世界の外貨準備の通貨構成比率 をどう調べるか?
「世界の外貨準備 円比率5年ぶりに高水準 昨年9月末3.63%、円高受け」
という記事が本日(2011/1/6)掲載されている。
<問題意識>
昨今では、中央銀行のドル離れとか、ユーロ不信とか、通貨毎の人気が気になり、それが為替レートの変動にも影響を及ぼしているので、為替に関する大事なデータと言える。
<調査方法>
IMFのホームページに行って、COFER(Currency Composition of Official Foreign Exchange Reserves)を見ると、最新時点のデータは、2010年9月末(第3四半期)の計数(暫定値)が発表されているからだ。(発表は2010/12/30)
既に、昨年の末に発表されているデータを翌年の今頃、記事にしたのだから、ずいぶん間の抜けた話だ(もし私の思い違いだったら日経のワシントン支局の後調昌邦さんごめんなさいだが)。
それはともかくとして、まずは、統計の出所=原典にあたろう。下記である。
http://www.imf.org/external/np/sta/cofer/eng/cofer.pdf
<計表の見方の注意>
四半期ごとの計数と、年ベースの計数がちゃんとでている。また、この集計については注意すべき点がある。全世界( =先進国+エマージング・途上国)のカテゴリーで分けて表示されているからだ。
記者が弾いている構成比率は、全世界ベースのものだ。
ちなみに、2010年9月末ベースの全世界だと、次のとおりである。
米ドル 61.27% ユーロ26.93% 円3.63%ポンド4.05%スイスフラン0.11% その他4.01%
あと、当然のことだが、ドルに換算したときの換算レートが示されているので、詳細に分析する場合には、その通貨でいくらだったかを計算し直すことも大切だろう。
<中長期の動向を見ることも重要>
こうした計数を見る場合には、もう少し長期で見たらどうかという観点も必要だ。これには、私がよく使っている「金融マーケット予測ハンドブック」(住友信託銀行 NHK出版)が便利だ。
このデータについても、第4版では、1995年以降の計数をP391 に掲載している。
これによれば、1995年の円の構成比は、6.8%で現在の倍以上ある。ただ、この表では2007年までしか掲載していないので、このプログの読者のために、上に掲げたIMFの統計原典から計算した構成比を示しておく。ただし、小数点以下1ケタ。
2008年末
米ドル 64.1% ユーロ26.4% 円3.1%ポンド4.0%スイスフラン0.1% その他2.2%
2009年末
米ドル 62.1% ユーロ27.5% 円3.0% ポンド4.3% スイスフラン0.1% その他3.1%
<ユーロが発足して以降の特徴>
ついでに、ユーロは、1999年で17.9% 2003年以降はほぼ 25%近辺、2009年の27.5%は年末ベースでは過去最高だ。
円は、上記のとおりで、肝心のドルは、2001年の71.5%をピークに、直近では、61%程度だから、なんと10%も構成比率が落ちたことになる。
ドルの長期的凋落を客観的に示す統計だといえよう。
<ネット時代の情報収集で気をつけるべきこと>
以上のプロセスを経れば、日経の記者が書く前に、この程度のことは読者の皆さんでも書けちゃうことが判るであろう。自分自身で、統計の原典にあたるクセをつけること。また、その統計の持っている制約や定義をそこから読み取るということも、とても大切だ。
そうすれば、別にワシントンにいなくても、日経の記者程度(失礼 ! ! )の記事は書けるのだということを肝に銘じてほしい。そんな教訓も図らずも与えてくれた、外貨準備の通貨別構成比率に関する統計の解説になった。
以上
<追加情報>
IMFは外貨準備における通貨構成の状況について、2005年12月以前は、年ベースの計数を、IMF年報で公表してきました。しかし、2005年12月に、「今後は四半期ベースで公表することに変更する」と発表。
プレスリリースは以下の通り
http://www.imf.org/external/np/sec/pr/2005/pr05284.htm
要旨をみると、計数の集計は、ボランタリー・ベースかつ秘密を保持して実行。データを提供しているのは、先進国24カ国、途上国は全体の160カ国のうち90カ国が協力していると。(2005年当時)
あと、個別の国の情報は開示されていないとのことだ。
以上