「山里に生きる―奥武蔵の片隅『ゆずの里』よりー」
~その25

第二十五話 野生鳥獣よる農作物被害と野生生物の保護と管理

1 はじめに
 本ブログでは、第21話より4回に渡って、奥武蔵とその周辺における廃校とその現状について見てきました。今回は、野生鳥獣による農作物被害と野生生物の保護と管理についてまとめてみました。このテーマを設定したのは、昨年(2023年)の水稲栽培において、雑草(主にヒエ)の繁茂により、古代米の収穫量の大幅な減少を招いてしまいました。それが8年前(2016年)のイノシシによる水稲被害を思い出させたからです。こうしたことから、今回は、その8年前のイノシシによる水稲被害についてまとめてみました。イノシシやシカなどの野生鳥獣による農作物被害は、ここ奥武蔵ゆずの里だけに限られた問題ではありません。そして、野生鳥獣による農作物被害や野生生物の狩猟、捕獲といった事柄は、野生動物愛護とその管理といったこととも密接に関連しています。そこで、今回のブログでは、Ⅱで8年前の水稲栽培におけるいのしし被害の実際について、Ⅲでイノシシの特徴について、Ⅳで全国の野生鳥獣による農作物への被害の状況について、Ⅴで野生生物の保護と狩猟について見ていきます。

Ⅱ 水稲栽培におけるいのしし被害の実際
❶ 山里(中山間地)における野生鳥獣による農作物被害 
 ところで、本ブログの第2話では、中山間地域等支払い制度の中身と令和最初の中山間地域における稲の収穫の様子についてまとめてみました。第8話では、山里における水稲栽培の一年についてまとめてみました。そして、ブログ第15話では、1年間に渡って、水稲栽培の具体的な取り組みをできるだけ丁寧に記録してみました。イノシシによる被害にあった水田は、写真1から写真12までの画像からも読み取れるように、周りを山で囲まれた中山間地域にあります。イノシシやシカによる農作物の被害は、この地域でもあちこちの農家から報告されています。たとえば、「3月ともなると竹の子が出る前に地中の芽をイノシシに食い荒らされてしまった」「ミミズなどを探して食べるために、畑地やその周辺の土手が元の形状が分からなくなるほどイノシシに掘られたり、崩されたりして、荒らされてしまった」「植えた柿の若木の根元近くの皮をシカに食べられて、枯れてしまった」といった報告は、あとを絶ちません。こうしたことから、農家の人々は少しでもイノシシやシカによる農作物被害を減らすために、耕作地や農作物の周りにトタン板やネットなどを張り巡らして、イノシシなどの侵入を防ぐ努力を行っています。それでも効果が見られないこともあります。電気柵の設置(仕掛け)も獣による被害を防いでいく、万能なものとはなってはいないようです。こうした中にあって、猟友会の方々の存在を忘れてはならないと思います。その方々の努力・尽力があって、ここの地域においても、農作物に多大な被害を与えるイノシシなどの数の減少は確かで、そのことが、農作物被害を大幅に減少させている大きな要因の一つになっていると思います。


➋農作物(米)の被害
 では、8年前(2016年)のイノシシにより被害のあった水田は、実際どのような場所にあるのでしょうか。被害のあった水田は、先にも、触れたように、山や森、川、道路で囲まれた山里(中山間地域)の中にあります。いずれの水田(田んぼ)も、写真のように、狭小で不整形で、階段状に並んだ小さな棚田であるといってよいでしょう。ここで、作付けしている田んぼは6枚ですが、面積は合計しても僅か13アールしかありません。さて、被害のあった田んぼは、どのような場所にあるのか、もう一度確認しておきましょう。写真5や写真8、写真9、写真10からも分かるように、いずれの田んぼも、コンクリートブロックが高く積まれた急な法面の道路や河川などにより、囲まれた内側にあります。河川側のブロックの上には、しっかりした金網ネットが張られています。そして、ブロックが積まれていない道路沿いの法面には、そこからイノシシが侵入できないように、金網やメッシュネットを張り巡らし、トタン板などを要所、要所に置くなどして、イノシシの侵入を防ぐ対策を事前に講じています。これだけ見ても、イノシシが田んぼに入ってくることは、普通ならば極めて困難であると考えられます。にもかかわらず、8年前はイノシシの侵入を防ぐことができませんでした。しかも、出穂し、穂が出揃い、垂れ始めたこの時期にイノシシが田んぼに入ってくるとは、想ってもいませんでした。


➌被害のあった水田の様子

写真1 イノシシが歩いた道(矢印の部分)   左:下流方面、右:上流方面

 イノシシは夜やってきて、稲穂を食いちぎりながら、水田を荒らし廻った様子が、どの写真からも見て取れます。明るくなる前には、この場所を去っていったようです。写真1や他の写真からも、イノシシは、歩き廻りながら、田んぼを荒らし廻った様子が見てとれます。写真4は、稲穂がイノノシにより食いちぎられた田んぼの様子です。イノシシは、稲穂をくいちぎり、といっても全部食べてしまった訳ではありません。その下に、もみ粒やもみ粒が付いた稲穂を多量に落としていました。いずれにしても、周りの稲穂を押し倒したりしながら、何頭ものイノシシが同時にあちこちの田んぼを歩き廻りながら荒らし廻ったことは確かなことです。とくにひどいのは、写真5です。それからも読み取れるように、田んぼは、壊滅状態となっています。これほど荒らされると、田んぼに刈り取りの機械(バインダー)を入れる意味がありません(写真6参照)。翌日荒らされた田んぼを調べてみると大小さまざまな足跡が無数に残っていました。歩幅の広いもの、狭いものなどがありました。おそらく、大人のイノシシ、子どものイノシシ合わせて、3頭から4頭、あるいはそれ以上のイノシシがやってきて、荒らし廻ったのではないかと考えています。なお、その年の米の収穫量は例年の半分ほどの5割くらいではなかったかと記憶しています。もちろん、先にもふれた通り、イノシシは5割もの米を食べてしまった訳ではありません。むしろ、減少の大きな部分は、食べながら、自然に落ちた(あるいは落とされた)多量のもみ粒やもみ粒のついた稲穂にあると考えています。

 
写真2 荒らされた田んぼ        写真3 荒らされた田んぼ

 
写真4 食いちぎられた稲穂      写真5 壊滅状態となった田んぼ

 
写真6 荒らされた田んぼに機械を?   写真7 天日干し後の田んぼの様子

➍イノシシの侵入をなぜ防げなかったのか
 被害のあった田んぼは、既述の通り、そのほとんどがかなり高いコンクリートブロック積みの道路(写真3、写真5)や河川(写真8、写真9、写真10)で囲まれた中にあります。加えて、コンクリートブロックが積まれていない所には、前もって金網などをしっかり張り巡らして、イノシシの侵入を防ぐ対策を講じておきました。ですから、普通だったら道路側、河川側いずれの方向からもイノシシが侵入してくるとは考えられませんでした。とくに、河川側は両岸ともコンクリートブロックが高く積まれた、急な法面となっています。しかもコンクリートブロックには、足をかける場所も少なく、かけてもすべりやくなっています。こうしたことからも、河川側からイノシシが100%侵入してくるとは考えてもいませんでした。イノシシによる被害があった翌日、もしかしたらと思い、まずは道路側の張り巡らした金網やトタン板のところあたりを見て周りましたが、イノシシが侵入した形跡は全く見つかりませんでした。どこから侵入したのだろうかと考えていたところ、たまたま通りかかった近所の人が「前の川の方から入ってきたのではないの?」と話しかけてきました。それは一番安全だと思っていた側でもあり、まさかと思いながら、聞いていましたが、しかし、念のため、調べて見れば、まさにその通りでした。イノシシは、前の山・森からやってきて、沢水が河川に流れ込み、ブロック積が低くなっているところを駆け下りて(写真8参照、矢印部分)、そのまま、上流方面に向かって河原を歩いていったことが、河原に残された無数の足跡から判りました。そして、土砂が堆積し、法面が低くなったところまで来ると(写真9の上の矢印部分)、イノシシは、コンクリートブロック積の法面を一気に駆け上がっていったのでした。写真10の土砂が堆積し、法面が引くなった場所には、かなり広い範囲に渡って、無数の足跡と後ろ脚で蹴ったときにできた、深く大きな穴がいくつも開けられていました。また、コンクリートブロック積の途中(ちょうど真ん中辺)には、無数の汚れが見られました。イノシシは、下で一歩、二歩助走し、ブロックの途中で一度足をかけて、一気に駆け上がっていったのでしょう。


写真8 山側の沢から河原に駆け下りた場所 写真9 河原の様子(上は土砂堆積部分)


写真12 土砂が堆積した辺りの様子  写真11 被害後侵入した穴をトタン板で塞ぐ

 コンクリートブロック積みの法面を一気に駆け上がったイノシシは、その後、幅40cmほどのコンクリートブロックの上を歩き、開けた金網の穴(写真12参照など)から、田んぼに入っていったのでした。イノシシは、歯(小臼歯)などを使い、金網を少し切り、切れたところに鼻を入れ、その力で、少しずつ穴を大きくしていったのではないかと思います。イノシシが出入りした穴は、3箇所ありました。一つ目は写真11のトタン板が置かれところの穴と二つ目は写真12の穴です。三つ目の一番大きな穴は、さらに上に進んだところにありました(画像はありません)。大きなイノシシはここを出入りしていたのではないかと考えています。既述の通り、荒らされた田んぼや河原、土砂が堆積したところには、大きさや形の異なるさまざまな足跡が無数にありました。このことからも、少なくとも3頭から4頭あるいはそれ以上の大人と子どものイノシシが、日没後に、集団でやってきて、田んぼを荒らし廻ると、夜明け前には、来た道を通って、帰っていったのではないかと考えています。


写真12 破られた金網

 なお、写真8、9,10、11、12は今回のブログをまとめるにあたって記録したものです。8年前の様子は、写真8、写真10などと、基本的に変わりなかったと記憶しています。なお、被害のあった翌日に、イノシシが出入りした穴3箇所にトタン板や番線(太い針金)などを使って、イノシシが出入りできないような対策を講じました。その結果、以降、イノシシの侵入はありませんでした。

Ⅲ イノシシの特徴
「上越市環境政策課のイノシシ」の資料によれば、イノシシの特徴を次の様に整理しています。
⑴生息環境
 イノシシは一般的に、農耕地と樹林帯が混在する里山の雑木林を好むとされています。身体を隠すことができる草むらや藪、耕作放棄地を好んで利用し、手入れがされていない道路や法面、河川の緑地帯は移動ルートとして利用されやすい。
⑵活動時間
 基本的には昼夜問わず活動しますが、人を警戒しているときは、日没後から夜間に活動が活発になる傾向があります。
⑶食性
 植物が8割を占める雑食性で、どんぐり等の堅果類、草本類やその地下茎、根などの植物の他、昆虫、ミミズ、ネズミ、ヘビ等の動物も食べます。農作物ではイモ類、水稲、タケノコ、柿、栗等が被害を受けやすい。
⑷繁殖
 満2歳で初産を迎え、繁殖可能なメスは、4~6月頃に毎年2から7頭(平均4~5頭)を出産します。春の出産に失敗した場合、秋にも出産を行う場合があります。野生下での平均寿命は10歳前後といわれています。
⑸性格
 通常は警戒心が高く、臆病で注意深いですが、危険を感じたときや過剰に興奮した際には、攻撃的になる場合があります。また、人や人の生活環境に慣れると行動が大胆になる場合があります。⑹知能
学習能力や記憶力が高く、人の活動や人が設置した構造物を学習し、柔軟に行動を変化させることがあります。
⑹身体的特徴
 鼻は、優れた嗅覚を有する感覚器としてだけでなく、地面を掘り起こしたり、重い石等を動かしたりする際に使用します。鼻の力は非常に強く、時に50~70キログラムの物を動かすことがあります。跳躍に優れ、助走なしで1メートルの高さの構造物を乗り越えることができますが、地面から上に20センチメートル以上の隙間があれば、潜り抜けようとします。成獣は犬歯が発達しており、犬歯の側面は鋭利な刃物のような形状であるため危険です。

Ⅳ 全国の野生鳥獣による農作物への被害の状況
1.全国の野生鳥獣による農作物への被害状況
 全国の野生鳥獣による農作物への被害状況について(令和 3年度のの場合)、農林水産省は、以下のように報告しています。被害状況は、都道府県からの報告(都道府県は市町村からの報告による)を基に、農林水産省がまとめたものです。
令和3年度の野生鳥獣による農作部への被害は約155億円(前年度と比べると▲5.9億円)、被害面積は、約3万3千ha(同▲1万ha)、被害量は被害量は約46万2千t(同+2千t)
となっています。主要な鳥獣別の被害金額は、イノシシ(被害額39億円、前年度と比べると▲6.4億円)、サル(同8億円、同▲1.0億円)、カラス(同13億円、前年度と比べると▲6.4
億円)、サル(同8億円、同▲0.7億円)で減少する一方シカによる被害は同61億円と前年度より4.6億円増加しています。


表1 全国の野生鳥獣による農作物被状況(令和3年度)

Ⅴ 野生生物の保護と狩猟について
1.「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)の概要
 「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)は、昭和48年に議員立法で制定された法律です。その後、平成11年、平成17年、平成24年、令和元年に議員立法により主たる法改正が行われています。法律制定の目的は、動物の愛護と動物の適切な管理(危害や迷惑の防止等)に大別できます。この法律の対象動物は、家庭動物、展示動物、産業動物(畜産動物)、実験動物等の人の飼養にかかわる動物となっています。
 この法律では、すべての人が「動物は命あるもの」であることを認識し、みだりに動物を虐待することのないようにするのみでなく、人間と動物が共に生きていける社会を目指し、動物の習性をよく知った上で、取り扱ように定められています。そのため、動物の飼い主は、動物の種類や習性等に応じて、動物の健康と安全を確保するように努め、動物が人の生命等に害を加えたり、迷惑を及ぼすことのないように努めなければなりません。また、みだりに繁殖することを防止するために不妊去勢手術等を行うこと、動物による感染症について正しい知識を持ち、感染症の予防のために必要な注意を払うこと、動物が自分の所有であることを明らかにするための措置を講ずること等に努めなければならないとされています。

2.愛護動物とは
 先の「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)第44条によれば、愛護動物とは、古くから家畜やペットとして普及していた牛、豚、メン羊、ヤギ、犬、ネコ、イエウサギ、鶏、イエバト、及びアヒルの他、人が占有している哺乳類、鳥類及び爬虫類が定められている。この中で、人が占有しているという限定は、ペットなど飼育しているものを想定した表現に基づいている。これらの動物をみだりに殺害したり、傷つけたり、虐待、遺棄することは、動物愛護管理法の目的の根幹を揺るがす行為となり、罰則が課せられる。なお、この規定は野生状態にある動物を対象とするものではなく、1918年制定の鳥獣保護法の対象となる野生化したノイヌ、ノネコ、ノヤギなどは愛護動物法の対象に含まれないとされています。

3.鳥獣保護管理法の概要
❶鳥獣保護管理法の目的
 「鳥獣の保護管理並びに狩猟の適正化に関する法律(以下鳥獣保護管理法という)は、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化を図り、もって生物の多様性の確保、生活環境の保全及び農水産業の健全な発展に寄与することを通じて、自然環境の恵沢を享受できる国民生活の確保及び地域社会の健全な発展に資すること」を目的とされています。したがって、この目的を達成するために、この法律の中に、鳥獣の保護及び管理を図るための事業の実施や猟具の使用に係る危険の予防に関する規定などが定められています。


➋鳥獣保護管理法の対象となる野生鳥獣
 日本に生息する鳥獣約700種のうちから、狩猟対象としての価値、農林水産業等に対する害性及び狩猟の対象とすることによる鳥獣の生息状況への影響を考慮し、鳥獣保護管理法施行規則により次の46種類が選定されています。
【鳥類(26種類)】カワウ、マガモ、カルガモ、コガモ、ヨシガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、ハシビロガモ、ホシハジロ、キンクロハジロ、スズガモ、クロガモ、エゾライチョウ、ヤマドリ(コシジロヤマドリを除く)、キジ、コジュケイ、ヤマシギ、タシギ、キジバト、ヒヨドリ、ニュウナイスズメ、スズメ、ムクドリ、ミヤマガラス、ハシボソガラス、ハシブトガラス
【獣類(20種類)】タヌキ、キツネ、ノイヌ、ノネコ、テン(ツシマテンを除く)、イタチ(雄)、シベリアイタチ、ミンク、アナグマ、アライグマ、ヒグマ、ツキノワグマ、ハクビシン、イノシシ、二ホンジカ、タイワンリス、シマリス、ヌートリア、ユキウサギ、ノウウサギ


➌狩猟期間
 【北海道以外の区域】毎年11月15日~翌年2月15日(猟区内毎年10月15日~翌年3月15日)
 【北海道】毎年10月1日~翌年1月31日(猟区内毎年9月15日~翌年2月末日)


➍狩猟が禁止又は制限されている区域
 環境大臣又は都道府県知事が設定した指定猟法禁止区域では、鳥獣の保護ため鉛銃弾等の指定猟法が禁止されています。また、環境大臣又は都道府県知事が設定する鳥獣保護区では、鳥獣保護のため、狩猟が禁止されるほか、特別保護地区では、一定の行為が禁止されています。さらに、都道府県知事が設定した休猟区では減少している狩猟鳥獣の増加を図るため、一定期間の狩猟が禁止され、特定猟具使用禁止・制限区域では狩猟に伴う特定猟具による危険予防のため、特定猟具による狩猟が禁止又は制限されています。そして、猟区又は放鳥獣猟区では、管理された狩猟を行なうため、設定された区域内で入猟者数の制限等が行われます。なお、都道府県によっては、これらの区域外にも狩猟が禁止されている区域がありますので、管轄する都道府県に確認することが必要です。


❺猟法に関する制限
 鳥獣の捕獲を行う際は、危険の予防や鳥獣の保護のため、猟法について一定の制限をかける必要があります。たとえば、⑴爆発物、劇薬、毒薬を使用する猟法、⑵据銃(きょじゅうと読み、小銃射撃のとき、目標をねらうために銃の床尾板を肩につけて構えることの意味)、陥穽(かんせいと読み、落とし穴のことで、地面に穴を掘りそれを隠すことによって穴の上を通る動物を落とそうとすることの意味です)、その他、⑶人の生命又は身体に重大な危害を及ぼすおそれのあるわななどは危険猟法として禁止されています。また、銃猟に伴う人の身体や生命に対する危険予防のため、⑷日の出前及び日没後の銃猟、住居が集合している地域や広場、駅などの多数の者の集合する場所での銃猟、⑸弾丸の到達する恐れのある人、飼養若しくは保管されている動物、建物若しくは電車、自動車、船舶その他の乗物に向かっての銃猟は制限されています。そして、⑹ユキウサギ、及びノウウサギ以外の対象狩猟鳥獣の捕獲等をするため、はり網を使用する方法(人が操作してはり網を動かす方法を除く)、⑺口径の長さが十番以上の銃器を使用する方法、⑻飛行中の飛行機若しくは運転中の自動車又は5ノット以上の速力で航行中のモータボートの上から銃器を使用する方法、⑼3発以上の実包を充てんできる弾倉のある散弾銃を使用する方法、⑽装薬銃であるライフル銃を使用する方法(ヒグマ、ツキノワグマ、イノシシ、及び二ホンジカにあっては、口径の長さが5.9㎜以下のライフル銃)、⑾空気散弾銃を使用する方法、⑿同時に31個以上のわなを使用する方法、⒀鳥類並びにヒグマ及びツキノワグマの捕獲のためのわなを使用する方法、⒁イノシシ及び二ホンジカの捕獲等をするため、くくりわな(輪の直径が12cmを超えるもの締付け防止金具が装着されていないもの、よりもどしが装着されていないもの又はワイヤの直径が4㎜未満であるものに限る)、おし又はとらばさみを使用する方法)、⒂ヒグマ、ツキノワグマ、イノシシ、及び二ホンジカ以外の獣類の捕獲等をするため、くくりわな(輪の直径が12cmを超えるもの又は締め付け防止金具が装着されていないものに限る)、おし又はとらばさみを使用する方法、⒃つりばり又はとりもちを使用する方法、⒄矢を使用する方法、⒅犬に咬みつかせることのみにより捕獲等をする方法又は犬に咬みつかせて狩猟鳥獣の動きを止め若しくは鈍らせ、法定猟法以外で捕獲等をする方法、⒆キジ笛を使用する方法、⒇ヤマドリ及びキジの捕獲等をするため、テープレコーダー等電気蓄音機器を使用する方法は、鳥獣の保護を図るため、鳥獣の保護に支障を及ぼすおそれのある猟法として禁止されています(以上、環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室資料より抜粋)。

4.狩猟免許試験の概要(埼玉県の場合)
 狩猟を行なうためには、狩猟免許の取得が必要となってきます。そのために狩猟に興味を持ち、狩猟免許を取得しようとする者や更新しようとする者には取得または更新のための試験をうけなければなりません。ここでは狩猟免許の種類や受験のための手続き、免許試験の内容などの概要について、「埼玉県令和5年度狩猟免許試験受験案内」から、そのポイントのみを見ておきましょう。


➊予備申請
 令和5年度試験は、それに先立ち予備申請を実施し、定員超過の場合は抽選により人数が調整されます。予備申請とは、正式な申請書の受付を開始する前の日程調整のための申請となっています。これに当選した人以外は正式な申請書を受け付けることができないことになっています。


➋免許の区分
 狩猟免許は、猟法の種類により、次の4種類に区分されています。
⑴網猟―網を使用する猟法(むそう網、はり網、つき網及びなげ網)
⑵わな猟―わなを使用する猟法(くくりわな、はこわな、はこおとし及び囲いわな)
⑶第1種銃猟―装薬銃を使用する猟法、空気銃を使用する猟法
⑷第2種銃猟―空気銃を使用する猟法
なお、1回の試験につき、申請できる免許は1種類となっています。また、免許の種類ごとに試験内容は異なります。


  ➌受験資格
 次のいずれかに該当する人は受験することができません。
⑴試験当日において、網猟及びわな猟にあっては18歳に満たない人、第1種銃猟及び第2種銃猟にあっては20歳に満たない方
⑵統合失調症、そううつ病(そう病及びうつ病を含む)、てんかん(発作が再発するおそれのない人、発作が再発しても意識障害をもたらさらない人などは除く)、自己の行為の是非を判別し、又はその判別にしたがって行動する能力を失わせている人などのいずれかの病気にかかっているなどの方
⑶麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒の方
⑷自己の行為の是非を判断し、又はその判別に従って行動する能力がなく又は著しく低い方
⑸鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律又は同法に基づく命令の規定に違反し、罰金以上の刑に処せられ、その執行が終わり、又は執行を受けることがなくなった日から3年を経過しない方
⑹狩猟免許を取り消され、その取消しの日から3年を経過しない方、不正の手段によって狩猟免許試験を受け、又は受けようとしたため狩猟免許試験の受験を禁止されている方
※申請にあたっては、顔写真や医師の診断書(又は鉄砲刀剣類所持等許可書の写しなどを準備しておくことが必要です。申請書は住んでいる市町村を管轄する県の環境管理事務所に提出することになります。なお、申請手数料は1種類につき5200円(同時に2種類の免許の申請を行う場合は10400円)です。


➍適正検査当日の日程
 当日は適正検査が行われます。適性検査は、運動能力、聴力、視力の各検査が順に行われていきます。これらの検査の合格者には、講習会資料が渡されますので、その内容については自分で帰宅後に学習していくことになります、となっています。
※埼玉県の狩猟免許試験について、分からない点や詳しいことに関する問い合わせは、埼玉県環境部みどり自然課野生生物担当(電話:048-830-3143)か各環境管理事務所に問い合わせを行うとよいと思います。

Ⅵ あとがき
 今回、Ⅱでは、水稲栽培におけるイノシシによる被害の実際について、Ⅲでは、イノシシの特徴について、Ⅳでは、全国の野生鳥獣による農作物への被害の状況について、Ⅴでは、野生生物の保護と狩猟について見てきました。それによると、Ⅱでイノシシは、3頭から4頭以上で、日没後に、田んぼに入ってきて、田んぼを荒らし廻ると、夜明け前には、来た道を通って、帰っていきました。その結果、田んぼによっては壊滅状態となったところがありました。米の収穫量は、例年の半分ほどの5割くらい(その多くは、食べられたというよりも、もみ粒やもみ粒のついた稲穂の状態で、田んぼに落ちたことによる減少)でした。そして、イノシシは、コンクリートブロックが高く積まれた河川側よりやってきて、その後金網を破って田んぼの中に入ってきました。これだけ観ても、Ⅲで示した「上越市環境政策課のイノシシ」の資料も指摘しているように、イノシシは、稲穂が出そろった田んぼを見つけ、人が設置した構造物に対してどう対応すればよいのかといった優れた感覚(嗅覚)能力や行動能力をもっていることが分かりました。しかも、鼻で地面を掘り起こしたり、重い物を動かしたり、あるいは1メートルもの構造物を飛び越えたりする、極めて高い身体能力を備えていることが分かりました。Ⅳで示されているように、イノシシなどによる農作物被害は、奥武蔵ゆずの里における問題ではなく、全国的なものとなっていました。Ⅴの動物愛護管理法などでは、ペットなどの動物をみだりに殺害したり、傷つけたり、虐待、遺棄することは、動物愛護管理法の目的の根幹を揺るがす行為となり、罰則が課せられるようになっていますので、改めてその法律や規定を確認しなければならないかと思います。他方、鳥獣保護管理法などにより、農林業の事業活動に伴い捕獲等がやむ得ない場合に限って狩猟免許所持者が捕獲できるようになっています。その場合でも、定められた狩猟対象や狩猟期間、猟法などが規定されていますので、原則としてそれらを守っていかなければなりません。次のブログでは、再び、奥武蔵とその周辺における廃校とその現状について見ていきたいと思います。

【引用参考資料】
①一般社団法人大日本猟友会発行:「狩猟読本」、令和2年4月
②農林水産省Webサイト:全国の野生鳥獣による農作物被害状況(令和3年度)
③農林水産省Webサイト:野生鳥獣による被害の推移(鳥獣別)
④農林水産笙省農村振興局:鳥獣被害の現状と対策、令和3年4月
⑤環境省自然環境局総務課動物愛護管理室:動物愛護管理法の概要
⑥環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室:野生鳥獣の保護及び管理(狩猟制度の概要)
⑦環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室:鳥獣保護管理法(鳥獣保護管理法の概要)
⑧一般社団法人大日本猟友会ホームページ:狩猟免許取得までの流れ
⑨埼玉県環境部みどり自然課野生生物担当:令和5年度狩猟免許試験
⑩埼玉県:令和5年度狩猟免許試験受験案内
⑪福井県中山間農業・畜産課:イノシシの生態と被害の防ぎ方
⑫千葉県環境生活部自然保護課:野生鳥獣の捕獲について
⑬Minorasu:イノシシ被害を防ぐ対策法!防御・捕獲のポイントと最新技術解説
⑭上越市環境政策課:イノシシ
⑮自然農・いのちのことわり運営委員会:自然農・いのちのことわり~田畑における具体的問題解決~

【訂正とお詫び】
 前回、前々回のブログに誤りがありました。訂正の上、お詫びいたします。


①ブログ第23話に掲載した写真29、30の画像は、正しくは、ニッチツ鉱山管理の社宅(寮)です。旧小倉沢小中学校の正しい画像を以下に掲載させていただきます。


旧小倉沢小中学校                旧小倉沢小中学校

②ブログ第24話
・資料「両神小学校の百年」によると、滝前分校が分校となったのは、昭和13年度からとなっています。また、他の分教場(竹平、出原、大谷、煤川)も昭和13年度から分校扱いになっているようです。
  ・誤)・・・両神尋常小学校長高田朝吉記   正)・・・両神尋常高等小学校長高田朝吉記