父の書庫を整理していた折に、大量の名刺を見つけました。古いものから比較的新しいものまで、受け取った順に保管されていました。その量に驚かされつつ、いちばん古いのはいつのだろう、といくつかの名刺を手にとってまじまじと見つめました。

 

 

サイズ自体はほぼ均一ながら、いろんな会社や団体があり、所属や肩書があり、そして名前がありました。文字の書体もさまざま。シンプルなものから、社章やロゴマーク、紹介文の入った多彩なものまで。こうしてみると、名刺は実に個性豊かですね。

 

社会がデジタル化しても、公的な場で業務上に大人同士が初めて対面するにあたっては、名刺を交換する場面があるものです。名刺とはその人を一枚の紙片で表すものですが、一定の「硬さ」というかフォーマルさが保たれていて、清々しさを感じます。

 

一つひとつの名刺は、あくまでそのときのもの。時間が経てば、所属や肩書は変わっていきます。その組織にもすでにいらっしゃらないのかもしれません。しかし、名刺を交換した時点では、確かにそこに記載されたとおりであったということです。

 

いつごろお会いした、どの程度のお付き合いのかたなのかということを含め、名刺に示されている以上のことは何もわかりません。ただ、名刺のデザインと同様に、名刺に記されたかたの人生もまた多種多様なのだということは、私にも理解できました。

 

受け取った父がそれぞれの名刺を手にしたら、きっとそのかたとのお付き合いについて、顔や声とともに懐かしく思い返していることでしょうね。

 

 

名刺とともに始まる人間関係。それがその時限りで終わるのか、続いていくのかはわかりません。良きご縁であるなら、お互いに末長く大切に育て合っていきたいもの。

 

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そんな味わい深き名刺ではありますが、やはり処分することにいたしました。これらは無用な個人情報の集積であり、保存し続けてもどうすることもできないからです。

 

父がいろいろなかたと名刺交換し、語り合っている場面を想像すると、若々しくはつらつとした姿をしていました。不意に「あの頃に戻りたい……」と思った私でした。