『土御門院句題和歌全釈』
詠五十首和歌 Ⅰ 恋 【31】

 


たのめおく あすのいのちも しらなくに
はかなき物は ちぎり成りけり

 

【通釈】
(相手に)頼りにさせておく自分の明日の命も自分自身にさえ判らないのに、そうした(はかない)人間同士の約束なんて、実にこの上なくはかないものだなあ。

【句題】
与君後会知何日
(ここで君と別れた後、いつの日に再会できるかわからない。千載佳句;白居易)

【語釈】
この歌に影響を及ぼしたかもしれない一首に、「たのめおく ことの葉だにも なきものを なににかかれる 露の命ぞ」 という女官・皇后宮女別当の歌を参考歌として挙げられています。
男女の 「ちぎり」 は 『源氏物語』 で重視され、古今集に続く 『後撰和歌集』 から名詞として使われるようになった “流行語” だったようです。
やがて、“前世” からの縁を念頭においた仏教的な言葉になっていったのは末法思想の影響もあったのでしょうか。

【評】
句題で詠まれた友人との別れから恋の歌の装いをとりつつ 「普遍的な世の情理を表現」 に普遍化された背後には 「土御門院の人生体験が横たわっていよう」 と、岩井先生は解説されています。



 

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*ユウガオ
カンピョウになる実のなるもので、アサガオやヒルガオとは別の種類の植物。花は大きいものの、透き通るような白さ。夕顔という名前の情緒を選んだ紫式部の才能を感じます。