人間の思いや絆を描いた漫画と言えば、「エースをねらえ」だと思います。


この「エースをねらえ」という漫画に憧れて、テニス部に入部した人も多いと思いますが、僕も入部して、ラケットやウエアを揃えまではしましたが、実は長続きしませんでした(笑)


物語は、竜崎麗華(通称:お蝶夫人)に憧れ、名門・県立西高校テニス部に入部した岡ひろみが主人公で、新しくコーチに就任した宗方仁にその才能を見出され、1年の新入部員であるにも関わらず選手に抜擢され、その事から、部内で先輩たちからいじめを受け、苦しい日々を送るところから始まります。


これで終われば、単なるスポ根漫画ですが、これらの苦難を乗り越えテニスの素晴らしさを知り、一流テニス選手へと成長していく過程で、宗方コーチとの子弟の絆、藤堂貴之との恋愛など、哲学的な要素が描かれている事が、読書を引きつけたのかもしれません。 

例えば、人間関係だと、超高校級と言われたお蝶夫人のライバルである、加賀高校の緑川蘭子の長身から打たれるサーブの強さは計り知れず、お蝶夫人も苦戦を強いられるが、試合中、お蝶夫人の打った低いボールを打ち返そうとして蘭子の手がコートに打ちつけ、蘭子は大怪我を負ってしまった。


そのため蘭子は棄権、優勝はお蝶夫人となった。試合後、蘭子は泣き崩れ宗方コーチにしがみついた。


実は蘭子と宗方は異母兄弟だった。


宗方の父は、宗方とその母を捨てお腹に蘭子を宿した蘭子の母のもとへ行った。宗方は父を憎み、生まれた子供はどんな子供なのかと見に行ってみると、背が高いことを悩む蘭子がいた。宗方は異母兄妹であることを隠して蘭子に近づいた。長身を気にして自分に自信がもてなかった蘭子に宗方はテニスを教え、その長身から打ち出されるサーブは素晴らしい武器であると教えた。


テニスを始めたことで自分に自信が持てるようになった蘭子は、いつしか宗方に恋心を抱くようになっていた。しかしそのことが蘭子の母に知られ、蘭子は宗方と自分は血が繋がっているのだと知った。恋心は捨てたものの宗方を慕う気持ちは捨てきれない蘭子だった。






また、宗方とひろみが目指すテニスはパワーテニス。


女子が男子並みの体力と技を得るためには凄まじい努力が必要となる。選手本人の努力はもちろん、育てる側も大変な苦労を強いられる。それでも宗方はひろみにパワーテニスを身につけさせようと精神を支え、身体を鍛え、情熱的にひろみを育てる。


西高の軽井沢合宿が始まった。アクシデントで川に落ちてしまったひろみは藤堂から着替えを借りることになり、藤堂を異性として意識してしまう。


藤堂を意識するあまりひろみは練習に身が入らなくなってしまった。ひろみの異変に気づいた宗方はひろみを部屋に呼び、「恋をしてもおぼれるな」と忠告する。


宗方は藤堂も呼び出し、「男なら女の成長を妨げるような愛し方はするな」と告げた。ひろみに思いを告げようと考えていた藤堂は宗方の一言で思い止まり、ひろみの成長のために今は黙って見守ろうと決意した。




この頃から、人間模様が凄まじく描き込まれる様になった気がします。


試合後、皆で宗方の家に行ったひろみは、宗方が祖父母と3人暮らしであることを知った。蘭子と一緒に帰宅途中、宗方の話になり、宗方がかつての名プレイヤーであったことや、怪我のために選手生命を絶たれてしまったことなどを知っり、ある日の練習中、草むらで宗方が横になっているのを見たひろみは、宗方の身に何か起こったのではと駆け寄った。今までにないひろみの様子に、ひろみが自分の体の事を知ったのだと宗方は察知したり、宗方は選手生命が絶たれる前に、悔いがないように精一杯プレイをするように、自分のように選手生命が絶たれてからでは遅いとひろみに話した。


ひろみは、宗方がいつも自分の体調をどれほど気をつけてくれていたのかを改めて気づき、宗方に対する信頼が増した。


全日本メンバー冬季合宿が行われた。選手1人につき専属のコーチが付けられるのだが、ひろみのコーチは宗方のままだった。コーチも選りすぐりの者が選ばれるので宗方はかなり優秀なコーチであると言える。


ひろみは宗方のコーチを受け始めて1年余になった。


ある日の練習中、マラソンをしていてひろみはこむら返りになった。藤堂に介抱され付き添われて帰る途中激しい雨が降り、雨宿りをすることになった。冬の雨は冷たく濡れた体は冷えて凍えている。藤堂はひろみを引き寄せ温めた。








宗方が迎えに行き、2人は合宿所に戻り、藤堂はすぐに部屋へ行った。ひろみは迎えに来た宗方に、藤堂への思いが強く、このまま宗方の言うとおりにやっていけるのかと不安を口にする。


宗方は全国女子ジュニアからたった8人選ばれた事への義務をまず果たせとひろみを諭した。



日本庭球協会は、各国の将来有望なジュニアテニスプレイヤー(高校生)を日本に招待し、招待試合を開催する旨を発表した。日本のジュニア選手に世界のプレイヤーの強さを実感させるため宗方が提案し、庭球協会が実現した企画だった。出場できるのは高校生のみ。大学生であるお蝶や藤堂は参加することができない。藤堂や尾崎、お蝶や蘭子は、日本のテニスの将来を見据え、自分たちは縁の下で後輩たちを支える道を選んだ。


恋に溺れ、調子を崩してインターハイを棄権した宝力はオーストラリアでがむしゃらに練習をしていた。





恋を捨てたと宣言し、テニスに集中しようとするのだが、イライラと周りに当たる宝力の姿に、エディはひろみと藤堂は互いに想い合っていながら打ち明けず、お互いの成長を妨げないように踏みとどまっているということを宝力に伝えた。

ひろみが2年も前から藤堂との恋に悩みながらテニスに打ち込んできたと知り、旅立つ前、ひろみに恋を捨てると宣言し苛立ちをぶつけてしまった事を宝力は後悔した。




ひろみの恋の話を聞き立ち直った宝力は、招待試合に参加するオーストラリアメンバーとともに日本に帰国し、ひろみに謝罪し、これからも互いに高め合う友達でいてくれと言った。



練習中、藤堂の球を受けそこねてコートで倒れこんでしまい、明日の試合に出たくないという気持ちで中々立ち上がれずにいたひろみに宗方から厳しい叱責の声が飛んだ。それでも立ち上がれないひろみに「テニスに対する愛情よりも観客に対する恐怖のほうが強いのか!」と宗方は言った。




立ち上がり練習を続けるうちに、藤堂のフォームがひろみの対戦相手ジョージィとそっくりであることにひろみは気づいた。






短時間の間にジョージィのプレイを真似できるようになり、ひろみの練習に協力してくれる藤堂の想い、高いところからひろみを引き上げてくれる宗方の力強さに気づいたひろみは、観客への恐怖を克服し試合に臨むことができた。


ジョージィとの試合は大接戦の末、ひろみが勝利した。次の試合はキング夫人の秘蔵っ子と言われるアメリカで最も将来を期待されているマリア・ヤング。キング夫人とは10代でウインブルドンダブルス2年連続優勝を果たし、その後シングルスも制覇、全豪選手権・全米選手権など世界のビックタイトルを次々と獲得した世界の最高峰プレイヤーである。そのキング夫人が育てたマリア・ヤングとの対戦でひろみは見事なプレーを見せた。しかし惜しくも敗退、優勝はマリア・ヤングが勝ち取った。


その後の親睦パーティーで日本の次はアメリカが招待試合を開催し、夏には欧州、次はアジア、その次は豪州が招待試合を開催すると発表した。


世界のテニス協会が手を取りあい、ジュニア世代の育成に力を注ぎ始めた。


アメリカの招待試合に宗方が一緒に渡米としないと言われ、ひろみは大きく動揺する。後から向かうという言葉を信じるが戸惑いは隠せない。


同時に、ひろみと藤堂に「おまえたちのことはおまえたちの自覚にまかせる」と言い、宗方は2人の仲を認めた。


正月、藤堂や尾崎、お蝶などのOBも含めた西高テニス部は新年の挨拶で宗方の家を訪問し新年会を過ごした。宗方家で一緒に住む大田コーチ夫妻に子供が出来たなどと嬉しい報告もあった。皆がお祝いムードに沸く中、宗方も優しい眼差しで皆を見ている。


その表情を見て、ひろみは自分がなにか大切なことを見落としているのではないかと動揺した。


宗方と出会って2年、何度もテニスや宗方から逃げようとしたがその都度ひろみを支え、ひろみだけを大切に育てた宗方に対し、自分は何も恩返しをしていない、藤堂との仲を認めてもらえたのは嬉しいけれど、そんな資格が自分にあるのか、とひろみは迷う。


練習中、沈んだ様子のひろみを気遣った藤堂にひろみは自分の悩み、宗方に何の恩も返していないことが急に不安になったということを話した。


藤堂は、宗方から受けた無償の愛は大きくてとても返せないけれど、ひろみが宗方から授けられた技、心などを後輩に伝えることで恩を返せると言った。自分も手伝うという藤東の言葉にひろみは救われる思いだった。


ひろみたちが渡米に向けての練習の中、自宅にいた宗方が倒れた。宗方は悪性の貧血を患っており、かつてプレイの最中にその症状が出て転倒、倒れ方が悪かったため、二度と走れない体になって選手を引退していたのだ。


入院した宗方のもとにひろみは駆けつけ泣きながら宗方にすがりついた。一日も離れていたくない、早く治して渡米して欲しいと泣くひろみをしっかりと抱きしめ、「すぐ行くさ」と宗方はひろみを安心させる。


一緒に見舞いに行った藤堂は、宗方からひろみへの師として、男としての愛を実感し、宗方が自分とひろみの交際を認めたこと、ひろみから離れようとしていることに疑問を持った。


ある夜、宗方は藤堂を病院に呼び出し、自分の寿命がもう残されていないことを話し、ひろみを支えてくれと頼んだ。藤堂は宗方の気持ちを察しひろみを全力で支えると約束した。

渡米当日、渡米メンバーで宗方のもとへ挨拶へ行き、宗方は皆を笑顔で見送った。


ひろみが皆の見送りを受け飛行機に乗り込む直前、宗方の声が聞こえたような気がして振り向いた。藤堂は宗方の異変を察知したが、ひろみを動揺させまいと笑顔を作り「コーチはいつだってきみの中にいるよ!」と安心させた。


宗方は日記に「岡、エースをねらえ!」と書き残し、息絶えるのであった。