一年生の最初の教材の読みの授業でのことです。書かれていることの理解を確認するために、文ちゃん人形で、考えてもらっています。こうした意識を持って指導を継続することが求められます。

     『けむりのきしゃ』の実践を通して
 『けむりのきしゃ』は、文学作品の読みに慣れるための教材で、次のような文章です。「流れ星が、落ちてきました。/煙突掃除のおじいさんが、拾いました。/おじいさんは、煙突のてっぺんに置きました。/『さあ、空に帰してあげよう』/おじいさんは、薪を燃やし始めました。/煙突から、煙が出てきました。/『おじいさん、ありがとう』/流れ星は、煙に乗って、空へ空へと登っていきました」漢字に変換しました。短い文章です。ほんわかした絵に文章が乗っています。
 書き込みと、その書き込みをもとにしての発表を中心に据えて授業をしました。次の記録は、「おじいさんは、薪を燃やし始めました。/煙突から煙が出てきました」の所の話し合いをした時の記録です。
 子どもたちの発表を整理すると、「おじいさんは、流れ星のために頑張った」「上が熱そう」「薪を持ってきた」「薪を運んだ」「煙突の下に置いて、マッチで火をつけた」「火を燃やしたから、辺りがよく見える」「流れ星は良かった」「流れ星は喜んでいる」「流れ星が、薪を運んでいるのを待っている」「流れ星を置いた煙突の上から、煙が出てきた」「高い煙突」「煙が出た」「他の星も乗ってみたい」「煙で流れ星を帰してあげる」「煙がちょっと出てきた」「太陽が出てきちゃう」「まだだよ」「喜んでいる」「薪を燃やしたから」「煙の色は白(多数)、黒(三~四人)」「下では火がはじけている」「他の星が見ている」「星は喜んでいる」「流れ星と別れるのが、おじいさんには寂しい」「『ばいばい』と流れ星が言ったはずだ」という読みや感想や意見が出ました。その後に主部(頭)と述部(体)を考える時間をとりました。
T ここを読んでください。(「おじいさんは、まきをもやしはじめました」の所を指す。)
C 「おじいさんは、まきをもやしはじめました」と音読する。(声が小さかったので、 もう一度読ませる)
T はい、文ちゃん人形の頭は?
C おじいさんは。(多数)
C おじいさんは、まきをもやしはじめました。(少数)
T これが、文ちゃん人形の頭だよね。体が?
C まきをもやしはじめました。
T おじいさんのやったことだね、これは。じゃあ、次ね。
C 「えんとつから、けむりがでてきました」と音読する。
T これの文ちゃん人形の頭はどれでしょう。
C えんとつから。(多数)
T 「えんとつから」だと思った人? 違うと思った人?三人手を挙げたね。煙突からじゃない。じゃあ頭はなんでしょう。
き けむりがでてきました。
T 「けむりがでてきました」までいっちゃうんですか。 (無言なので、次を指名する)
む えんとつから。
T 人の話を聞いていたかな。違うよ。
C でも、それしかないよ。
T 「けむりがでてきました」の所の頭はなんですか。
か けむりが
T 「けむりが」が頭で、「でてきました」が体です。
C ちっちゃいな。でも、普通の人みたい。
T さて、「えんとつから」をどうするかだね。これ、どこに入るのですか。「煙が」か「煙突から出てきました」かどっちだ。
た 文ちゃん人形が、体だけ出ている。
T これは、どこに行ったかというとここに(「けむりが」と「でてきました」の間に間を指す)入るんだよ。「けむりが、えんとつからでてきました」どうですか。言ってく ださい。さんはい。
C 「けむりが、えんとつからでてきました」と読む。
T ほら、文ちゃん人形にちゃんとなったでしょう。煙突からは、こっちに入るのに、なんで煙突からを先に出したんだろう。
さ 「えんとつから、けむりがでてきました」でも、似合うじゃない。
T そうだよ。別に間違いじゃないよ。「煙が、煙突から出てきました」と「煙突から、煙が出てきました」というのは違うじゃない。なぜ、書いた人は「煙突から」を先に出しちゃったんだろう。
C どっちでも良いじゃない。
T どっちでも良いのなら、分かりやすいように下げれば良いじゃない。なんでこれ出してきたのかなということだよね。
C 別に、そこに出しても良いじゃん。
T じゃあ、初めから読んでください。
C 『けむりのきしゃ』流れ星が、落ちてきました。煙突 掃除のおじいさんが、拾いま した。おじいさんは、煙突のてっぺんに置きました。「さあ、空に帰してあげよう」 おじいさんは、まきを燃やし始めました。煙突から煙が出てきました。(音読をする)
T あのね、「えんとつからけむりがでてきました」ね。「おじいさんは薪を燃やしはじめました。煙が煙突から出てきました」よりは、出てきたのが、煙が出てきた場所は煙突だよね。それが、はっきり分かるように、ちょっと目立たすために前に持ってきたの。
C はい、よく分かりました。
T で、順番をちょっと変えたの。だから、ここに点があるの。そういうのを「強調」と言います。じゃあ、ちょっと言ってください。
C 強調
T やさしい言葉で、「強め」と言います。「えとつから」の横に強めていると書いて下さい。
※ 教科書に出ている生の文を分析するのも結構大変なことです。それでも、子どもたちの発言の中から、子どもたちの文法力の片鱗を窺い知ることができます。そうした部分に光を当てながら、意識して文法的に考えるようにしていくことが大切だと思います。最初の文の「ながれぼしが、おちてきました」という文で気がついたことや思ったことを発表してもらっている時に、「空から」と場所を補った男子がいました。「流れ星が、空から落ちてきました」という文にしたのです。後で、空からの位置を移動させたりして感じの違いを考えました。「煙突から」を強めていることの学習の後のことです。時・所はかなり自由に文の中での位置を変えます。「強調」と言いすぎるときつい部分があるのも事実ですが、こうしたことの積み重ねは必要なことだと思っています。自分の感情がどうしてそうなったのかということを文を分析しながら考えることは文学の読みの授業の時に大切になると思います。これから、いろいろな文章を読みながら、子どもたちがだんだんと理解していくのです。
 「ながれぼしが、おちてきました」という文の学習をしている時に、「人が下から見ている」と言った女子がいます。視点が明確になっている読みです。こうした感覚も多くの子に共通して持ってもらいたいと思っています。文学の読みの中でもうるさくならない程度に文法的な学習内容を入れていくことは大切です。場面場面でしっかりとした用語を教えることも良いのですが、子どもが覚えやすい簡単な用語が示せるならそうしておいた方が分析する時の手助けとして役立ちます。