宝剣岳での岩場歩きを存分に楽しんだ僕は、次なる目的地である木曽駒ヶ岳へ向かって歩き出した。



宝剣山荘に着いた瞬間、八丁坂を登ってきた登山者たちと合流するので、急に人が増えた感じだ。



宝剣岳は非常に充実した岩場歩きが体験できるが、時間としてはあっという間に終わってしまう。そこで、山には失礼な言い方になるが「ついでに」木曽駒ヶ岳にも登ろうと考えた。



しかし、正直に言って、乗越浄土から中岳を越えて木曽駒ヶ岳の山頂に向かうルートはそんなに面白くはない。積雪期には程よい雪山登山が楽しめるが、無雪期は物足りないのだ。(無雪期に訪れるのは初めてなのに偉そうだが。)



そこで、今回は木曽駒ヶ岳のピークを踏んだ後、乗越浄土に戻ってくるのではなく、馬の背方面へと足を伸ばしてみることに。



木曽駒ヶ岳の山頂は記念写真を撮るための行列ができるほど人で溢れていたのに、馬の背方面に歩き出した瞬間、ほとんど人がいなくなる。



こうも違うのか!と驚くほどの静かな山歩きが始まった。実はこのルートは、桂木場登山口から将棋頭山を経て木曽駒ヶ岳に至る由緒正しきクラシックルートだ。その昔ながらのルートを木曽駒ヶ岳山頂を起点に歩いているわけである。



今回は日帰りで時間の関係もあるし、最後はスタート地点の千畳敷に戻らなければならないため、途中の八合目分岐点で稜線を離れて、濃ヶ池方面へと下っていく。



木曽駒ヶ岳山頂から八合目までも数名の登山者にしか出会わなかったが、分岐点から濃ヶ池までの間は誰一人とも出会わない静か過ぎる山歩きであった。



人が多過ぎるのは好まないが、こういう場所で人に出会わなさ過ぎるのも不安な気持ちになってしまう。熊の餌になりそうなナナカマドの実だけは豊富なルートだったので、人じゃなくてクマに出会ったらどうしよう、と少しドキドキしながらやや早足で歩いた区間だ。



この辺を歩いている時間帯から急速にガスが上がってきた。朝早い時間はあんなにクリアだった空が嘘のようだ。





そして辿り着いた濃ヶ池。こんな素晴らしい景色があったのかと驚かされた。木曽駒ヶ岳に来たなら、千畳敷と木曽駒ヶ岳の往復だけでは勿体なさすぎる。そう思わせてくれるスポットだ。



名前がついているかわからないけど、ここも立派なカール地形。奥には先ほど登った宝剣岳の山頂も見えていて、その宝剣岳が湖面に映り込む様子が素晴らしい。ガスが出てきたのが残念だったけど、完全に視界が塞がれたわけではないのでよかった。



少し休憩がてら景色を楽しんだ後は、次に目指す駒飼ノ池を目指して歩き始める。再び静かな山歩きが始まる。しばらくしてようやく一人の登山者とすれ違う。ホッとするが、熊の糞を発見したという話を聞き、再び熊の恐怖が蘇ってくる。


(音が出るのでご注意を)


途中ちょっとした沢を横切る箇所がある。日差しが強く暑さを感じる日だったので、沢の冷たい水で気持ちよく顔を洗う。飲めるかどうかわからなかったが、冷たくて美味しそうだったので、少し喉を潤す。山の水は本当に美味。まさに山の恵みを体感できるひとときだ。



2箇所だけ木製のハシゴを登るところもあるが、危険箇所などは一切なし。登りもそんなに急ではないので、比較的歩きやすい道と言ってよいだろう。




そうこうしていると再びカール地形が目の前に。駒飼ノ池というスポットで、池と呼ぶにはほとんど水は枯れてしまっているのだが、立派なカール地形に目を奪われる。



ここまで来れば乗越浄土まではあと少し。カール上の稜線には山荘もくっきりと見えている。ここも何とも気持ちの良い場所だ。



しかし、このカール地形、実は遭難の原因となる落とし穴でもある。木曽駒ヶ岳山頂から乗越浄土まで戻ってきた登山者が、千畳敷に戻るつもりで、うっかり似たようなカール地形のこちら側へと降りてしまうのだ。



たしかに積雪期で登山道が全て雪に埋もれた状態で、風が強くてホワイトアウトしてしまうと、方向感覚がなくなってしまい、こっち側に迷い込むこともあるのかもしれない。実際に死亡事故も起きている。そう考えるとなかなか恐ろしいカールである。



そんなカールから稜線上を目指して最後の登りを登り切ると、再びそこには多くの登山者が。



そしてここからが大変だった。ラストは乗越浄土から八丁坂を下って、千畳敷のロープウェイ駅を目指すわけだが、この道が大渋滞。



ここは富士山か?!と思えるくらいの大渋滞で、サクッと降りるつもりだったのに、実際にはかなりのノロノロ下山となってしまった。木曽駒ヶ岳の集客には驚かされるばかりだ。



下山後も今度はロープウェイに乗るために長蛇の列に並ばなければならない。ロープウェイに乗るために30分くらいは待つことに。



この時間には千畳敷も完全にガスに覆われ、宝剣岳も見えなくなってしまった。景色目当ての観光客の方は残念な思いだったであろう。




宝剣岳というメインディッシュの後は、正直おまけという感覚で計画した山行だったが、実際に歩いてみて、大人気ルートから外れた静かなルート、そして実はより多くの魅力が詰まったルートがあることを発見できた有意義な1日であった。