眠っていたら
突然ガチャガチャとドアノブが動き出した。
シーンとした部屋の中でその音はとても響いた。
恐怖と共に目覚めた私は
できるだけ静かに
できるだけ早く
起き上がり、玄関へと歩を進めた。
もちろん枕元にある携帯電話を手にして。
ガチャガチャと動くドアノブ。
視線を逸らさず近付いていく。
そして私が近付けば近付くほど、
その音の間隔はひらいていった。
(もしかして…もう鍵が開きそうなのかな)
そんな恐怖で立っているのもギリギリな気持ちになる。
やっとの思いで扉にたどり着いた。
ガチャガチャ動くドアノブの音が怖すぎて、ドアノブを動かないようにがっちりと握ってしまいたい。
しかしその行為は、
少しばかりの安堵と引き換えに、
ドアの向こうにいる敵に自分の存在を知らせてしまうことでもあった。
自分の存在が知られてしまえば、
そこから何かが大きく、そしてとてつもない速さで進んでしまいそうで、結局私はドアノブに触れることはできなかった。
そんな私に今できること。
それは…そう。
せめて、
せめて、
敵が何人いるのか、誰なのか、それを知ることだ。
話せばわかる相手であることを願い、ドアスコープを覗いた。
全く知らない、年齢もバラバラな数名がウロウロとしていた。
みんな人間なのだが、なんだろう、無機質というか、生を感じないのだ。
歩いているのだから生きている私となんら変わらない人間であることは間違いないのに。
いや、一層のこと、ここで宇宙人だとか魔法使いだとか、はたまた魔王がいてくれていた方が、
ああ、ゲームの世界に旅立ったのね、私、
ということで落ち着けそうなものだ。
それくらいよくわからない気味の悪さがあった。
これはゲームなんかでもない、間違いなく現実だ、そしてとても恐ろしい現実なんだということを知ってしまった私は、
もうほとんど働いていない頭を無理やり回転させた。
ない知恵を振り絞った唯一の方法。
【110番】
今まで一度もかけたことなんてなかった。
本当に110だけで電話がかかるの?
なんて、どうしようもない疑問を浮かべながらかけてみる。
早く来て、来てくれさえすれば助かる!!お願い!!!
でもね、
かからなかった。
電波はある
壊れた様子もない
でもかけてもかけても無音なのだ。
どうして?
携帯電話があれば何でもできるんじゃないの?
電話だってメールだって世界にだって繋がるし、買い物だってできる。
悩みを相談したら答えてくれるところだって、要らないものを売ることだってできる。
どんな情報だって大体手に入る。
不可能なことなんてあったっけ?
携帯電話は万能じゃなかったの?
でも
今私の目の前にあるのは
ただの光の塊だった。
光はあるけれど
そう、これが本当の目の前が真っ暗になった、ってやつだ。
そして、
暗闇の中顔を上げると、
ドアの隙間から新たな光の塊が差し込んできた。
終