2011.11.17 03:04産経新聞
エネルギー・環境会議および総合資源エネルギー調査会で、わが国の新たなエネルギー計画の検討が始まっている。「エネルギー・食料・防衛」の3つは、国の安全保障の最も基本的な要件だが、この新しい「エネルギー戦略」は、エネルギー消費の約96%を海外に依存するわが国の将来を決定付ける重要なものになるであろう。
≪感情論排し戦略的な判断を≫
福島第一原子力発電所の事故により、国民の「原子力に対するマイナス感情」は顕著で、世論調査で原発廃止を求める意見は70%を超す。現実に、多くの国民がクリーンエネルギーへの願望を抱き、「脱原子力+再生可能エネルギーへのシフト」のイメージは、国民や政治家に深く浸透している。
一方、エネルギー問題が、国民の生活や国力を決定付ける重要なものである限り、国のエネルギー戦略が、感情論や願望的イメージだけで選定されることがあってはならない。エネルギー政策は、計量的な分析や外交的な判断を含めて、高度に戦略的な判断に基づいて策定されなければならない。
エネルギー政策の策定は、多面的な視点からの評価により解を求める作業だといってよい。すなわち、(1)エネルギー資源の安定的確保(2)エネルギー資源の長期的確保(3)経済性(エネルギーコスト)(4)CO2の排出削減計画との整合性(5)国内インフラとの整合性や必要な投資(6)安全性-など複数の条件の釣り合いを取る必要がある。
特に、(1)、(2)、(3)はエネルギー安全保障に関わるもので、われわれの経済活動や生活に極めて大きな意味を持つ。また、CO2の排出削減は国際的な必須要件になっている。福島の事故が、原発の安全上のリスクの存在を鮮明にしたことは事実であり、過去の安全実績に基づいた原子力利用の単調な拡大路線を修正する必要があるのは確かだとしても、これらの多面的な視点からの判断を抜きに、特にエネルギー安全保障や低炭素という重要課題に対する総合的判断を抜きにして、「原子力から再生可能エネルギーへのシフト」を語るのは、明らかに早計である。
≪エネルギー特性代替できぬ≫
そこでは、「原子力が持つ高いエネルギー安全保障効果を他の電源で代替できるのか」「原子力が担うべき質的量的役割を再生可能エネルギーが全て代替できるのか」「CO2削減目標に対する具体策があるのか」という本質的問いへの解が抜け落ちている。
現状で全電力の約3割を担う原子力発電は、(1)燃料供給国の安定性と輸入先の多様性(2)燃料備蓄効果の高さ(3)CO2排出の少なさ(4)燃料の海上輸送依存度の低さ(5)経済性-などの、エネルギー安全保障上の優れた特長を有している。原子力の代替として天然ガス火力に期待するとしても、世界的にガス需要が増大する中で長期的な資源確保のリスクが存在しているうえ、中東やロシアなどの天然ガス資源国との外交上の困難が存在する。石炭火力についても、CO2排出量の高さがネックとなる。
再生可能エネルギーの利用拡大は重要な目標だが、量的質的観点からの適切な導入可能量を見極めることが肝要である。わが国の社会は「安定的なエネルギー供給」を基本に成り立っている。そんな社会では、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが天候や季節に依存し供給が不安定になりやすいという点は大きな問題になる。
エネルギーが安定的に供給されなければ、製造業、サービス業、ライフラインなどの社会機能、第一次産業や家庭生活までが満足には成立しない。特に、電力については、電力系統において、電力消費の時間的な変化に応じて、供給側が発電量を調整して需給バランスを取ることで、停電することのない安定性が確保されている。
≪太陽光や風力は10%が現実的≫
再生可能エネルギー発電量を増やすには、時間的な出力変動を、火力や水力発電の出力調整によって補完する必要が生じる。この調整力の限界や、系統の安定化にかかる多大なコスト、落雷などの送電系統の異常に対する脆弱(ぜいじゃく)性の拡大といった点を考えると、実際には、水力や地熱を除く再生可能エネルギー発電は、総発電電力量の10%強を目指す程度が当面の目標として現実的なのではないか。
省エネを進めるとしても、原子力が将来担うと期待されていた総電力量の50%以上の電力を、他電源で簡単に代替するのは極めて難しいといわざるを得ない。従ってわが国の今後において、原子力発電が一定の役割を担うという選択肢は現実的にあり得る。政府のエネルギー戦略策定では、エネルギー安全保障や各電源オプションの現実的な適正規模を含め慎重な検討が行われることを期待する。
なお、わが国が、原子力を今後も利用するには、原子力安全の水準を本質的に高めることが必要条件となることは明らかである。電力事業者や政府の安全規制機関は、福島での事故の反省に基づいて、抜本的な安全強化策を早期に構築すべきである。原子力の安全性強化が、わが国のエネルギーの将来を担っているともいえる。(やまな はじむ)
エネルギー・環境会議および総合資源エネルギー調査会で、わが国の新たなエネルギー計画の検討が始まっている。「エネルギー・食料・防衛」の3つは、国の安全保障の最も基本的な要件だが、この新しい「エネルギー戦略」は、エネルギー消費の約96%を海外に依存するわが国の将来を決定付ける重要なものになるであろう。
≪感情論排し戦略的な判断を≫
福島第一原子力発電所の事故により、国民の「原子力に対するマイナス感情」は顕著で、世論調査で原発廃止を求める意見は70%を超す。現実に、多くの国民がクリーンエネルギーへの願望を抱き、「脱原子力+再生可能エネルギーへのシフト」のイメージは、国民や政治家に深く浸透している。
一方、エネルギー問題が、国民の生活や国力を決定付ける重要なものである限り、国のエネルギー戦略が、感情論や願望的イメージだけで選定されることがあってはならない。エネルギー政策は、計量的な分析や外交的な判断を含めて、高度に戦略的な判断に基づいて策定されなければならない。
エネルギー政策の策定は、多面的な視点からの評価により解を求める作業だといってよい。すなわち、(1)エネルギー資源の安定的確保(2)エネルギー資源の長期的確保(3)経済性(エネルギーコスト)(4)CO2の排出削減計画との整合性(5)国内インフラとの整合性や必要な投資(6)安全性-など複数の条件の釣り合いを取る必要がある。
特に、(1)、(2)、(3)はエネルギー安全保障に関わるもので、われわれの経済活動や生活に極めて大きな意味を持つ。また、CO2の排出削減は国際的な必須要件になっている。福島の事故が、原発の安全上のリスクの存在を鮮明にしたことは事実であり、過去の安全実績に基づいた原子力利用の単調な拡大路線を修正する必要があるのは確かだとしても、これらの多面的な視点からの判断を抜きに、特にエネルギー安全保障や低炭素という重要課題に対する総合的判断を抜きにして、「原子力から再生可能エネルギーへのシフト」を語るのは、明らかに早計である。
≪エネルギー特性代替できぬ≫
そこでは、「原子力が持つ高いエネルギー安全保障効果を他の電源で代替できるのか」「原子力が担うべき質的量的役割を再生可能エネルギーが全て代替できるのか」「CO2削減目標に対する具体策があるのか」という本質的問いへの解が抜け落ちている。
現状で全電力の約3割を担う原子力発電は、(1)燃料供給国の安定性と輸入先の多様性(2)燃料備蓄効果の高さ(3)CO2排出の少なさ(4)燃料の海上輸送依存度の低さ(5)経済性-などの、エネルギー安全保障上の優れた特長を有している。原子力の代替として天然ガス火力に期待するとしても、世界的にガス需要が増大する中で長期的な資源確保のリスクが存在しているうえ、中東やロシアなどの天然ガス資源国との外交上の困難が存在する。石炭火力についても、CO2排出量の高さがネックとなる。
再生可能エネルギーの利用拡大は重要な目標だが、量的質的観点からの適切な導入可能量を見極めることが肝要である。わが国の社会は「安定的なエネルギー供給」を基本に成り立っている。そんな社会では、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが天候や季節に依存し供給が不安定になりやすいという点は大きな問題になる。
エネルギーが安定的に供給されなければ、製造業、サービス業、ライフラインなどの社会機能、第一次産業や家庭生活までが満足には成立しない。特に、電力については、電力系統において、電力消費の時間的な変化に応じて、供給側が発電量を調整して需給バランスを取ることで、停電することのない安定性が確保されている。
≪太陽光や風力は10%が現実的≫
再生可能エネルギー発電量を増やすには、時間的な出力変動を、火力や水力発電の出力調整によって補完する必要が生じる。この調整力の限界や、系統の安定化にかかる多大なコスト、落雷などの送電系統の異常に対する脆弱(ぜいじゃく)性の拡大といった点を考えると、実際には、水力や地熱を除く再生可能エネルギー発電は、総発電電力量の10%強を目指す程度が当面の目標として現実的なのではないか。
省エネを進めるとしても、原子力が将来担うと期待されていた総電力量の50%以上の電力を、他電源で簡単に代替するのは極めて難しいといわざるを得ない。従ってわが国の今後において、原子力発電が一定の役割を担うという選択肢は現実的にあり得る。政府のエネルギー戦略策定では、エネルギー安全保障や各電源オプションの現実的な適正規模を含め慎重な検討が行われることを期待する。
なお、わが国が、原子力を今後も利用するには、原子力安全の水準を本質的に高めることが必要条件となることは明らかである。電力事業者や政府の安全規制機関は、福島での事故の反省に基づいて、抜本的な安全強化策を早期に構築すべきである。原子力の安全性強化が、わが国のエネルギーの将来を担っているともいえる。(やまな はじむ)