛った西田を階段から下に突き落としそれを階段をひきずって引きあげ また落とす これを四五回繰り返して殺したのだろう」と昭和四十五年刊行の『西田信春書簡追憶(中野重治・石堂清倫・原泉編』で語っている

 

戦後 遺骨は福岡市内の顕乗寺の無縁墓地に葬られていることも判明

毎年「西田を偲ぶ」催しが行われているという(敬称略)

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