「大阪府警で準捜索願をとりさげておくよ」

 

 

 

 わたしは行方不明の長女を捜しだせないいらだちから家族写真を前に腕ぐみ、びんぼうゆすりしながら安否を待った。

 

 その間、アスカ葬祭の木林健伍氏からは何度か「導師を決めましょう」と催促がある。

 

 そんなとき千葉大病院から電話があった。

 

「おくさんの化粧水等の忘れ物を早めにとりにきてください」

 

「わかりました。長男を向かわせます」

 

 長男に頼んだがあーだこーだといって結局、受けとりにいったのは陽が落ちる夕刻となり、ようやく「病院へついた」との連絡がある。

 

 その直後の、なんと数秒後に長女から電話だ。

 

「おとうさん、おかあさんがいないんだけど?」

 

「おい、ほんまにおまえ(長女)か? 生きとるんか? いまどこにおる?」

 

「千葉大病院の緩和科病棟の公衆電話からかけている」

 

「おかあさんはけさ亡くなった。いいか、早まるなよ。そこにとどまっておけ。弟(長男)が行くから動くな。じゃな」

 

「うん」

 

 すぐに長男へ電話する。

 

「ね、ねえちゃんが、か、緩和科病棟の公衆電話前にいるらしい。おかあさんが亡くなったことをつたえたから気が動転しているかもしれない。すぐに向かってやってくれ!」

 

「わかった!」

 

 長女は大阪でおきびきにあい、カバンの中へ入れていた財布・携帯電話を捨てられ、派出所でお金を借りてほうほうの体で千葉までたどりついたらしい。

 

 わたしは急いで大阪の弟へ連絡する。

 

「長女が戻ってきた!」

 

「ほんまにー。そりゃあよかった!」

 

「大阪府警によろしゅう言うといてくれんか?」

 

「わかった。準捜索願をとりさげておくよ」

 

「ありがとう!」

 

 わたしは亡き妻にはこう呼びかけた。

 

「長女を生かしてくれてありがとう! これから家族5人でがんばるから、見守ってくれよ!」

 

 派出所と大阪府警は連携がとれていないのだろうかとも思ったが、そのことは長女帰還の歓びでかき消された。



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