いつか、

打ち明けなければ

と思っていた。

 

 

 親友の

上司であり、

友達である男と

 

1年以上前から

交際していた。

 

 

 けれど、親友に関しては

 

男から

 

「あいつは俺に

心を寄せていたことがあった」

 

と、聞いたことがあった。

 

 

 また、私との

付き合いが始まる前、

男が、彼女に


私と会ってみたい、

 

と、伝えたとき、

 

親友はこう言ったそうだ。

 

「私とみなみさんで

(男を)取り合いになるようなことは

しないでくださいね!」

 

 

 そういうことから、

私は、親友にはずっと

男とのことを隠していた。

 

 

 私にとって

その男との関係と

 

親友との関係を

同時に失うのは

 

とてもつらいことだと

知っていたからだ。

 

 

 男の方は

私との付き合いを

 

誰にも知られぬよう

注意を払っていた。

 

 

 私に対しては、

 

「24も年下のお前が

いずれ再婚するときに

困らないように」

 

と言っていた。

 

 さも私を気遣かっているかのように。

 

 

 しかし、振り返れば、

 

わたしと親友のどちらをも

 

男の自由に利用するつもり

だったのだろう、と分かる。

 

 

 そうとは知らぬ親友が

無邪気に、男の実家へ

(それは田舎の大層な屋敷であったが)

 

女友達と遊びに行きたいと

男に連絡したときは、

 

私の心は

急に凍り付いたような

衝撃を受けた。

 

 

 何かの折に

 

「また、実家に遊びに来てください。

 その時は誰か親しい友達をつれて」

 

と、男は、親友に対し、

暗に私を連れてくるよう

ほのめかしていたそうだ。

 

 

 ところが彼女は

私の全く知らない

別の女性を誘った。

 

 

 その人は、孫のいる、

よく言えば善良な、

率直に言えば、

平凡な主婦で

親友や私とは

少しタイプの違う人種であった。

 

 

 推察すれば

男が関心を抱かぬ類の

女性と行くのが安全だと

親友は考えたのだろう。

 

 

 結局、こんなことが起こってしまった。

 

 しかし、一方で

 

私は、親友を

騙し続けているように

感じていて

 

いつか、打ち明けなければ

と思っていた。

 

 

 そうしたところに、

先月、男から別れを告げられた。

 

 

 今日は、その親友から

昼食に誘われて

 

電車に乗って

少し遠出をした。

 

 

 男と別れる前から

約束していたことだった。

 

 

 別れてから、

 

親友に会うこの日のことを

思うたびに、

 

男との交際と別れを

打ち明けよう、と考えていた。

 

 

 男女関係の

繊細なひだまで

話すつもりはなかったが

 

今後、親友と男が接触したときに

 

私のことが話題に上れば

 

きっと男の口からは

 

私を侮辱するような言葉しか

出てこないと想像したからである。

 

 

 知らないところで

侮辱される前に

 

親友には

私の味方でいてほしい、と

いう気持ちがあった。

 

 

 とはいえ、

ひょっとすると、

 

 

男の関心について

私に対してライバル心を

持っている親友ならば、

 

男と会うときに

私のことを

自ら話すことはなかったかもしれない。

 

 

 意識の下ではそういうことに

気づいていながら

 

親友に打ち明けようと

私を駆り立てるのは

 

もしかすると、

私のつまらぬ

優越感であったのかもしれない。

 

 

 いずれにせよ、

以前から、

親友に打ち明ける瞬間の

イメージをことごとく脳裏に描き

 

どうすれば

親友を可能な限り

傷つけずに済むのか、

 

考え続けていた。

 

 

 もしかして、

昨夜、眠れなかったのも、

換気扇の音のせいなどではなく、

 

親友にどう伝えるかを

妄想しての

くだらない興奮からかもしれない。

 

 

 

 

 しかし、親友が予約した店で食事し、

 

互いの職場での

人間関係の愚痴などを

自由に話しているうちに

 

打ち明けようと

がちがちに固まっていた気持ちが

 

あっさりと

解けていった。

 

 

 この親友との関係を

壊したくないと

 

私ははっきりと

感じた。

 

 

 食事を終えるときにも

 

そのあと、少し離れたカフェで

お茶を飲んでいる間も

 

 

私たちは、他愛ない

仕事の話や、

彼女の大事にする甥や姪の

話に明け暮れた。

 

 

 彼女は屈託なく、

 

「また、〇〇の店に行こう」

 

「この店にも行こう」

 

と言った。

 

 これからも私たちの

友達としての関係が

 

当たり前のように

 

続くかのように。

 

 

 結局、彼女には

その日の誘いを

感謝しただけで、

 

別れた。

 

 

 

 一言も胸の内を

打ち明けることなく。

 

 

 それでよかったのだろう・・・・・。

 

 

 電車に乗って帰り、

駅を出て、

 

自宅に向かって歩いていた。

 

 

 以前ならば

 

あの男が

週末に必ず帰る実家から戻り、

 

男のマンションで私と合流する時間帯だ

 

と思い出しながら。

 

 

 真横を黒のレクサスが

ゆっくりと

通過していった。

 

 

 顔がうつるほど磨き上げられた

美しい漆黒の車体に

 

目を奪われた。

 

 

 通り過ぎた車のナンバーを

何気なく

ぼんやりと見つめていると

 

景色が一瞬、

止まった。

 

 

 あの男の車だった。

 

 

 咄嗟に電柱の陰に

私は身を隠した。

 

 

 私が隠れなければならない理由は

 

どこにもないはずなのに。

 

 

 顔を上げたときには

 

車は素早く去り、

影すら見あたらなかった。

 

 

 線路沿いに歩いていたので、

 

名古屋行きの特急列車が

走り出すのが見えた。

 

 

 心が凍る。

 

 

 8月ごろ、男が私に言ったことがあった。

 

「東京のいとこの女性が

友達を連れて、

伊勢観光のついでに

僕の実家を見たいと言っている。

 

 友達は独身の女性だそうだ。

 

 9月の週末に彼女らを

案内するかもしれない」

 

 

 そのとき、

 

いとこならば

ぜひ、そうしてあげて、

 

と、私は云った。

 

 70代の男のいとこならば

年下であっても

60代くらいだろう。

 

 

 嫉妬心の強い私も

おそらく、自分より一回り以上

年上であろう女性たちに

生臭く、どす黒い警戒はしなかった。

 

 

 しかし、9月には、

 

「従妹」であったはずが

「姪」という呼び方に変わっていた。

 

「そう・・・・・・。

その人たちは、いつ来るの?」

 

「子供の運動会があるし、

わからないと言っている」

 

 運動会があるような

子どもがいるのならば

 

いとこではなく、

姪、つまり私と同じ年頃の女性に違いなかった。

 

 

 その女性らは

 

9月になっても

10月になっても

来る気配がなかった。

 

 

 一方で、男は

9月にも10月にも

 

「親戚のところに行く」

「同級生と会う」

 

と、関東に1週間ほど出かけていた。

 

 

 9月の旅行の後、

 

いつもなら

新幹線の時刻や宿泊先、

どこに遊びに行ったのかをも

 

私に告げる男が、

 

どこに泊まったのか、

どこへ行ったのかすら

押し黙っていた。

 

 

 冗談めかして

「浮気してたんですか?」

と男の瞳をじっと見つめながら聞くと、

 

男はゴクリと

唾をのんだ。

 

 

 思い返せば

そのとき

 

姪から、独り身の

女性を紹介されたのだろう。

 

 

 70代の男の姪の友達であれば

わたしと同世代のはずだった。

 

 

 今、男の実家の方は

見事な紅葉で

山々が彩られている。

 

 

 私と別れた後、

 

ようやく、新しい女性を

実家に招いたのだろう。

 

 

 男の姪も一緒だったかどうかは

 

もはや、わからない。

 

 

 先ほど男の

黒光りする車が

 

線路沿いの道を歩く

私の横を通り過ぎたが、

 

男は、駅に用がない限り

その道を通らないはずだった。

 

 

 名古屋行きの電車が

走り出したのをみて、

 

男が駅まで、

東京に帰る女性を

送り届けたのだと

 

要らぬことに

気づいた。

 

 

 親友に今こそ、

 

辛い気持ちを語り、

 

耳を傾けてほしいと願った。

 

 

 

・・・・ってあまりにも嫌な気持ちだったので、自分事と思いたくなくて、私小説風に書いてしまいました(苦笑)。

 

 こんな残酷なことって

あるものだ・・・・・・。

 

 

 もう少し気持ちが落ち着いたら、

友達にも、打ち明けるかも

しれません。

 

 

まだ謝れずに隠してる事

 

 

 

 

 

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