翼 | ひまわりのブログ

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ひまわりのようだった兄に捧げるブログ

人 物 

天海翼(21)CA

川村芳江(75)乗客

緑川瑠衣(35)リードCA

 

○JAL・外観(朝)

         T・令和六年六月十日、羽田空港、JAL三一三便ジャンボ旅客機

         白い機体のジャンボ旅客機。尾翼には赤い鶴のマーク、赤い字でJALと表示。

 

〇同機内・中(朝)

   緑川瑠衣(35)、搭乗前の機内の最終チエックのため、棚、ギャレーのロックを確認している。天海翼(21)が

        緑川の後に付いて最終確認をしている。

緑川「これで搭乗前の機内のチエックは、完璧だわ」

   天海、うなづいて

天海「安全管理、異状ありません」

緑川「天海君、今日は初フライトね」

天海「はい、頑張ります」

   緑川、天海の肩をポンと叩いて

緑川「気負わずにね」

   目を輝かせ、大きな声で

天海「はい」

緑川「さあ、これからお客様のご案内よ」

天海「任してください」

緑川「頼もしいわね」

 

〇同機内・中(朝)

         タラップから優先客が次々と搭乗。着物姿の川村芳江(75)が、黒い鞄を両手で抱えて搭乗。白い半袖のワイシャ

         ツに赤いネクタイを締め、黒いズボンにピカピカの黒い靴、七三分けの髪型をした天海が入口でおじぎをして芳江

         を迎える。

天海「ご搭乗ありがとうございます」

   芳江、着物の袖から搭乗券を差し出し

芳江「席まで案内してほしかんじゃが」

   天海、にっこり微笑んで

天海「後部座席の70Ⅽですね。お荷物をお持ちしますか」

         芳江、首をブンブンと横に振り

芳江「こん荷物は大事なもんやけん」

   天海、にっこり微笑んで

天海「かしこまりました。こちらへ」

   芳江、天海の後を歩きながら

芳江「ありがとう、兄ちゃん」

   天海、にっこり微笑んで

天海「どういたしまして」

   天海、機内入り口へ戻る。

 

〇同機内・中(朝)

   T・十分後

   乗客全員が搭乗し、瑠衣が一列目の座席上部の手荷物棚を確認しながら締めている。瑠衣、一列目の後部座席で黒

         い鞄を抱えている芳江に話しかける。座席番号は70Ⅽと表示。

瑠衣「お客様、お手荷物を手荷物棚にお入れしましょうか」

芳江「こん荷物は大事なもんやけん、手で抱えたか」

   瑠衣、頭を下げて

瑠衣「お客様、申し分けありませんが、お手荷物は棚か足元にお願いしております」

        芳江、首をブンブンと大きく振り

芳江「あん背ん高か兄ちゃんば呼んで」

   瑠衣、頭を下げて

瑠衣「かしこまりました。天海を呼んで参ります」

   

〇同機内・中(朝)

   T・機内二列目の通路

         瑠衣、二列目の通路で荷物棚の点検をしている天海の元へ素早く駈け寄り、耳打ちをする。

瑠衣「70Ⅽの座席のお客様の対応をお願い。荷物棚の点検は交代するわ」

天海「ああ、あのお婆ちゃんですね」

瑠衣「何か事情がありそうなの」

   右腕で胸をドーンと叩いて

天海「うまく聞き出して対応します」

瑠衣「お願い。困った時は、私を呼んで」

天海「はい」

 

〇同機内・中(朝)

   T・機内二列目の通路

   天海、一列目の後部座席にいる芳江の席に近付く。座席番号は70Ⅽと表示。芳江、黒い鞄を抱えている。

天海「お客様、お呼びでしょうか」

   芳江、顔を上げて

芳江「兄ちゃん、よう来てくれた」

   天海、芳江のほうへ顔を近づけて

天海「お客様、この鞄に何が入っているんですか」

   芳江、涙目になって

芳江「うちん人んお骨が入っと」

   天海、芳江の肩に右手をそっと置いて

天海「ご主人様もご一緒なんですね」

芳江「そうや」

   天海、芳江の隣の席を見て

天海「お客様、本日は隣の席二つが空いております。ご主人様にお隣に座っていただいてはいかがでしょうか」

   芳江、涙を拭って

芳江「ほんなこつ?座席んお金は?」

   天海、手を横に振って

天海「大丈夫ですよ。お座席に料金はかかりません」

   芳江、両手を合わせて涙を流す。

芳江「ほんなこつありがたかことばい」

   天海、芳江から黒い鞄を受け取り

天海「ご主人様はお隣に座って頂きますね。お二人ともシートベルトをお付けになって下さい」

芳江「うちん人んシートベルトば」

天海、黒い鞄を座席に乗せ、シートベルトを締めながら

天海「かしこまりました」

芳江「ほんなこつありがたかことばい」

   天海、一列目の上客のシートベルトを確認しながら

天海「もうすぐ離陸です」

        機内アナウンスの声「皆さま、当機はこれより離陸します。シートベルトを着用して下さい」

  天海、後部のギャレー付近の席に座り、シートベルトを締める。

 

〇同機内・中(朝)

   T・三十分後

   緑川、天海らCAは、ドリンクの入ったカートを押して、座席を回る。

機内アナウンスの声「機内ドリンクのサービスを行います。お茶、リンゴジュース等を用意しておりますのでお申し付け下

   さい」

   天海、芳江の座席でカートを止めて

天海「お客様、お飲み物はいかがですか」

芳江「リンゴジュースばお願い」

   天海、芳江の座席のテーブルを出して紙コップに入ったジュースを載せる。

芳江「ありがとう」

天海「お連れ様は何を召し上がりますか」

   芳江、顔をくしゃくしゃにして

芳江「うちん人んこと?」

天海「さようです」

芳江「同じもんば」

天海「かしこまりました」

   天海、芳江の隣の席のテーブルを出してリンゴジュースの紙コップを置く。

芳江「ほんなこつありがたかことばい」

   芳江、両手を合わせる。

   天海、にっこり笑って

天海「どうぞごゆっくり」

   窓には大きな白い雲。光がキラキラと射している。芳江、黒い鞄を撫でて

芳江「あんたん好きなリンゴジュースや、一緒に飲もう」

   芳江、黒い鞄にリンゴジュースの紙コップを近づける。芳江も一口飲む。

芳江「うまかろう」

芳江、大粒の涙を流す。

芳江「こげんうまかリンゴジュース、飲んだことがなか。人ん情けが身に染みるわ」

 

〇同機内・中(朝)

   T・十分後

   緑川、天海らCAは、カートを押して紙コップを回収する。天海、芳江の席にカートを押してくる。

天海「紙コップを回収します」

   天海、右手を差し出し、芳江から二人分の紙コップを回収し、テーブルをたたむ。

芳江「ありがとう、兄ちゃん。おかげで主人とうち、楽しか時間ば過ごしぇたわ」

        天海、満面の笑みで

天海「お客様の力になれて嬉しいです」

芳江「ほんなこつありがたかことばい」

 

〇同機内・中(朝)

   T・三十分後

   座席上部のシートベルト着用の表示が赤く点滅。天海、機内アナウンス用マイクを持って

天海「皆さま、今日も日本航空三一三便をご利用頂きまして有難う御座いました。間もなく当機は福岡空港に着陸します」

 

〇同機内・中(朝)

   T・機内出口

   天海、乗客一人一人に丁寧にお辞儀をしている。芳江、天海の顔を見ると手を握って深々と頭を下げ

芳江「兄ちゃん、兄ちゃん、ほんなこつありがとう」

天海「お客様、どうぞお気を付けて」

芳江「ほんなこつありがとう」

天海「こちらこそありがとうございました」

天海、深々と頭を下げる。