「コーポレート・ガバナンス」 | ESG投資、金融・経済関連の情報や書評など

「コーポレート・ガバナンス」

「コーポレート・ガバナンス」 花崎正晴 

岩波新書 2014年11月刊 本体価格740円


いまや新聞紙上にコーポレート・ガバナンス・コードや

スチュワードシップコードの話題が載らない日はない

くらいの勢いだが、


本書の著者は大学卒業後、旧日本開発銀行に入行し

その後、研究所を経て、一橋大学大学院の教授に

なっておられるというキャリアだ。


さて、内容だが、非常に真面目な内容だ。岩波新書

らしいといえば、らしい。 決して、ネガティブな評価では

ない。


著者の基本的な視点は、次のように表現されている。


「日本企業のガバナンスの特徴とは何なのか。1990年代に

顕在化した金融危機当時日本の銀行のガバナンスは

どのような状態であったのか、


経済のグローバル化は日本企業のガバナンスにどの

ような影響を及ぼしているか、そして、企業ガバナンスに

関わる主体や主眼はいかにあるべきか」 (はしがき P4


学者らしくオーソドックスな視点だと思う。


もっとも注目すべきは、第6章の「コーポレート・ガバナンスの

将来展望」 だが、学者としての真骨頂は、海外の文献を含めて

幅広く渉猟しており、実証分析も紹介しているところだ。


逆に言うと、学者としては単なる論点整理だけでは、「売り」が

なくなってしまうので、素人目には無理筋かと思っても

実証研究せざるを得ない。


これは、別に日本だけの事情ではなく、米国の学界であれば

当たり前のことになる。 


第6章では「コーポレート・ガバナンスとしてのCSRとSRI」

という節もあり、東証の「コーポレート・ガバナンス白書2013」

から引用し、日本企業がコーポレート・ガバナンスの目的として


企業価値の向上を挙げるのが、全体の 53.3%であるのに

対して、ステイクホルダーについて言及するものは 60.0%に

達している事実を紹介している。


さらに、「『社会的なガバナンス』(企業行動に社会性や公益性を

求めること)の覆いのもとで、伝統的なコーポレート・ガバナンスや

新しいステイクホルダー型ガバナンスなどが重なった多層構造

をとっていくものと思われる」 と結んでいる。(P175) 


最後になるが、本書は上記のような特徴をもつ良書ではあるが

現下の日本のコーポレート・ガバナンスの状況が、

スチュワードシップ・コードの制定と、コーポレート・ガバナンス・コードの

制定によって、激変しているところまでは、カバーできていない

ところだ。


時期的な関係で、当然止むを得ないことので、著者が新展開を

踏まえたうえで、どのような研究成果を世に問われるのか

注目したい。