ローグライクゲームという概念を世に広めた名作、トルネコの大冒険シリーズ。

スパイク・チュンソフトを代表するゲームシリーズであり、売上本数も80万本(1)、57万本(2)、50万本(3)と(右肩下がりではあるものの)シリーズ物としては好調で、当時のチュンソフト製ゲームの中では最大級の売り上げを記録していた。

にもかかわらず、トルネコの大冒険3(アドバンス版)を最後に、トルネコの新作は途絶える事となる。

そして、別会社キャビア開発のもと、スクエニからリリースされた「ドラゴンクエスト 少年ヤンガスと不思議のダンジョン」ならびに不思議のダンジョンMOBILEを最後に、事実上シリーズは凍結状態となった。

あれから14年経過した現在、いまだに新作の気配はない。

なぜトルネコ(ヤンガス)の続編は出なくなったのか?

私の知る限りではスクエニ、スパイク・チュンソフトから正式に理由が明かされた様子はない。

ゆえにファンの間では様々な推測がなされるが、真相は謎である。

 

そこで気になった私は「なぜトルネコの続編は出なくなったのか?」について調べることにした。

そして三つの説、真偽不明のウワサを見つけ出した。

 

1.トルネコ3の評判が良くなかったため(売れなかったため)、続編を出すことを断念した。

2.自社オリジナルである風来のシレンシリーズに力を入れたいという思惑から、トルネコシリーズを封印した。

3.経営難に陥っていたチュンソフトが、会社の立て直しのためにトルネコの版権(権利)をスクエニに売却した。そのため、作りたくても作れなくなった。

 

1.たしかにトルネコ3はゲームバランスや難易度、レベル継続性などの点から批判も多く、その評価は賛否両論である。もっとも、熱心なプレイヤーを多く抱えている点、YouTubeやニコニコ動画などで沢山のプレイ動画がアップロードされている点、クリア後ダンジョンの一つである「異世界の迷宮」の攻略wikiがわざわざ作られている点、中古価格(とくにアドバンス版)がそこそこの値段を維持している点などから、ゲームとしての人気は高いといえる。

売上も50万本と良好で、少なくともシリーズ凍結になるほど「売れなかった」と見るには疑問符がつく。それはアドバンス版を後に出している事からも明らかである。つまり、チュンソフトとしてもトルネコは「出せば売れるソフト」であると認識していた事になる。

 

また「ローグライクゲームそのものが時代的に売れなくなったから」「マニア向けだから」という理由も見られたが、その割には風来のシレンシリーズの続編制作、移植・リメイクを積極的におこなっているし、2020年(今年)には「不思議のダンジョン 風来のシレン5plus フォーチュンタワーと運命のダイス」のスイッチリメイク版の発売が発表されている。

また、2005年には株式会社ポケモンと共同で「ポケモン不思議のダンジョン 青の救助隊・赤の救助隊」と世に出しており、こちらも2020年3月6日に「 ポケモン不思議のダンジョン 救助隊DX」というタイトルで、スイッチリメイク版が発売されている。

つまり、続編が出ない理由は「売れない」からでも「ローグライクゲーム」だからでもないのである。それどころか、トルネコの売上は風来のシレン(風来のシレン2 鬼襲来!シレン城!の28万3991本が最大の売り上げ)よりはるかに上なのだ。なぜ出さないのだろう。

 

2.可能性としてはあり得る。いくらトルネコシリーズが好調の売り上げを記録しても「ドラクエ」というネームバリューに頼っていることは否めず、また売り上げが良いとしても、トルネコシリーズに関わりの深いスクエニ、集英社、アーマープロジェクト、バードスタジオ、すぎやま工房、MATRIXなどへの利益配分から、実質的な儲けはそこそこだと考えられる。ただ、それを考慮しても16年以上もトルネコの続編を出ないのはやはり不自然ではないか。また、中村光一の個人経営から始まったチュンソフトはその経歴から見ても経営面で好調をキープしていたとは言えず、それは2005年4月21日に株式会社ドワンゴに買収されて完全子会社となった事や、2012年4月1日、同じくドワンゴの子会社となったスパイクと吸収合併した事実からもうかがえる。このような栄枯盛衰のなかで風来のシレンシリーズにこだわり、シレンよりも遥かに売上が見込めるトルネコの続編を出さなかったというのはやはり疑問である。

 

3.これらの中では最も可能性が高いだろう。先ほど述べたようにチュンソフトは経営面で安定しておらず、よって深刻な経営不振に陥っていた時期があるものと推察できる。そうした中で、会社立て直しのためにトルネコの版権そのものをスクエニに売ったとしても不思議ではない。その後の新作「少年ヤンガスと不思議のダンジョン」がなぜかチュンソフトではなく、キャビア開発のもとスクエニからリリースされた事実とも符合する。もっとも、これらは全て推測であり、明確な証拠はない。

 
結論からいえば、いずれも現状は推測の域を脱していないと言える。
しかし、面白いのはこれらの説のうち、3のみが事実であるかのように各所で語られているということである。
なお現在は版権を売却したためチュンソフトはトルネコシリーズを作成できない
とはっきり書かれている。
また、ニコニコ大百科の掲示板などでも
確実に出ません。何故なら「ドラゴンクエストモンスターズ・不思議のダンジョン」の版権をチュンソフトがスクエニに返上してしまったからです。
トルネコローグライク版権はエニクスに売却された(要約)
など、同様の書き込みが確認できた。
いったい、これらの情報の出どころはどこにあるのだろうか?
気になった私は早速調べることにした。
すると情報の出どころはどうやら2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)であることがわかった。
 
まず最初に見つけたのは【シレン/アスカ/トルネコ】不思議のダンジョン総合スレ 63Fの2013年9月7日付の書き込み(382番目)である。
トルネコの続編がなぜでなくなってしまったのか、という書き込みに対して
権利を売ってしまったからだ、どうせスクエニからオファーがくると予想してたんだろうが全然来ないな」と断言している。
その後、権利を売ったという話の出どころに関して、ある人物が執念深く聞き出すことになる。
 
しかしいずれも
過去のリークにあった
雑誌もしくは攻略本のインタビューで中村社長が答えていた
にわかかよ
噂の真偽を気にしてるのはお前だけ。スレ住人の間では常識。世界的に見ても信じてないのはお前ぐらい
と本当かどうかも怪しいような情報や、質問主をバカにするような書き込みが続くだけで、信頼性の高い情報源は出てこなかった。
 
ただ、この流れの中で一つ興味深い事実が明らかとなった。
それはトルネコの大冒険の商標権の名義が「 株式会社スクウェア・エニックス 」となっているという事実である。
不思議のダンジョンや、風来のシレンの名義は「 株式会社スパイク・チュンソフト 」となっているにも関わらず、なぜかトルネコの大冒険に関しては「株式会社スクウェア・エニックス」となっているのだ。これは特許情報プラットフォームから確認できる。
トルネコの大冒険は「ドラクエのキャラクターを使わせてもらう」という許諾を、生みの親である堀井雄二らから取った上で、チュンソフトが主体となって開発・リリースしたタイトルである。その後の2、3では発売元が「エニックス(現・スクエニ)」となり、また、MATRIXが共同開発として参加しているが、それでもチュンソフトはデベロッパー(開発会社)として一貫してシリーズ制作を行っている。そう考えると商標権の名義が「株式会社スクウェア・エニックス」となっているのは奇妙なようにも思える。
 
そう思う人間が総合スレッドには多かったのか、この事実をもって「チュンソフトからスクエニにトルネコの版権が売却された」という流れが強まる。だが、質問主は「最初から商標登録の名義がスクエニだったのではないか?」という疑問をぶつける。これは個人的にも気になるところだったのだが、スレ住人は質問主をバカにするばかりで噂の真偽は明らかとならなかった。
おそらく、誰もが明確なソース(情報源)をもっていなかったという事だろう。
 
その後、私は更なる情報を求め、ネットのいたるところを駆け回った。
すると、【神様】チュンソフト総合スレッド三階【悪魔】というスレッドで、2004年8月7日付(662番目)にチュンソフトの社員らしき人物によるリーク(情報の横流し)があった事がわかった。そこで「チュンソフトはスクエニにトルネコの版権を売った」と暴露しているのである
この社員らしき人物は、将来チュンソフトから出るいくつかのゲーム情報をリークした上で、「 トルネコシリーズは製作権をスクエニに売ってしまったので、今後チュンからでることはありません」と語っている。このリークに関しては当初懐疑的な声も多かったのだが、チュンソフトの内部事情や生々しい裏話やらが書き込まれる内に、本物と信じる者が増え始めた。
そして、この人物は将来発売されるゲームとして
 
・PS2 金八先生ディレクターズカットエディション(シナリオ2本追加)(仮)
・GBA かまいたちの夜アナザーストーリー(仮)
・GC HOMELAND
・NDS 不思議のダンジョン ポケモンワールド ピカチュウの大冒険(仮)
・PS2 金八先生2(製作決定)
 
を挙げていた。
まず、金八先生のディレクターズカットエディションだが、スレ内では売上問題などから「ありえない」ものとして疑問視する声が多かった。
しかしその後、本当に週刊ファミ通( 2005年6月10日号)からシナリオ2本を収録した完全版が出る事が発表されたのである。
更に興味深いのはリーク主は「 ディレクターズカットは近日発表されるので、そのときにまた会いましょう」と書き込んでおり、少なくとも近いうちに発表されるという事実を的中させていた。
また、ポケモン製の不思議のダンジョンが出る事についても疑問視する声が多かったが、こちらも後日本当に、NDSから「ポケモン不思議のダンジョン 青の救助隊・赤の救助隊」というタイトルで2005年11月17日に発売される事となった。
当時の総合スレッドの反応を見る限り、ポケモンから不思議のダンジョンが出る事自体、公式に発表すらなかったものと考えられる。
ちなみにHOMELANDは厳密には未発表タイトルではなく、当時既に存在自体は明らかとなっていた。いつ発売されるか定かではなかった様だが、2005年4月29日に無事発売されている。
かまいたちの夜アナザーストーリーや、金八先生2に関しては発売事実の確認が取れず、どうやら不発だったようだ(?)
 
結論からいえばーク主の情報は5つのうち、二つ的中していた事になる。
それも、金八先生に関していえばチュンソフト総合スレッドの住人誰もが疑問視し、ガセネタとまで言い放つ者がいる中で、完全版(ディレクターズカット)であること・シナリオ数・発表時期まで見事に言い当てている。
これらの点から、リーク主がチュンソフトの社員であった可能性、つまり「チュンソフトからスクエニにトルネコの版権が売られた」可能性は高いといえる。
余談だが、670番の書き込みによれば以前にもチュンソフトの社員らしき人物のリークがあったようで、その時に「金八先生」「シレンモンスターズ ネットサル」「HOMELAND」が出ることを予告していたという。880番は「HOMELANDがネットゲームである事を的中させたのは事実」と語っており、どうやら本当にリークがあったらしいことが伺える。
 
ちなみにリーク主はこの話の中で「 一方的にトルネコを作れる権利をエニックスに手放しました。これにより、エニックスはチュンソフト以外の会社に外注として頼めるようになったのです。 」(2004年8月7日付 666番目の書き込み)と書き込んでいる。
その2年近く後にチュンソフト以外の会社(キャビア)開発のもと、スクエニから「ドラゴンクエスト 少年ヤンガスと不思議のダンジョン」(2006年4月20日)がリリースされた事実は、なかなか興味深いものがある。
 
また、トルネコの大冒険3アドバンスが発売(2004年6月24日)されてわずかな時間しか経っていない、まだまだ続編は出るであろうと希望が持てる状況の中で、リーク主はキッパリと「今後チュンから出る事はありません」と断言しているのも、妙な真実味を感じさせる。
事実、16年経過した2020年現在となってもスパイク・チュンソフトから一切、トルネコの続編は出ていないのである。
 
その後の不思議のダンジョン総合スレッドでも「トルネコの版権はスクエニに売却された」という話が常識もしくは事実であるかのように語られているのも、このリークが発端なのだろう。
だが、当然ながらこれをもって信頼できる情報源と見なすにはまだまだ浅く、弱いと言わざるを得ない。
所詮は2ちゃんねるの書き込みなのである。
いかに事実と合致し、状況と符合するといっても単なる偶然といってしまえば、それまでなのだ。
リーク主が仮にチュンソフトの社員だったとしても、トルネコの版権売却の話まで本当だという保証はないのである。
 
少なくとも株式会社スパイク・チュンソフトもしくは取締役会長の中村光一氏が「トルネコの続編が出ない理由」を正式に発表するか、もしくはその趣旨をコメントしたインタビューでも発掘されない限りは「トルネコの続編が出ない理由は不明」と言うほかない。
 
また、トルネコの版権売却が事実であったとしても、スクエニが版権を握っている以上、スクエニからスパイク・チュンソフトに外注として委託する、もしくは別会社を通して続編を出す事は可能ではないか。
事実、別会社であるキャビアを通して「少年ヤンガスと不思議のダンジョン」を世に出しているし、売上的にも28万本とそれなりに売れている。
 
ヤンガスの評価は従来のトルネコシリーズに比べれば低い傾向にあり、スクエニでの評価も同様で「続編」を打ち出すモチベーションが尽きてしまった可能性もある。ではなぜトルネコ本元であるスパイク・チュンソフトにオファーを出さないのかは謎だが、外野には分からない経営事情があるのだろう。ローグライクゲームのノウハウという点でスパイク・チュンソフト以上に信頼できる会社が見出せず、結果、凍結してしまった、という事だろうか。

 

ここでふと思ったが、2020年3月6日にはポケモン不思議のダンジョンのスイッチリメイク版が発売され、2020年(時期未定)にはシレン5のスイッチリメイク版の発売が予定されている。そしていずれのタイトルにもスパイク・チュンソフトの名前が確認できる。この流れでいくなら2020年内にトルネコ、もしくはヤンガスのスイッチリメイク版が発表されそうなものだが、そんな気配はない。仮に同年、もしくは数年以内に発表されれば今までの考察はなんだったのか?という事になるが、逆にもし発表がなければやはりどうしても出せない決定的な理由があることは確実だろう。

 

もしかしたら意外なところで既に「答え」が出ているのかもしれない。チュンソフトや中村氏の関連のインタビューは相当数あるだろうし、その中に「答え」がちゃっかり出ていても不思議ではない。しかし、ウェブ上ならまだしも書籍関連まで全て調べ上げるのは不可能に近い。また、不思議のダンジョン総合スレの「雑誌や攻略本のインタビューで中村氏が答えていた」という情報を信じたとしても、その範囲は2004年から2013年もの9年間に及んでしまう。攻略本なんぞで分かるなら、とっくの昔にその旨の情報が出まわっていそうなものだから、おそらくはファミ通などのゲーム雑誌であると推測できるのだが、どこに載っているのかも分からない以上はどうしようもない。
 
ぶっちゃけスパイク・チュンソフト、もしくは中村光一氏に直接聞いてみるのが早い気もするが、知己でもなければ大手メディアの人間でもない筆者が、こんな生々しい質問をしたところで答えは得られないだろうし、それどころか相手にすらされないのがオチだろう。当然だが。
 
今後の新情報が待たれる。