新田次郎  点の記

 取材日記が最後のほうにあった。

図書館の奥の方から出された古めかしい本だった。紙は黄ばんでいた。文字は小さい。本文を読む前に取材日記を読んだ。

 登山をしない私だけど、「線の記」を読んでいたから地名がわかり、主人公がどこを通っていったかなど理解できた。そして、なぜ本の名前が『「点」の記』と名前が付いたかが分かった。

 登頂して、錫杖と剣が見つかった場面は、たんたんとした書きぶりだったので、何回も読み直した。初めての登頂ではなかったから上層部の取り扱いが冷淡だったことに腹を立てた。現場で苦しんだ主人公たちの苦労を思えよと。

 近くの山でも頂上には「3角点」と石に書いて埋めてあるのを見る。それを見るとなぜか気分が高揚して写真を撮りたくなっていた自分がいる。それはここまで正確に測りに来た人がいるという感激かな。3000メートル級の山に3角点を打つのがどれほどの苦労か!地図を作るのも!

 剣岳は点を打つ機材が運ばれないので、「4等・・・」しか名前がつけられなかった。それ剣岳は頂上に「点」を打つのはむつかしい難所だったということ。

 

そして思った。あの取材日記からこれだけの物語を書いたということ、作家ってどんな頭を持っているんだろうと。私は危うく、剣岳登山競争が本当にあったと思い込んでいた。『点の記』をドラマ化したのを見ていたからだ。

 

 この本が新しい紙(白い)で、もう少し字が大きかったら、そしてこの前読んだ「剣岳…線の記」に書かれてあった地図があったら、何回でも読みたいと思った。