『児童言語研究会の夏の集会を振り返る』
          二00七・九・一0      児童言語研究会副会長  山岡寛樹

一、総括
  本年度の児童言語研究会第四十四回夏季アカデミーは、五百七人の参加者を得て無事終わった。
  シンポジウムでは『めだか』を主たる教材として論理的思考力を高める説明文の授業」について藤田伸一が提案をし、鶴田清司氏・大山圭湖氏が意見を述べた。小学三年生の段階で書き手の表現の工夫などを中心に考えていくことから論理的思考力を考える提案であった。三年生のしっかりとした自己主張を考慮しながら、多様な読み・細かな言葉に着目しながら論理展開をしっかりと押さえた読みへの評価が出された。内容と論理を関係づけながら読みの授業を進めるべきであるという意見や、書かれている事柄についての読みや評価が少ないというフロアーからの意見も出た。
  フォーラムと『競争を強いられる中で育つ子どもたち』では、山本由美氏・中山和人氏・見城慶和氏を意見者として真の学びと教育活動と学校を地域で作り支える運動の大切さが論議された。「新自由主義」の大きな流れの中で競争がいかに学習を狭いものにしやせ細らせているかが浮かび上がってきた。とても良いフォーラムであった。
  基礎講座として文学低学年・文学高学年・説明文・中学・領域別分科会として児童文学(広瀬恒子氏の話し)・教材の読み方・音読表現読み・文法指導の8分会を半日持った。
  授業分科会は自主教材や現行教科書から外れている教材を多く実践報告した。それぞれの教材の良さはあるが、参加者に魅力が届かず参加者数を減らした原因になったとも考えられる。『はじめは「や!」』『ごめんねともだち』『なっちゃんとぼく』『紅玉』『海の命』『握手』『いるかのひみつ』「メディアリテラシー『CMを読み解く』」「モチモチの木」「ごんぎつね」(四年国語教室作り・音読表現読みで)どの分科会も教材研究がしっかりし、一日たっぷりの授業分科会となった。
  音読表現読みの分科会は、根強い人気がある。説明文の分科会や文法の分科会への参加が増えていることを特徴としてあげることができる。ピサ型学力問題が影響しているようである。「論理的思考力」を掲げると、問い合わせが増えるという状況である。論理的思考力についての定義をしっかりとしていく努力をすること。「学力」の定義を明確にしていくことが、私たちに求められている。
  現在、児童言語研究会では文法の授業プリントを作って、構文法を中心にした「考える力に繋がる教材開発」に取り組んでいる。「文は判断である」考え、命題としての文を大切にしたい。授業時数が減る中でも可能な文法の取り立て指導をどうするのかについて研究を進行中である。理論研究とプリント作りは車の両輪である。多くの方に納得してもらえるものをと考えている。「論理的思考力を育てる文法教育」といったシンポジウム提案ができれば良いと考えるが、まだ先のことになるであろう。来年は、「論理的な思考力を育てる『説明文の授業』」の継続研究の成果をシンポジウム提案することになると思う。現場が忙しくなり、教育の自由が脅かされる中で、集団討議がしにくくなっている。授業参観やビデオ撮影が厳しい職場も出始めている。この辺についてどうしていくのかは、今後の課題である。生の子どもたちの事実を基に教育研究を進めていくことが特に大切であると考える。

二、私見
1説明文の読みの過程での論理的思考が鍛えられる場面
  話し合いの過程は多様な思考力が要求される。自分の考えと他人の考えの異同を瞬時に判断していく。そうしたダイナミックな話し合いの過程が一番子どもたちの論理的思考力を育てる。個別に列記すると次のようになる。
 ① 書かれていることを中心にして思考が始まり展開していく過程
 ② 根拠を元に自分の考えが変わっていく時
 ③ 自分の経験を想起して考え始める時
 ④ 読み進めながら自分の考えが変わっていく時
 ⑤ 書かれていることからについて、同感したり反論を展開してい く時
 ⑥ 書きぶりや文章の個々の表現に着目している時
 ⑦ 各段落の関係を吟味したり、比較したりしている時 
 ⑧ 友だちの発言に関係づけながら発言している時
 ⑨ 友だちの考えを聞きながら、自分の考えが変わっていく時
 ⑩ 友だちの考えを聞きながら、自分の考えが固まっていく時
 ⑪ 友だちの発言に、同感したり反論を展開していく時
 
2どんな説明文を読ませたいか
 知識の羅列でない「探求型」の説明文を読む時には、いろいろな場面で論理的思考力が鍛えられる。その特徴を意識的に授業で取り上げることが大切である。
  言語について直接説明している説明文がもっと欲しい。論説文が小学校段階から必要であると考える。新たな知識を得るだけではなく、新たな視点や複眼的な視点を子どもたちに獲得させることが重要である。そうしたことを可能にする説明文を発掘していく努力が必要になっている。場合によっては作ることも必要であろう。


資料1

『対象認識を深めながら論理的思考力を育てる』
                                        山岡  寛樹

一、説明文の魅力
 説明文をなぜ読むのか? 説明文の魅力は何か? 私は新たな知識の獲得ともやもやしていた考えが整理されることの楽しさにあると考える。説明文の読みは、読み手が書き手(筆者)の提示している対象について考えること・認識活動を始めることからスタートする。説明文の大きな特徴は、次の五点にある。①筆者がある視点から述べる(世界観・発想が切り口となる)②対象のある側面を述べる(対象のすべてではない)③一定の目的を持って述べる(書き手としての願い)④想定した読者に向けて述べる(語彙・述べ方)⑤順序立てて述べる(論理構成)の五つである。
 読みとは、書き手の書いた文を基にしながら、ある対象に対して考えることである。書き手がとらえた対象に対する認識活動である。論旨や要点の把握だけで終わるものではない。段落分けし、文図が書けたから読めたということではない。プレゼンテーションやパンフレット作りのために読むものでもない。文章を読みながら、自分の知識や経験が想起され、自分の認識が深まったり変えられたりすることが大切である。新たな知識や視点が獲得されたり、自分の経験が再整理されたりしていくことが大切である。読み進めながら、ゆっくりと考え、自分から理解していこうという姿勢を大切にしたいと考える。内容理解の側面(対象認識の側面)に説明文の魅力はある。

二、説明文の読みの力の二つの側面
 児童言語研究会は、読みの学力について研究し、説明文の読み力を「文章理解力の側面」と「対象認識力の側面」とに分けて整理した。簡単に述べると次のようになる。
A文章理解力の側面
 ○語や文・文章に関わること
  ・何について、どの側面から説明しているのかの理解
  ・話題や課題と説明や例示などの区別
  ・文章内の論理パターンの認識(頭括・尾括・複合)
  ・表現(断定・推定・予想・強調・反語など)
  ・論展開の特徴(課題解決・説明展開・消去法・結論→例示・                    例→結論など)
  ・論展開全体を見通し
 ○用語の概念についての配慮
B対象認識力の側面
 ○論の進み方
  ・論展開全体を見通しながらまとめていく
  ・書き手(筆者)が対象のどの側面を論じ、どの側面を落とし      たのかを考える
  ・書き手の感情が表出されている部分の確認
 ○書かれていることがらと自分の経験や知識との突き合わせ
  ・自分の体験・知識と書かれていることがらとの関係付け・対比
  ・絵や図や写真と説明との関係付け
  ・他の資料との対比
 ○筆者が選び出した書かれていることがらの吟味と対象の再認識
  ・データ吟味の側面
  ・批判的に読むという側面
 今話題になっている論理的思考力は、A文章理解力の側面とB対象認識力の側面の二つを意識しながら育てるべきものである。

三、主体的な読み手育てへの道筋
 一読総合法の読みは、初めに読み手である子どもたちが全力で文章に書き込みなどをしながら読む「ひとり読み」とその後の「話し合い」で進んでいく。教師の発問や誘導で授業が進むのではない。主体的な読み手育てをしないと授業が成立しない。題名読みの段階から、子ども自身が期待や疑問を持って読み進めていくことが大切である。
①考える範囲(立ち止まり)を限定する
 ひとり読み・話し合いの範囲が広いとどうしても学力が高い子中心になりがちになる。すべての子が楽に考えられる範囲を「立ち止まり」として区切って学習を進める。全体を読まずに授業を展開することになる。文章のまとまりを考えながら、子どもたちの力を考慮に入れて、立ち止まり範囲は教師が設定していく。
②初めての読みを大切にする
 主体的な読み手形成のためには、読みの切り口を教えながら、個々の子の初めの読みを大切にすることが重要である。読んで分かったこと・考えたこと・感じたこと・思い出したことなどをすぐに出させる。自由な反応を奨励していく。何でも言える自由な学級の雰囲気が大切である。
  子どもたちのひとり読みの力は、話し合いの過程を重ねる中で高まっていく。教師のそれぞれの子の読みの位置づけや評価の視点が子どもたちの次の読みの質を高めることに繋がっていく。教師の評価だけではなく、子どもたちが友だちの読みについての発言から触発されることも多い。話し合いの質が高まる中で、ひとり読みの質が高まる。ひとり読みの力が育てば、話し合いの質が高まる。ひとり読みと話し合いは、授業を進める車の両輪である。
③読みの反応を記録(書き込みなど)する
 書き込みや書き出しをするときの窓口として子ども達にいろいろな視点を与えていくことが大切である。用語は子ども達と作り上げていけばよい。それぞれの教材の特質を押さえながら、「目の付け所」として広げていくのも良い。
 ・分かったこと    ・知っていたこと
 ・思ったこと          ・疑問(自分の予想を書く)
 ・様子                ・驚いたこと
 ・感想意見            ・書き手について
 ・予想                ・論の進め方について
 ・前との関係づけ      ・まとめると
 ・浮かんだ言葉        ・納得できたか
  読みの視点や構えを作る読みの窓口の記号づけはそれぞれの学級で決めていけば良い。区分けするのが目的ではなく、多様な読みを保障する基礎になるものが右にあげた区分けである。
④文法力を鍛える
 それぞれの文は、判断である。文の中にどんな判断が隠されているかを理解する文法力が大切となる。文法の知識を使ってしっかりと文を理解したり、細部の違いでニュアンスや意味合いが違って来たりすることにも注意を喚起する。豊かな語彙が豊かな読みを保障するので、豊かな生活経験を通して語彙を増やす努力もする。読みの授業指導中に概念作りに必要な語彙を提供することも考える。
 複雑な文を分けることで、分析する力を育てることが大切である。単位文が二つくらいの重文で考える力を育てておくと良い。
・雨が降ったので、運動会の練習は体育館でした。(順接)
・雨が降り始めたのに、運動会の練習を続けた。(逆接)
前文と後文がどういう関係になっているのかを絶えず意識させる。順接・逆説は基本であるが、並列や添加もある。
 複文は、文に開く(装定を述定にする)ようにして、隠された判断をあぶりだしていく。「三年生になったぼくたちは、雨水がたまった運動場で、運動会の練習をした。」という文には、ぼくたちは三年生になった。運動場には雨水が溜まっていた。雨水がたまった運動場で練習をしたことという三つの判断がある。
 受動文は能動文に戻して、だれの動作かを明確にする。自動詞文は他動詞文にして、情緒性を排除することも大切だ。「知ってほしい、原爆が落とされたとき、たくさんの人がそこに生きていた」(『広島/爆心地中島』原爆遺跡保存運動懇談会編の帯より)「アメリカが原爆を落とした」と能動文にすると行為者が明確になる。「戦争が始まった」という自動詞文だと戦争を初めて利益を得ようとした者がいたことがいたことが見えなくなる。

四、根拠を言う努力
 発言時には、根拠も言わせる努力をすることで、論理的思考力が鍛えられる。説明の仕方によっては、先を予測し予想する楽しさを合う味わうことができる。書き手の問いかけの文に触発されて、対象についての認識活動をし、予想を立てる活動は特に楽しい。『めだか』(教育出版三年)では、沢山の敵に狙われているめだかがどうやって自分の身を守るのかの予想と、書き手の考えを対峙することで今までとは違った自然認識が広がる。根拠を考え、言うことでより主体的な読みが可能になる。書き手の説明の仕方をより具体化していくことがしっかりとした認識に繋がっていく。書き手の出した結論に根拠がしっかりと備わっていく。そうした活動を常に心がけることで、子どもたちの論理的な思考力を鍛えることができる。
  どこどこの文にこう書いてあるからという文章上の根拠はとても大切である。文に戻りながら、書かれていることを具体化して考えていくことは説明文の読みの授業で特に大切にされるべきことである。
  先を予想する力は今を生きる力に繋がる。今までに書かれていたことを基本に据えて、推論を展開することで思考力が鍛えられる。文章の読み取りの時だけではなく、読み聞かせの時にも、反応を自由に出させることを通して予想する習慣を身につけさせたいものである。
  また発言の時に、友だちの発言を評価したり、友だちの発言に触発されたことを付け加えたり、友だちの発言に反論をしたりすることも大切である。自分の考えは、他人との比較の中で明確になることが多い。話し合いは論理的思考力を総合的に鍛えていく場である。

五、授業作りの基礎は教材研究・題材研究
  説明文の授業作りの基本は、教材文をしっかりと分析することである。子どもたちの躓きや混乱は文章の曖昧さが大きく影響してくる。子どもたちが具体化しながら考える時に、方向性としての正しさは教材文の細かな分析とを、題材についての研究をしっかりとしている教師の受け取りによって明らかにされる。個々の子の発言が、どの表現によって位置付いてくるのかが教材研究や題材研究から分かってくる。
  『さけが大きくなるまで』の「やがて、水のきれいな川上にだとりつくと、さけはおびれをふるわせて、すなや小石の川ぞこをほります。ふかさが五十センチメートルぐらいになると、そのあなのそこにたまごをたくさんうんで、うめてしまいます」という文章から、どんな形の穴を掘るのかを具体化させる時に、教師の教材研究が生きてくる。深さと形をどう具体化していくかの問題である。Uの字型ではない。穴を掘るのが雌かどうかも、教材研究が生きてくる。つきない疑問を教師が持つことで、子どもたちの読みが具体化し、深まっていく。説明文の読みは、そこまで含むものである。

六、感想意見をまとめることで認識を深める
  立ち止まりの範囲は子どもたちの読みの力と教師の指導所の狙いと文章構成によって決まってくる。立ち止まりを一時間の授業範囲としていく時、それぞれの立ち止まりごとに感想意見を書かせる事が大切だと私は考えている。以前は小見出しをつけることで、論理構成をつかませることを中心に授業をしてきたが、感想意見を書く時に、長めの小見出しと同様な思考が働く事に着目した。要点・要旨にかかわることを書きながら、読み手としての反応が明確に出される感想意見を書かせる事で、より主体的な読みが保障されると考えるようになった。
  文章構成の問題を重視する時には、改めて論理展開を押さえさせれば良いのである。その時には、小見出しはとても有効である。それぞれの授業で狙いは微妙に違ってくる。説明文の読みの楽しさが、対象認識の側面であることを考える時、個々の子の感想意見は特に大切にされるべきだと考える。
  感想意見には、書き手に対する評価が結構出やすい。説明の仕方に対する考えが出やすくなる。データ吟味の側面が子どもたちから出やすくなる。感想意見は読み手である子どもたちの認識活動が基本にある。自分の経験や知識がないと感想意見は出しにくい。前の部分に書かれたことと関連させて考えることも大切である。小見出しでは、前の部分についての評価はしにくい。

七、書くことは考えることである
  現在私が一番大事にしているのは、書くことである。書くことは考えることである。書くことで、自分の考えが整理されていく。今の自分に自覚的になれる。ひとり読み過程で書き込みや書き出しをたくさんさせる努力も、たくさん考えさせたいからである。読んだり、聞いたりしている時にいろいろなことをそれぞれの瞬間に考えている。それを記録するのである。自分の思考の断片を外に出すのである。そうすることが、考える姿勢と態度を育てる。時間があれば短くてもいいから書かせる。自覚的に考えさせることを重視している。
  書き続けていくと、子どもたちの話し方が整理され、明確になっていくことに気付く。書くことは考えることだけでなく、考えを整理することでもあるのだ。論理的思考力が問題にされ、重視されてきつつある今、書くことを読みの授業の重要な柱として位置づけていきたいものである。書き慣れてくると、書くのに要する時間がどんどん短くなってくる。書き慣れである。思い浮かんだ考えを短時間にまとめ、文章として書き出すことで、子どもたちの思考力を伸ばすことができる。日常的な継続が一番大切である。

八、終わりに
  一読総合法は、決して難しい指導方法ではない。文章を切ってじっくりと読み進める方法である。子どもたちの読みの過程に生ずる思いや考えを大切にしながら授業を進める授業方法である。教師の発問で本質に迫ると言う立場にはない。子どもたちの発想を大切にしながら授業進めると、段々と一読総合法的になってくる。黒板の詩を読み合うと、子どもたちからいろいろな意見が出てくる。音声化による表現に慣れると、説明文の音読も変わってくる。声出し、簡単な感想の交流を繰り返す中で、個々の子の反応が生きてくる。感情表現をすることが大切であることを知ったこともたちは、説明文を具体的に読み始める。感情をを露にすることが肯定されない時代だからこそ、感情的であることの肯定が必要である。個々の子のそれぞれの読みを素直に出させる努力をしていこう。子どもたちの心を自由にしていこう。子どもたちの読みを基に授業を進める一読総合法は、子どもたちの心を開いていく。豊かな友だち関係を作っていく読みである。
※これは、『国語の授業』誌十月号の原稿である。時数の制約もあって、具体例が乏しくなっていて、概論的である。しかし、この中に私の思いはしっかりと出されている。