健康志向の高まりから、トレーニングジムに通ったり筋トレ用のグッズを利用して自主トレをしたりする人たちが急増している。また、ボディビルダーのジムに通って、筋肉隆々の身体を手にしたいと、激しいトレーニングに汗を流している人も少なくない。スポーツ選手もパワートレーニングと称して、瞬発力を高める訓練をする人たちも増えている。相撲の力士たちやプロの野球選手たちも、こぞって筋トレに励んで強靭でパワーを発揮できる筋肉を作り上げている。そのお陰なのか、日本人の選手たちも世界で活躍している。
ところが、そのせいで多くのプロスポーツ選手たちには、皮肉にも故障が続出しているという現実に苦しんでいる。肉体の限界に挑むようなプロスポーツの世界では、怪我や故障は避けられないものだと思っている指導者も少なくない。瞬発力のパワーが出るような筋肉を作れば、怪我に繋がってしまうことは、トレーナーなら既に認知している筈だ。それでも、そのギリギリのところで怪我をしないパワーの出る筋肉を作り上げるというのは、それこそ薄氷を踏むような思いでトレーナーは筋トレをさせるしかないのだろう。
大相撲はパワー全盛の時代を迎えたので、筋肉をこれでもかというように大きくさせた力士が多くなっている。しかし、その代償として怪我に悩ませられる力士が異常に多くなった。殆どの力士はどこかの故障を抱えて、テーピングだらけの姿で相撲を取る。プロ野球選手は怪我が多いので、故障者リストに入る選手が急増している。プロゴルファーは、殆どの選手が怪我や痛みを抱えながらプレーしている。怪我とか痛みがまったくないというプロスポーツ選手を探すのは、至難の業である。これも行き過ぎた筋トレのせいであろう。
こんなパワー筋肉全盛の世界で、ウェイトトレーニングをまったくさせないのに世界のトップアスリートを生み出しているトレーナーがいたのである。それは、MLBドジャースの山本由伸投手の球団トレーナーをしている矢田修氏である。彼の理論は独特であり、筋トレをさせないしパワーを酷使させないという特別な理論である。欧米のアスリート界隈においては、ムキムキの筋肉をハードなウェイトトレーニングによって作り出す手法が主流となっている。日本のアスリート界でも、その流れに乗り遅れないようにと筋トレをしている。
山本由伸の身体は、スマートであり筋肉ムキムキの体形をしていない。そして、けっして力感のある投球フォームではないし、パワーを込めた投げ方をしている訳ではない。それなのに、ストレートは150キロ台後半のスピードであり、スプリットであっても150キロ近くのスピードがある。流れるようなスムーズな一連の投げ方は、毎回同じであるし球種によって変わらないから、打者はタイミングがとりにくい。あの筋肉の使い方、回転軸のしっかりした体幹の使い方こそ、矢田修トレーナーの指導によるものなのである。
上半身のパワーをあまり使わずに、下半身のキレや体幹を軸にした反転で溜めた力を一気に開放する回転スピードによって、あのスピードと球のスピンの多さが生まれていると言える。スポーツの基本は、スピードをどのように生み出すかにかかっている。縦と横に動くスピードを上げるにはパワーが必要であるが、回転スピードを上げるにはそんなにパワーを必要としない。それも、体幹を固定したうえでムチのように体にからみつくように手足が動けば、とてつもないスピードが実現する。山本由伸のスピードはこうして生まれたのであろう。
ウェイトトレーニングによって作られた筋肉は、とてつもないパワーを生み出す。しかし、それは諸刃の剣であり、無理に作られた固い筋肉は脆い。断裂しやすいし、疲労しやすい。酸化しやすい筋肉は老化する。山本由伸の筋肉は多少の無理をさせても壊れない。中0日登板が可能になり、WシリーズでのMVPを受賞した。怪我もしにくい。我々のようなアマチュアスポーツを楽しむシニアは、ウェイトトレーニングをしてはならない。若い人も同じだ。長い期間に渡りスポーツを楽しみたいのなら、筋トレは絶対に避けたいものである。体幹トレーニングや平衡感覚を磨くトレーニングをしたいものである。