富士山で遭難死亡事故が立て続けに起こったというニュース、そしてそれを受けて、閉山中に登山をすることを本当に許していいのか?という論調の記事が出ている。



まずは亡くなった方のご冥福をお祈りしたい。そして、記事にもあるように山岳救助隊員の方々の奮闘に深く敬意を表したい。


その上で、記事に対する違和感だ。閉山中の富士山よりリスクの高い山は日本中いくらでもあるだろう。しかし、富士山だけがやり玉にあがることについてはちょっと違和感がある。



調べてみたら、閉山中に登山道を通ることは厳密には道路交通法に違反するらしい。実効性はさておき、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金とは穏やかではない。



その一方で「富士登山における安全確保のためのガイドライン」というガイドラインがあって、そのガイドラインでは、夏山以外のシーズンに登山者が守るべきルールが定められている。



大きくは3つで、①万全の準備がない人は登山禁止、②登山計画提出の徹底、③携帯トイレの携行徹底という内容だ。3つめのトイレはさておき、富士山とか関係なく、全ての山において登山者にとっては常識だ。何一つ特別な話はない。



そもそも閉山中は道路交通法に違反すると言っておきながら、一方で、その時期に登る場合の注意点を示しつつ、でも事故が起きると閉山中に登るのはモラルが低いとか、その時期は自粛を強く要請するとか、かなり軸がブレている印象を受けるのは僕だけだろうか。



実際のところ、閉山中の富士山より危ない山は沢山あって、多くの人が登っているわけだ。自分の力量に合った山に万全の準備で登るのは当たり前だし、その上でのリスク負担も含めて究極は自己責任の世界。それなのに富士山だけが、特別に取り上げられてしまう現実。



それは、やはり富士山が「特別な」山だからなのだろう。普段は登山をしなくても、富士山だけは登ってみたいという方も大勢いる。そうなると、登山者の常識が通用しないケースもあるわけだ。だから、富士山だけは特別扱いしておいた方がリスク管理の観点からは望ましいというのは、一つの考え方かもしれない。


あと一つ感じるのは、天候についてのリスク管理だ。この点はもっとできることがあるのではないかと思う。今回も、晴れてはいたけど、かなりの強風だった可能性があると記事には書かれている。



遭難の中には、天候の条件が悪かったことで、そのような事態に陥ったケースも少なくない。雨だけではなく、風も含めて事前の予報を徹底的に分析して、天候の不安がある時は登らないという判断をすれば、それだけでもグッとリスクは下げられる気がする。



富士山が「特別な」山なのであれば、徹底的に天候についての分析検討をした上で、一定以上のリスクがあると判断される場合は、アラートを出したり、登山口で今日はやめましょうと声かけして働きかけるとか、色々とやり方はあるかもしれない。


もちろんそのコストをどこから捻出するのか等、一筋縄ではいかないのも事実だろう。でも、何か考えてもいいような気がする。



結局のところ、僕たち登山者がしっかりしたリテラシーを持って、適切なリスク評価をした上で、慎重な行動を心掛けるというところに帰着するのだが、少なくとも「登ること自体が悪」という短絡的な発想ではなく、もっと建設的な議論がなされることに期待したい。