「Animal Hoarderって知ってるかい?」
自宅などに飼育不可能な数の動物を集め、手放すことができない精神状態に陥っている人のことを言います。(アニマルコレクターと呼ばれることもある)
アニマルホ―ダ―には自家繁殖を繰り返す飼養者や、動物保護を目的とする救助者など、いくつかのタイプがありますが、動物が増えていくにつれて世話ができなくなり、著しい過密状態で、病気、餓死、共食いなどが広がり、次第に事態の収拾ができなくなっていきます。(アニマルホ―ダ―の70%~80%が生活区域に動物の糞尿や死骸などを放置していると言われている)
極めて不衛生な環境のため、パスツレラ、白血病、猫エイズなどの感染症や皮膚病、骨格異常などが蔓延し、動物たちの多くは安楽死をせざるをえない状態で発見されますが、人間にとっても多量の排せつ物の蓄積は、人畜共通感染症の温床となり、公衆衛生上、深刻な問題となっています。
アニマルホ―ダ―の定義
- 管理可能な限度を超えた動物を飼育(収集)している。(善意のレスキュー活動を名乗り、シェルターと称して動物を抱え込むケースも多い)
- 最低限の給餌や衛生面での配慮、居住スペース、獣医療等の提供ができない。
- 状況の悪化に対する危機感が希薄で、動物を飼い続け、増やすことに執着する。
- 過剰多頭飼育が、動物だけでなく、本人および周囲の人間にも深刻な健康被害を及ぼしていることを認識できない。
アニマルホ―ダ―の特徴
- 飼育している動物は様々だが、比較的小さく家の中に隠しやすいため、猫を収集するホ―ダ―が多い。(犬のホ―ダ―は、鳴き声などの苦情が来るため、多くは郊外や山の中などに住んでいる)
- 2/3~3/4は中高年の女性だが(半数は独身または一人暮らし)、若い人や夫婦もいる。
- 社会的、経済的に恵まれない人が多いが、中には高学歴できちんとした職歴を持ち、世間的には異常者と認められない場合も少なくない。(匂いがつかないよう服だけ別の場所に置き、外で着替えて出勤するなど、巧妙に隠している人もいる)
- 適正な飼育管理ができず、糞尿や死骸を放置するなど、動物を悲惨な状況に追い込みながら、本人に動物虐待をしているという自覚がない。
- 動物を手放すことに強い不安を感じ、里親探しなどをほとんどしない。
また、改善の要請や救助を申し入れる愛護団体や行政を敵視することも多い。
*その他、繁殖、売買を目的とするブリ―ダーが、売れずに飼育放棄をするケースもある。
アニマルホ―ダ―への対応策
アニマルホ―ダ―の常習率はほぼ100%と言われ、たとえ動物を没収されても、すぐに また動物を集め始めようとするため、多くの場合、単に飼育頭数を減らしたり、法で裁くことは本当の解決にならないと言われています。(起訴に持ち込むこと自体が難しく、刑罰も軽い)
前述したHARCでも、問題の介入、改善には、精神医学的な「心のケア」が重要で、動物管理局、動物公衆局、社会福祉局、住宅局、警察、消防、裁判所などの行政機関のほかに、 獣医師、心理学者、動物福祉団体、一般市民、ボランティア、家族、友人など、様々な関係団体、個人が連携し、生涯に渡る監視を含めた長期的な取り組みが必要と述べています。
中には、行政が、動物保護ボランティアとして、アニマルホ―ダ―に犬猫を譲渡しているケースすらあります。 動物のサンクチュアリと称して、終生飼育を謳い、多額の募金を集めた末に、窓のない部屋に数百頭の犬を押し込み、病気を蔓延させ、発覚時にはほとんど処分せざるをえなかったというアメリカの事例がありますが、日本でも同様の事件は頻繁に起こっており、発覚していないアニマルホ―ダ―はまだまだ数多く存在しています。
保護活動をしていると言いながら自宅を絶対に見せない、すでにたくさんの動物がいるにもかかわらず、行き場のない動物の情報が入るとすぐに引き取ろうとする、動物の数が増えても里親探しをしている形跡がないなどの場合は、アニマルホ―ダ―の可能性があります。
第四節 周辺の生活環境の保全等に関わる措置
第二十五条
都道府県知事は、多数の動物の飼養又は保管に起因した騒音又は悪臭の発生、動物の毛の飛散、多数の昆虫の発生等によつて周辺の生活環境が損なわれている事態として環境省令で定める事態が生じていると認めるときは、当該 事態を生じさせている者に対し、期限を定めて、その事態を除去するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
2 都道府県知事は、前項の規定による勧告を受けた者がその勧告に係る措置をとらなかつた場合において、特に必要があると認めるときは、その者に対し、期限を定めて、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
3 都道府県知事は、多数の動物の飼養又は保管が適正でないことに起因して動物が衰弱する等の虐待を受けるおそれがある事態として環境省令で定める事態が生じていると認めるときは、当該事態を生じさせている者に対し、期限を定めて、当該事態を改善するために必要な措置をとるべきことを命じ、又は勧告することができる。
4 都道府県知事は、市町村(特別区を含む。)の長(指定都市の長を除く。)に対し、前三項の規定による勧告又は命令に関し、必要な協力を求めることができる。
第四十六条の二
第二十五条第二項又は第三項の規定による命令に違反した者は、五十万円以下の罰金に処する。
(地方公共団体の措置)
第九条
地方公共団体は、動物の健康及び安全を保持するとともに、動物が人に迷惑を及ぼすことのないようにするため、条例で定めるところにより、動物の飼養及び保管について動物の所有者又は占有者に対する指導をすること、多数の動物の飼養及び保管に係る届出をさせることその他の必要な措置を講ずることができる。
*また、いわゆる愛護団体のシェルターも、下記の法律の対象となり、無届や、虚偽の申し出については、30万円以下の罰金が課せられます。
第三節 第二種動物取扱業者
(第二種動物取扱業の届出)
第二十四条の二
飼養施設(環境省令で定めるものに限る。以下この節において同じ。)を設置して動物の取扱業(動物の譲渡し、保管、貸出し、訓練、展示その他第十条第一項の政令で定める取扱いに類する取扱いとして環境省令で定めるもの(以下この条において「その他の取扱い」という。)を業として行うことをいう。以下この条において「第二種動物取扱業」という。)を行おうとする者(第十条第一項の登録を受けるべき者及びその取り扱おうとする動物の数が環境省令で定める数に満たない者を除く。)は、第三十五条の規定に基づき同条第一項に規定する都道府県等が犬又は猫の取扱いを行う場合その他環境省令で定める場合を除き、飼養施設を設置する場所ごとに、環境省令で定めるところにより、環境省令で定める書類を添えて、次の事項を都道府県知事に届け出なければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては代表者の氏名
二 飼養施設の所在地
三 その行おうとする第二種動物取扱業の種別(譲渡し、保管、貸出し、訓練、展示又はその他の取扱いの別をいう。以下この号において同じ。)並びにその種別に応じた事業の内容及び実施の方法
四 主として取り扱う動物の種類及び数
五 飼養施設の構造及び規模
六 飼養施設の管理の方法
七 その他環境省令で定める事項
ドイツのドゥイスブルグ市にある一軒家について最寄の動物保護団体へ通報が入った。周辺近隣住人たちは数ヶ月にわたりこの家から発せられる問題を我慢をしてきたがとうとう限界も限界を超え、そして駆けつけた団体員と獣医局の獣医師が目の当たりにしたものはまるで悪夢だった。現場には数え切れないほどの犬が糞尿で汚れきった敷地内にうろつき、鼻を突くようなアンモニア臭と耳を裂かれるほどの鳴き声が充満していたのだ。
この現場で家主のアネッテ・Gが見た目にはごく普通の様相で団体員と獣医師を出迎え、数時間にわたる調査と犬の捕獲作業の終わりに数えられた犬の数は実に263頭であった。
別の事件ではブランデンブルグ州の一軒家でも、231頭の犬たちが飢えと病気に苦しみながら飼われていたり、犬だけではない、12㎡しかない部屋の中で133匹ものラットが、あるいは60㎡足らずのマンションで1,000羽以上のセキセイインコが飼われていたりと、これらはすべて動物収集癖のもたらした結果である。
この現象の背景にはヒトの「アニマル・ホーディング(Animal Hoarding)」と呼ばれる精神障害がある。
日本では大量の猫と暮らす「ネコ屋敷」 としての現象が有名だ。
動物の数が飼育者の動物管理能力の限界を超えているため通常の動物飼育条件(衛生観念、ケア、食餌、獣医療)がすべて劣悪で、敷地内は汚れきって荒廃し、しかし飼育者はこれらを問題として認識できない状況にある。
科学的にはまだ解明されていないこの精神障害は件数の4分の3は飼育者が女性で、一人暮らしか年配かだそうだ(50歳以上が件数の50%を占め、46%は60歳以上)。当事者達皆が「自称動物愛護者」だという。
アメリカでは毎年1,000件以上の発生があり、現場からは10万頭以上の動物が数え上げられるほか、ドイツでは推定500件の発生、そして収集された動物のうち50%以上は犬だそうだ。
この精神障害の原因のひとつとして「一人暮らしの寂しさ」や「社会からの隔離」が上げられる。動物をそばに置くことで心を癒し、そして「家族の代わり」「生涯伴侶の代わり」「子供の代わり」として新しい動物を受け入れることで幸福感を味わうことが延々と続けられる。社会での孤立化・隔離現象は都市部ではますます強調され、アニマル・ホーダーはますます動物にしがみつく。
また「誰かを助ける」という観念に捕らわれた末、捨て犬やシェルターで仲介不可能な犬を自らの管理能力を考えずどんどん受け入れてしまうこともある。動物を助けると当事者は思い込んでいるが、引き取った犬が多くなりあるいは繁殖して増え始めると徐々に状況の全体像は失われ、動物を劣悪な環境に置くことで客観的には虐待をしていることになる。当事者が気がつかない限り、動物の存在はただ単に「飼育者へ満足感を与える手段」に過ぎない。
中には純血種の犬ばかり67頭を集め生まれた仔犬を売りに出していたという、収集癖が実益に結ばれていた例もある。このときは仔犬の親犬が飼われていた裏庭の汚れきった環境は公開されないまま購入希望者は仔犬しか見せてもらえず、仔犬の購入後に血統書が届かないことで「詐欺」として通報され、ことが明らかになった。
この事件の親犬たちの多くは糞まみれで淀んだ空気に包まれたケージの中で暮らしていた。まぶたが炎症を起こして目を開けられないセントバーナードのほか、犬同士喧嘩で受けた傷が化膿したままのもの、治療されなかった骨折、ノミ・シラミ・耳ダニ・呼吸器官感染症にパルボ・ジフテリアなどなど、そして仔犬たちには寄生虫や真菌症が見られ動物愛護どころか明らかに法律にも触れる行為であるが、飼育者自身もゴミの山のような部屋の中で暮らしていたというから、やはりどこか異常である。
こういったアニマル・ホーディング現象を解決する手段は唯一、強制的に現場の動物を飼育者から引き離し、飼育者自身が心理療法を受けること。まずはヒトとしてヒト社会での社会性について治療を受ける必要があるということだ。もちろん飼育者から動物を引き離すのは一筋縄で行くことではないし、それにかかる労力も膨大である。時には引越しをしながらアニマル・ホーディングを繰り返す事もあり、一度アニマル・ホーディングを起こした人間で未治療のものの約90%は再度同じことを繰り返す。
これらの現象で問題なのは動物を収集すること自体ではなくて、動物の置かれている状況。例え1頭で飼われていてもその状況が劣悪であれば問題なのだから、その規模が大きくなればますます問題なのである。
ドイツの動物保護アカデミーは昨年、獣医局や心理学者と共同でアニマル・ホーディングを早期に発見するための「チェックリスト」を作った。それほど年々発生件数が増加し、対応が急がれているということだ。ヒト社会の歪みの影響を犬(と動物)が受ける一例である。