付審判請求書



東京地方裁判所 御中
            平成31年2月5日


            請求人   美和 勇夫
            同     浅井  正
            同     林 寛太郎

 請求人らは、平成30年9月18日、被疑者林道晴・吉崎佳弥を、刑法193条(公務員職権濫用罪)で告訴したところ、東京地方検察庁から、公訴を提起しない旨の通知を平成31年2月1日に受けたが、同不起訴処分は不服であるので、刑事訴訟法262条により、事件を御庁の審判に付することを請求する。
                      【告発内容と処分結果】
                        告 発 人  請求人美和勇夫ほか2名       告発の日 平成30年9月18日        罪  名 公務員職権濫用罪          被 疑 者  林   道 晴                吉 崎 佳 弥
 処分をした検察官
      東京地方検察庁検察官検事 水庫一浩
 処分の日 平成31年1月30日
 処分内容 不起訴

<犯罪事実>

林 高裁長     吉崎佳弥事務局長

岡口裁判官

 被疑者林道晴は東京都千代田区霞が関1丁目1番4号所在の東京高等裁判所において同所長官として、被疑者吉崎佳弥は同所において同所事務局長として、勤務していたところ、両名は共謀の上、平成30年5月24日、同所長官室に、東京高等裁判所及び東京簡易裁判所の判事である口基一を呼び出し、同人が私生活上職務外でおこなっているソーシャル・ネットワーキング・サービスの「Twitter」に関し、「裁判官の仕事とTwitterとどちらが大事だ」「Twitterを止めろ、やめなければ分限裁判にかけてクビにしてしまうぞ」などと憲法上保障された「表現の自由の侵害」にわたるパワハラ行為にもあたる脅迫・強要を1時間近くにわたって与え続け、同人に苦悩、不安の精神的ダメージを負わせ、もって同人が私的に「Twitter」を使用継続することを妨害したものである。

<請求に関する事実関係>

1.平成30年5月24日午前11時頃、東京高等裁判所判事であり、かつ東京簡易裁判所判事である岡口基一(以下「岡口裁判官」という)は、東京高等裁判所の長官室に出向くよう突然呼ばれた。
 東京高等裁判所の長官室には、東京高等裁判所長官である被疑者林道晴(以下「長官」という)と、東京高等裁判所事務局長である被疑者吉崎佳弥(以下「事務局長」という)が岡口裁判官を待ち受けていた。

2.長官と事務局長は、岡口裁判官に対し、岡口裁判官が私生活上職務外で行っている「ソーシャル・ネットワーキング・サービス「Twitter」(以下「Twitter」)を今すぐやめるよう」強く迫った。
 両名は、岡口裁判官に対し、「「Twitter」と裁判官としての仕事とどちらが大事なのか」などと、「Twitter」を止めるように激しい剣幕で迫った。

3.両名から激しい剣幕で1時間もツイッター使用をやめるように迫られた岡口裁判官は、何も言えなくなってしまった。

4.激しい剣幕で迫られたにもかかわらず、岡口裁判官が「Twitter」を止める旨述べることなく黙っていたところ、
 長官と事務局長は、岡口裁判官に対し、
「「Twitter」を止めなければ分限裁判にかけて岡口裁判官をクビにしてしまう」旨申し向けた。
 事務局長は、
君ね。今、長官が何をおっしゃっているか分かってる?君、さっき、「Twitter」と裁判官の仕事を比べると裁判官の仕事の方が大事だと言ったよね。でも、分限裁判でクビになってしまったら、裁判官の仕事はできなくなってしまうんだよ。君、そういうこと分かってるの』などという発言をした。


 ツイッター使用を妨害してやめさせることを決意させようという状況が1時間近く続いた。


5.出がけに事務局長は、岡口裁判官に対し、電話をするように言った。
 岡口裁判官が事務局長に架電すると、事務局長は岡口裁判官に対し、再び「Twitter」を止めるように妨害した。


 それでも岡口裁判官が「Twitter」を止めると言わなかったところ、事務局長は、岡口裁判官に対し、君、変わってるね』と侮辱した言葉を発した。


6.岡口裁判官は、ツイッター使用を妨害されてもやめるとは言わなかったので、平成30年7月24日付で、東京高等裁判所から岡口裁判官に対し、裁判官分限法6条に基づき、懲戒申立てがなされた。

<事実関係に関する証拠>


1.岡口裁判官の陳述書

2.事務局長が東京高等裁判所分限事件調査委員会に提出した報告書

① 裁判官の仕事よりもツイートの方が大事なのかという質問に対し、 
② 同長官が、申し訳ないという気持ちを疑うつもりはないが、行動につながっていないから困る、ツイートを続けるということであれば、それを前提にして分限裁判を検討せざるを得ないと述べた。
③ 同長官が、「仮に裁判官を辞めることになってもツイートは止めないということか」と尋ねた。


3.上記記載からすると、事務局長も、『長官と事務局長が、岡口裁判官に対し、ツイートを辞めなければ分限裁判を検討せざるを得ない旨及びツイートを辞めなければ裁判官を辞めることになる旨の圧力をかけた』ことは認めている。


4.検察庁には「関係者を調べた証拠」となる書類及び証拠物等が存在する。
 当然 長官、事務局長を被疑者として調べたのだから・・・その調書がある。


<被疑者らの行為が
公務員職権濫用罪に該当すること>


1.公務員職権濫用罪は、公務員による職権の濫用によって、①人に義務のないことを行わせ、②または権利の行使を妨害することである。


2.被疑者らが公務員であることは明らかである。
 被疑者らと岡口裁判官は、実質的に上司と部下の関係にある。


3.職権の「濫用」とは、公務員がその職権を不法に行使することであり、判例は「公務員がその一般的職務権限に属する事項につき、職権の行使に仮託して実質的に、具体的に違法、不当な行為をすること」と定義している。


4.一般的職務権限は、明文の根拠規定がなくとも、法制度を総合的、実質的に観察して認められる場合であればよいとされている(最決昭和57年1月28日刑集36巻1号1頁[身分帳事件]の栗本裁判官の補足意見。)。判例によると、一般的職務権限は、法令上明文の根拠規定がなくとも、その権限行使は強制力を伴うものでなくとも良い。

 被疑者らが岡口裁判官に対し、「Twitter」使用を止めなければ分限裁判にかけてクビにしてしまう旨申し向け妨害した行為は、岡口裁判官を監督する目的で行われた。
 これは、分限裁判という言葉が使用されていることからも、平成30年7月に至って実際に懲戒申立てがなされていることからも推認できる。

5.この点について、裁判所法80条は、「司法行政の監督権は、左の各号の定めるところによりこれを行う」と規定し、同条2号は、各高等裁判所は、その高等裁判所の職員並びに管轄区域内の下級裁判所及びその職員を監督すると規定する。

 裁判所法20条は、各高等裁判所が司法行政事務を行うのは、裁判官会議の議によるものとし、各高等裁判所長官が、これを総括すると規定している。
 他方、下級裁判所事務処理規則20条は「司法行政事務は、裁判官会議の議により、その一部を当該裁判官会議を組織する一人又は二人以上の裁判官に委任することができる」と規定する。
 そのため本件は、裁判官の監督権限行使につき、『裁判官会議の議』により、①「被疑者ら両名に委任されていた場合」と、②「委任されていなかった場合」とが考えられる。

 裁判官の監督権限につき、①『裁判官会議の議』により被疑者らに委任されていた場合には、被疑者らに一般的職務権限があったことは明らかである。 裁判官の監督権限につき、②『裁判官会議の議』により被疑者らに委任されていなかった場合であっても、裁判所法80条及び下級裁判所事務処理規則20条からすれば司法行政事務の監督権限を委任できる仕組みになっていることや、高等裁判所長官・事務局長と高等裁判所の判事という両者の関係、関係性の結び付きの強さを考えると、岡口裁判官を監督する目的のもと被疑者らが「Twitter」を止めなければ分限裁判にかけてクビにしてしまう旨申し向けた行為は、職務と切り離された私的なものとみることは到底できない(岩瀬徹 最高裁判所判例解説 刑事篇昭和60年129頁を参照)。

 よって、岡口裁判官を監督するため、被疑者らが岡口裁判官に対し、ツイッターをやめるように注意するなどの行為は、被疑者らの一般的職務権限に属する事項に該当する。

6.本件で、長官と事務局長が、岡口裁判官に対し、監督権限に基づきクビになるよといいながら「Twitter」を止めるように注意・説得することが適法だったとは到底言えない。
 岡口裁判官が私生活上行っている「Twitter」中、「・・・・・・・・・・」の表現は適切でないから注意するようにと説得するならまだしも、およそツイッター使用を辞めてしまいなさいと命令口調で述べるのは、憲法で保障された表現の自由の侵害である。

 従って,たとえ長官と事務局長が、岡口裁判官に対し、監督権限に基づき「Twitter」を止めるように注意・説得することに何らかの相当理由があったとしても、『これこれの理由で〇月〇日の表現は不適切であるから』と理由を明らかにして『「Twitter」を止めたらどうかね』などと穏やかに言えばすむことである。
 1時間あまりも『分限裁判にかけてクビにする』などと脅してツイッターを全部やめるよう迫ったのは、適切な説得を超えたパワハラ行為(不法行為)である。

 高等裁判所の長官と事務局長という高裁司法行政のトップから、高等裁判所に所属する裁判官が長官室に呼び出され、「分限裁判にかけてクビにする」と言われれば・・・「分限裁判によって懲戒処分を受けるかもしれない」「分限裁判にかけられ今後再任用されないかもしれない」「最高裁判所に罷免事由があると報告され弾劾裁判にかけられ罷免されるかもしれない」などと不安に思い、今まで築いてきたキャリア、収入、名誉を失うことをおもんばかり、強く畏怖するのが通常である。
 「分限裁判にかけてクビにする」と申し向けるのは、社会通念上相当な注意の方法を著しく逸脱する行為で、昨今世上「各分野」で問題にされているパワハラ行為そのものである。

 このようなパワハラが、ブラック企業ではなく、こともあろうにそれらを法でさばく裁判所で行われた事は由々しき大問題である。
 「分限裁判にかけてクビにする」「Twitterをやめろ」などと1時間にわたり申し向ける行為は監督権限を濫用したものに他ならない。

7.岡口裁判官は、「表現の自由」として私的に「Twitter」を使用する権利を有していた。

 被疑者らは、岡口裁判官を、密室であるいかめしい長官室に呼び出し、ソーシャル・ネットワーキング・サービスの「Twitter」を止めなければ分限裁判にかけてクビにしてしまう旨強要し続けて裁判官としての将来生活に不安、恐怖を覚えさせ、精神的に取り返しのつかない強いダメージを与え、岡口 裁判官が私的に「Twitter」を使用継続することをやめさせるよう妨害した。

 よって、被疑者ら両名がツイッターをやめさせようと画策して実行した行為は、岡口裁判官の「ツイッターを継続して今後も使用したいという権利を強力な公権力の行使により妨害した」といえる。


8.岡口裁判官が「Twitter」の使用を止めると明言しなくとも、「Twitter」の使用を止めさせることが可能な言動をしたこと自体で権利の行使を妨害したといえる。『出田孝一「判解」最高裁判所判例解説刑事篇平成元年度103頁(盗聴事件最決平成元年3月14日に関するもの)』において、下記の説明がある。  

警察の盗聴事件 
妨害したといえるのはいつか?


 『本件について、被疑者らが盗聴に成功したとは認められないことを理由に公務員職権濫用罪の成立を否定する見解がある(中森喜彦・後注1 七三頁)。しかし、通信内容を現実に了知されないことだけでなく、これを了知されることのない状態を維持、確保することも通信の秘密ないしプライバシーの権利に含まれるとの見解に立てば、盗聴に成功したかどうかにかかわりなく、盗聴可能な状態を作出したこと自体で右の権利侵害があったと考えることも可能である

 従って、私生活においてソーシャルネットワーキングである「Twitter」を使用することだけでなく、使用を妨害されることのない状態を維持、確保することも表現の自由に含まれるのであって、使用を止めさせたかどうかにかかわりなく、使用を妨害可能な言動をしたこと自体で権利侵害があったと考えられる。
 Twitter」を止めなければ分限裁判にかけてクビにしてしまうなどという被疑者らの言動は、「Twitter」の使用を妨害したといえる。

<被疑者らの行為の悪質性>

 裁判所は「適法な手続」により正しさを示してくれる場所であると国民が信じているからこそ、裁判所の威
厳・信頼が保たれている。

 長官は東京高等裁判所のトップであり、事務局長は東京高等裁判所の事務方のトップなのであるから、法令を遵守すべきは当然である。

 いくら部下であっても、裁判所において、部下に対し刑法にふれるような脅迫、強要行為を行ってはならないことは当然である。長官であるから許容されるものではない。

 長官と事務局長が、裁判所で我が国の刑法にふれる違法行為を行った事は裁判所に対する国民の信頼を大きく損なうものである。
 まして地方裁判所でなく、だれもがびびる高等裁判所の「長官室における行為」である。「罪とならず」とはとうてい言いがたい。

 国民の裁判に対する信頼を守るべき立場にある被疑者らトップが行った「Twitterを止めなければ分限裁判にかけてクビにするなどと発言し、岡口裁判官のTwitter使用を妨害した」職権濫用行為は、悪質性がきわめて高い。

<結 語>

 被疑者らの所為は、公務員職権濫用罪の共同正犯(刑法第193条、同60条)に該当する行為と思料されるので、被疑者らの厳重処罰を願いたく、請求する。

以上

 <両名逃げ切りの道

※※※※ 職権濫用罪には、残念ながら未遂処罰規定がない。       
①両名は岡口裁判官に義務のないことを行わせたとはいえない
②または、・・・権利の行使を妨害したとはいえない
  
 ツイッターをやめさせてしまわなかったから、職権濫用は妨害したという既遂に達していない・未遂であるから罪とならずとにげきれるのか?


 「やめなければ、裁判官がやれなくなるぞ」とおどしたことは、それで妨害したといえるでないか


◆◆ なお たとえ 職権濫用が未遂であっても、

未遂処罰規定のある
強要罪でも告発していますから・・・

検察審査会では問題となります。


より借用しました。