世間ではよく空気だの、無能だの、存在感が無いだのと散々な評価を下されるミルドラース。

だが、それは果たして正しい評価なのか?

 

空気、存在感がない理由としてファンから「出番の少なさ」「登場の遅さ」を挙げられる事がある。

だが、出番がわずかな上にセリフすらないという点ではシドーよりマシであるし、登場の遅さで言えばデスタムーアと大差はない。

よく歴代最高と評されるゾーマも考えてみれば出番は少ないし、登場も終盤になってからである。

そもそも彼と同程度の出番しかないラスボスなどテレビゲームではさして珍しいものではないように思われる。

 

ではなぜミルドラースだけがこうした評価を受けるのか?

 

私が思うにそれは出番の少なさや登場の遅さに因るものではない。

主人公(プレイヤー)にミルドラースを倒したいと思わせるもの、その動機付けの弱さが原因なのだ。

 

なぜゲマがあれほどの存在感を放っていたのか。

それは出番が多いからではない。

良き父として描かれ、主人公と共に旅をしていたパパスを惨たらしく殺したからである。

更に言えば10年間奴隷になったのも、石にされて妻や子供たちと過ごす時間を失ったのもゲマのせい。

ゲマは主人公から大切なものを奪い続けた。

ゲマには明確に倒すべき理由がある。ゆえにその存在感も大きくなる。

 
本編で最も爽快なシーンの一つ
多くのプレイヤーがゲマのみっともない死に様に心が晴れただろう
 

比べてミルドラースはどうか?

彼は他の魔王と違って人間界を侵略すらしていない。部下の活動にもほぼ関わっていない。

やった事といえばスッカスカな予言と、主人公とほぼ面識のない赤の他人も同然な母親マーサを誘拐し、後になって殺害しただけである。

 

ゆえにミルドラースの悪役としての存在感は薄い。印象にも残らない。

主人公(プレイヤー)からすればゲームの都合上倒さなければいけない"だけ”の敵。

本当にどうでもいい存在にしか映らないのだ。

 

その点でいえばシドーは大神官ハーゴンがその命を捧げて呼び出した破壊神。

人の言葉を介さぬ異形の存在、倒さねば世界は即滅亡という緊張感があり、これがシドーの存在感へと繋がっていた。

ゾーマも魔王バラモスを倒したと思った矢先に派手に登場、宣戦布告という衝撃。

デスタムーアはダークドレアムに瞬殺されるというインパクト。

ミルドラースにはそういったものすら無い。

 

これでは空気だの存在感がないだのと評されるのも仕方ないと言える。

 

そんなミルドラースだが、決して無能ではない。

人間から大魔王へと大出世を果たした傑物であり、永きにわたって魔界を統一支配してきた。

勇者の血筋といったご都合主義に頼らずである。

まあ、エルヘブンの民だった可能性もあるから、彼が血筋パワーに頼らなかったとも断定できないが。

 

ジャハンナの民から不平不満も出てこないし、反乱や裏切りがあったなんて話も出てこない。

それどころか人間に生まれ変わった魔物からも尊敬されている。

 

 

これはミルドラースの政治能力が極めて優れていることを物語っている。

有能ではあっても、無能とは言えないだろう。

間違いなく為政者としては歴代魔王の中でもダントツである。

 

だが、マーサを誘拐して利用を試みるも失敗したり、自分一人の力を過信するあまりに部下の働きを軽視し、結果部下が失敗を重ね続けて主人公の魔界への殴り込みを許すなど詰めの甘さも目立つ。

 

こうした致命的なまでの見通しの甘さがミルドラースの欠点であり、敗因だと言えるだろう。

あるいはお得意の予知能力に頼るあまりに、自分の頭で先の先まで慎重に考えることが出来なくなっていたのかも知れない。