『土御門院句題和歌全釈』

詠五十首和歌 Ⅰ 春 【1】

 

時わかぬ あらしも浪も いかなれば 
けふあらたまの 春をしるらん


[通釈]
時節を判別することのない嵐や浪などが、どうして今日が立春であることを知ったのだろう。

 



 

[句題(このうたの題材)]
春風春水一時来
(春の風が吹き、温んだ春の水が一時にどっと押し寄せてきた。白居易)

[評(藤原家隆による寸評)]
あはれけだかくめでたく候ものかな
(しみじみと心に響き優れており、結構でございます。)

当時、春は海の彼方から訪れるものだと信じられていたことで浪と合わせられたが、この「あらしも浪も」という表現は土御門上皇の時代の後に多くなるそうな。

 

「土御門上皇は 『和漢朗詠集』 に精通しておられたと見られる。」

「句題の枠を越えた詠作になっている。」(岩井先生の評)
 

父帝・後鳥羽院のうたにある、キリッと引き締まった雰囲気にスケールの大きな作風だと思います。

なお、岩井宏子先生による詳しい解説書 『土御門院句題和歌全釈』 から紹介させていただく記事においては、上皇のことを 「~院」 と表記します。

 

『土御門院句題和歌全釈』
(歌合・定数歌全釈叢書⑯) 
土御門院による句題和歌「詠五十首和歌」二組の全釈。
異邦人、邦人作者の七言句を題に詠まれた和歌から、漢と和の見事な調和を読み解き、院の心を伝える。
詠五十首和歌(春・夏・秋・冬・恋・雑)

著者 岩井 宏子(イワイ ヒロコ)
神戸市出身。日本女子大学文学部国文科卒業。
甲南大学大学院 人文科学研究科 博士後期課程 国文学専攻単位取得。
京都女子大学より文学博士。
龍谷大学仏教文化研究所研究員。