ワーカーズキャピタル責任投資をどう評価するか | ESG投資、金融・経済関連の情報や書評など

ワーカーズキャピタル責任投資をどう評価するか

2010年12月に連合が、「ワーカーズキャピタル責任投資」のための行動指針などを発表した。全文は、以下にあるので参照願いたい。

http://www.jtuc-rengo.or.jp/kurashi/sekinin_toushi/data/20101216_workers_capital.pdf


(高く評価できる!!)

さて、この行動指針をどう評価するかであるが、社会的責任投資の普及を提唱してきた立場からは、極めて意義のある動きであると高く評価できる。


(連合が今回の動きに踏み出した背景)

これまで、労働組合や労働者は自らが拠出した資金がどのように運用されてきたか、極端にいえば「モノを言わない」資産保有者であった。


しかし、グローバリズムの進展は、富の集中や格差の拡大、途上国の児童労働や人権侵害、労働条件の悪化、環境破壊などの負の部分をもたらした。また、株主至上主義をかざした投資ファンドが、労働者をはじめとする多様なスーテークホルダーの利益を疎外し始めた。


一方、年金基金の運用においては、過度に短期的な利益追求する傾向が高まり、それが結果として労働者の利益に反する結果をもたらしたと認識している。


(連合の結論)⇒以下は、発表分からの引用

労働者(労働組合)はワーカーズキャピタルの所有者として、社会や環境に悪影響を及ぼす企業行動に加担する投資を排除し、公正な市場を確立する社会的責任を認識する必要があります。


 今後、産業別労働組合、企業別労働組合は、ワーカーズキャピタルの所有者責任と権限に鑑み、その運用を委託するに際して、本ガイドラインに基づいた責任投資に取り組みます。


(今後期待されること)

今回のガイドラインに沿って、企業別組合や産業別組合がワーカーズキャピタルの所有者の観点から責任投資を推進すると宣言しているが、これがどの程度広がりを見せるかであろう。


今回のガイドライン報告書は、現在の責任投資に対する全般的な認識度・認知度の低さを考慮してか、かなり説明的に、ワーカーズキャピタルが責任投資に取り組むべきかの解説を海外の動向も踏まえて展開している。


まずもって、この内容を幅広い関係者に情報宣伝活動を展開していくことが第一義的に求められることであろう。とにかく、資産運用について、労働組合は問題意識がなかったのであるから。


さらに、連合の発表文には、今後、最大の年金基金である年金積立金管理運用独立法人(GPIF)などの公的年金にも責任投資への取り組みを働きかけていくとある。簡単なことではないと思うが、ぜひ、進めていってもらいたいものである。


(法制化へのうねりを)

もうひとつの観点は、上記したように「公的年金が責任投資に取り組むべき」とする立法化に向けての政治行動を展開してほしいことである。英国において、年金の責任投資が拡大した推進力となったのは、年金基金に責任投資の情報開示を法律で義務付けたことにあったことは周知の事実である。



(受託者責任問題は過去の遺物)

年金の関係者は、基本的に保守的である。今回の動きに対しても、消極的な対応が容易に想像される。この際、最も議論となるのが、受託者責任問題である。欧米においてさえ、受託者責任を「盾に」責任投資を回避してきた長い歴史があった。


しかし、本ガイドラインも触れているように、すでにこの問題は解決済みの問題である。社会的責任投資の源流であった宗教観・倫理観に基づいた手法は、確かに受託者責任に触れるリスクがあったが、現在、責任投資と呼ばれる手法はそういったものとは無縁であることを、理論武装して、関係者を説得していく努力が求められよう。

以上