できればやりたくないビバーク。


ビバークと言うと何やら登山上級者の雰囲気を醸し出している感もあるが、身も蓋もない言い方をすれば、遭難して仕方なく野宿すること、である。


まあ、野宿と言っても、できるだけ生還確率を高めるために色々と知恵を絞った野宿ということになるだろうか。


遭難もしたくないし、もちろんビバークもしたくない。それが雪山となればなおさらだ。


とは言え、冬山登山をする以上は、そんなに危険じゃない山であっても、遭難するリスクは負っているわけで、僕もいつビバークの必要性に迫られるかわからない。


深田久弥の日本百名山を読んでいると、たまに深田久弥もビバークをしていたりする。途中で道に迷い暗くなってしまったのでビバークした、みたいな話が出てきたりするのだ。


昔は今みたいにスマホのGPS地図もなければ、登山道も未整備なところが多かっただろうから、その時代の登山者は結構ビバークすることもあったのかもしれない。


ビバークといえばツェルト。一応、冬山だけでなく、夏山の日帰り登山でも、常にザックの中にツェルトは忍ばせてある。


しかし、夏山にはなくて、冬山にしかないものがある。


雪洞である。


漫画「岳」を読んでいると、よく主人公の島崎三歩が「雪のホテル」と言って雪洞を掘るシーンが出てくる。


三歩はいとも簡単に広い雪洞を掘って、その中で遭難者に温かいコーヒーを出してあげたりしているわけだが、実際に雪洞を作るというのはどのくらい大変なのか。気になって仕方がなかった。



そんなわけで木曽駒ヶ岳、千畳敷にて冬山ビバーク講習を受講。


講習としては、①ツェルト張り、②竪穴式の雪洞作り、③ピッケルを使って1人用の雪洞作り、④参加者全員で横穴式の広い雪洞作り、といった内容が主なもの。



ちょうど南岸低気圧の影響で、東京も含め関東甲信越地域は大雪予報ということで、ビバーク講習としては、リアルさを出す意味で絶好のコンディションである。


こんな日に木曽駒ヶ岳に登る人なんていないので、ロープウェイはガラガラで、実質この講習を受ける人とガイドさんの貸切状態。


講習は千畳敷のロープウェイ駅近くで行われたが、時折吹く強い風が冬山の厳しさを教えてくれる。ほとんどホワイトアウトという状態で、本来なら絶景のはずの千畳敷カールの姿を見ることはできず。



ツェルトを張ってももの凄い風で吹き飛ばされそうになるほどだ。


(注)風の音が出るためご注意


このコンディションで実際にツェルトの中に入って思ったことは2つだ。


1つは、ツェルトの有効性の高さ。あんな薄っぺらい生地1枚なのに、中に入るとちゃんと風を凌げるし寒さを感じない。なるほど、これは凄いと素直に感心。



しかしもう1つは、やはりツェルトを張る状況に陥らないことが一番ということだ。ガイドさんのアドバイスもあり、3人がかりでようやく張ることができたわけだが、本番もうまくいくとは限らない。


強い風でツェルトが飛ばされたりしたらお終いである。やはり使わずに済むように普段からのリスクマネジメントが大切だ。


そしてメインイベントの雪洞作り。感想は次の3つだ。


①楽しかった。


②快適だった。


③疲れた。


まずはとにかく楽しかった。




雪洞作りの動画と写真を妻にLINEして息子に見せたら息子も興味津々だったご様子。




つまり子供も楽しそうと思う要素が詰まっているのだ。童心に帰って雪を掘り続ける楽しさ。これがまず最初の感想である。




そして、中に入ってびっくり。確かに快適だ。外が吹雪いていても、中に入ると驚くほど快適で、上手に入口をツェルトで塞げば、立派な「雪のホテル」の出来上がりだ。



今回は講習の限られた時間なので、もっと時間をかければより快適な雪洞が作れるはずだ。これなら確かに漫画の中で三歩がくつろいでいたのも頷ける。


そんな快適な雪洞だが、忘れてはいけないことが一つ。


とにかく疲れる。雪洞を作るのは重労働である。


雪国とは無縁の地域で育った僕は、まともに雪かきをしたこともない。シャベルで雪を掘るとか、その雪を別の場所に放り投げるなど、シャベルの使い方に慣れていないので、いちいち疲れるわけだ。


「岳」の中では、三歩はいつもニコニコしながらあっという間に雪洞を作っていたような気がするが、あれは三歩クラスの上級レベル登山家だからできることであり、素人にとってはかなりの重労働である。


翌日は筋肉痛になるだろうと自信を持って言えるくらい僕にとっては大変だった。



そんなわけで初めての雪洞作り体験。とても楽しく充実した1日となった。


そして本日は吹雪で何の視界もないホテル千畳敷に宿泊。その様子はまた改めて。