2011.11.7 03:16産経新聞
 ベトナムで日本製の原子力発電所が計画通り建設されることが、先月末の野田佳彦首相とズン首相の会談で決まった。

 東日本大震災による福島第1原発の事故にもかかわらず、海外からは今も日本の原発技術が信頼されている証しである。福島の経験と教訓を生かし、安全な原発をつくりあげよう。それでこそ、日本は国際社会の期待と信頼に応えることができる。

 福島の事故以降、国内にある原発は、安全性を高めるさまざまな策が講じられている。津波対策が抜本的に強化され、原子炉の冷却ができない事態に陥った全電源喪失への対策も実施された。

 定期検査後に再稼働する際は、想定を超える重大事故にどの程度まで耐えられるかをコンピューターシミュレーションで確認する「ストレステスト」(耐性検査)も課せられている。

 原子力安全委員会は、新たな原発建設の際の基準となる安全設計審査指針を見直し、従来は「想定する必要はない」とされてきた長期間の全電源喪失を盛り込んだ中間報告案を示した。

 万が一、原発事故が起きた場合の周辺住民の安全を守る重点防災区域も、従来の「8~10キロ圏内」を「30キロ圏内」に拡大する案が作業部会で合意された。

 原発を動かさない口実として、次々と高いハードルを課しているとの見方もあるが、これらの対策は原発の安全性を大震災前より高い水準へ引き上げ、中長期にわたる原発稼働に道を開くものだ。

 政府の原発政策と今回の原発輸出とが矛盾するのでは、との声もなくはない。

 しかし、菅直人前首相の思いつきによる「脱原発」路線とは違って、野田首相は「ベトナムは戦略的パートナーで原子力分野などの共同開発を進展させることで一致した」と、輸出をはっきり容認する立場のようだ。

 自然エネルギーの比率を徐々に高め、原発への依存度を低くしてゆくことに異存はない。しかし将来展望としては、地球温暖化を抑止しながら70億の地球人口を支えるため、「原子力を安全に使いこなす」という選択肢も残しておくべきだ。

 「脱原発」に過度にとらわれると、日本のエネルギー政策の幅を狭め、国際社会の期待にも応えられなくなってしまう。