ショパンの「革命のエチュード」…Op.10-12。あまりにも有名なナンバーなので、紹介不要かもしれない。でも、知らない方がおられるかもしれないので、今回は辻井伸行さんが演奏する「革命のエチュード」を紹介しよう。


エチュード=練習曲に留めるには勿体無く、情景が目に浮かぶようなドラマティックさがある。辻井さんの素晴らしい演奏が、この曲のドラマ性を尚更引き立たせている。

さて、「革命のエチュード」も難易度が高い。難易度を高めているのは、左手の高速アルペジオである。


具体的には♩=160のテンポ(BPM)で、16音符の和音分散を左手で弾く。当然のことながら、全体の曲調も作っていくため、音の強弱もpp(ピアニシモ)からff(フォルテシモ)まで付ける。

この左手の高速アルペジオを弾くには、どうすれば良いか?無理矢理指だけで速く動かして弾こうとしても、厳しい。重力奏法を使わないと無理だ。言い方を変えると、「指」だけで弾こうとするのではなく、「手首」を回転させるだけで弾く奏法だ。動画ではこんなイメージになる:

指で弾く奏法(ハイ・フィンガー奏法)




手首で弾く奏法(重力奏法)



重力奏法では指を寝かせ指の腹で弾く、所謂「ベタ弾き」になる。日本の殆どのピアノ教室で教える、手を「卵を掴んだ形」のようにし爪先が当たるくらい指を立てるハイ・フィンガー奏法とは、対極の弾き方である。

ショパンの「革命のエチュード」、実は筆者の母親が好きで、筆者に「家内のエチュード」を弾いてもらうのが夢だったそうだ。筆者は特に若い頃はショパンなんか大嫌いで、ヤワな男が女の子からモテるために演る軟弱な音楽、程度の認識しかなかった。

そんなクラシック嫌いが変わったきっかけは、長男が7〜8年通っていたピアノ教室を辞めたことだ。「クラシックって、そんなに取っ付きにくいのか?だったらオレが演ってやろう」だった。そこで、母親が好きな「革命のエチュード」に挑戦しようと思い立った。弾こうとしたのは良いが、例の速く動く左手が、指定のテンポではとても弾けない。

なんで弾けないのか、色々調べているうちに、重力奏法の存在に辿り着いた。重力奏法で弾いてみたら、左手の高速アルペジオが弾ける。音の強弱も、重力奏法の方がラクにできる。その後、筆者は完全に、ベタ弾きの重力奏法に切り替えた。ジャズピアノにも強力に転用可能で、歌伴のときに包み込むようなソフトな音色を出し易いのだ。指を立てて弾くハイ・フィンガーだと、指は速く動かせないし、微妙な音色のコントロールが難しいと思う。

著名なピアノ演奏家も、重力奏法を支持しているようだ。このブログを書いていて見つけたのだが、ショパン国際ピアノコンクールで3位の栄誉に輝く横山幸雄先生(家内が大好きだ)も、ハイ・フィンガー奏法の弊害をこのように語っておられる。
ショパンの「革命のエチュード」は、重力奏法で弾くことの重要性を気付かせてくれた曲だ。今でも、左手の高速アルペジオを、ppからffまで重力奏法で出せるかチェックする目的でこの曲を弾く。