都大会第二試合、準決勝。

ずっと目標にして来た王者との対戦。

これまで、予選でも都大会でも毎年毎年何度も対戦して来た相手。

そして残念ながら、この4年間一度も勝つことができていない相手。

山野も前進して来たが、常に一歩先を走り、なかなか背中を捉えることができない。


しかし、今大会はこの王者を乗り越えられなければ、目標である関東大会に進む道は断たれる。

いわば、捨てるものは何もない、山野ジュニアにとって「背水の陣」である。


1試合目は緊張と硬さのあった選手たちも、準決勝では身体も心もちょうど良くほぐれて、アップの時から動きがスムーズだった。

声も良く出て、「よし、やるぞ!」という気迫が全員からみなぎっていた。


第一セット開始。

1本目はサイドラインギリギリのコースにサーブを決められ、ノータッチで落としてしまい先制点を許してしまった。

しかし、2本目はしっかりセッターに返してエースが真ん中から打ち込み確実にサイドアウトを取った。

相手チームの相変わらずの安定感と、冷静かつ強烈な攻撃。こちらのスパイクが決まった!と思っても上げてくる守備力の高さ。トスはピタリと測ったような正確さ。


しかし山野もまったくひるむことなく、強気で向かって行く。一進一退の攻防。


打たれても打たれても、受け身ではなく攻めの気持ちで拾いまくるレシーバー。顔面に当たって吹き飛ばされてもくらいつく姿に感動した。

攻め続けたが、ミスが数本続いてしまい第一セットは15-21で落としてしまった。


第二セット直前の円陣で、キャプテンの声が響く。

「まだ終わってないよ!!」心からの叫びだった。みんながその声を受けてキリリと前を向く。

そう、誰一人諦めている者はいない。


これまで山あり谷あり、泣いたり笑ったり怒ったり、いろんなことがあったこのチーム。

キャリアも性格もそれぞれ異なるメンバーだが、バレーボールに対する真剣さは共通していた。


2年生からコートに立ち、3年生からエースを託されて来たキャプテン。これまでの先輩達の思いを繋ぎ、後輩達の希望を背負って躍動する。

都大会直前に前衛から後衛にポジションが変わった選手と、後衛から前衛に変わった選手。悩んだ日々もあったがすべてはこの戦いのために。

自我を捨て、チームのために!と意識を切り替えた時、最高に輝く姿があった。

都外への引越しで退部も考えたが、やっぱり山野のバレーボールが好きで、このメンバーと一緒に卒業したいと思った。

素晴らしいブロックポイントを決めた!鳥肌が止まらなかった。

自信が持てず、強烈なアタックに恐怖さえも覚えたが、短いキャリアで必死に食らいついて来た。君にしか拾えない1本があった。勇気の表れ。

そして、唯一ひとりの5年生。セッターとして6年生にトスを上げ続けた。うまく行かず、要求は多く、涙した日もあった。ふてくされた日もあった。いつの間にか頼もしい司令塔へと成長していた。


6人全員がコートいっぱいに所狭しと駆け回り、打って拾ってつないでまた打つ。

1本が決まり、全員で肩をたたき声かけ合って喜ぶ姿が山野らしい光景だった。自分たちで盛り上がり、益々良いプレーを生み出して行く。


デュースにもつれ込み、決めて決められまた決めて…

最後は23-21で敗れた。

嗚咽が止まらないエンドラインでの3位表彰となったが、堂々と胸を張れる全力を出し切った準決勝だった。

スタメンも控えの選手も、自宅から応援していたメンバーも、全員が「一心」に向かった戦いだった。


1年間掲げて来た関東大会出場の夢は、この瞬間に途絶えたが、目標達成と同じくらい、いや、考えようによってはそれ以上の価値ある経験ができたと思う。

この未達の悔しさは、それぞれの進路でまたリベンジだ!


帰り道、不思議と晴れ晴れした気分に包まれた。しゃくり上げるほど泣き腫らしたあとは、やり切った満足感と安堵感が笑顔に溢れていた。