広島は田舎だ。

今もそうだけど、昔はもっと辺鄙だった。

 

美大を目指す受験生だったとき、

画材の種類が少ないのに苦労した。

 

鉛筆にしても、三菱ユニだけしかなかった。

最初の頃は、ステットラーという舶来物が、

あることすら知らなかった。

ユニは描き込んでいくと、鉛筆の重なりが汚くなりがち。

とくに自分が描くと、重々しく、鉛色っぽくなってしまい、

人一倍、汚くなった。

 

ステットラーは浪人生になって初めて手にした。

後輩が東京で買ってきたのを借りて描いてみたら、

色が軽やかで、垢抜けた雰囲気があった。

さすが東京はちがう、と感心した。

 

練り消しゴムも、東京モノのほうが、

腰が強くて消しやすかったし、

画用紙も鉛筆の食いつきがよく、

そのぶん短時間で綺麗に仕上がった。

 

しかし、デッサン画材に関しては、

取り寄せたり、買ってきてもらったりはしなかった。

値段も高かったし、広島モノを使用し続けても、

何とか闘えるのでは、と楽観的に考えていた。

 

こだわったのは、水彩画で使う太い丸筆。

こればっかりは、東京モノと広島モノは月とスッポンで、

浪人生のとき、先に合格して上京していた友達に頼んで、

テンの毛を用いた素敵な一品を送ってもらった。

 

5、6千円しただろうか。

50年前だから、今だと何万になるのだろう?

当時の自分にとっては、とにかく大変な高額だったが、

それだけの値打ちは、お釣りがくるほどあり、

絶大な武器になった。

 

あとひとつ、普段はホルベイン製の透明水彩絵具を使っていたが、

ニュートンのガンボージというヤニ色っぽい黄色の絵具が、

とくにタマネギに色付けするときに大変便利。

やはりホルベイン製よりだいぶ高かったけど、

その絵具だけは、使い切ってしまう前に必ず補充していた。

 

受験生になる前は、

画材や筆記具やその他文房具全般に関して、

とくにこだわりはなかった。

 

しかし、いい道具を使うと、いい結果がもたらされる、

ということを知って、

徐々にこだわるようになっていった。

 

とはいえ、YouTubeなどを観ると、

とんでもなくこだわる、その道の達人がいるが、

自分はそこまで徹底してはいない。

納得のいくモノを求めて世界の果てまで行く、

という妥協を嫌がる性格ではない。

 

最近は、机の上に、12本の筆記具を並べている。

用途に合わせて、いろんな種類の水性ペンやら、

シャーペンなどを揃えているのだが、

これらとて、こだわり抜いたモノたちではない。

値の張るモノもない。

 

コレクターと呼ぶにふさわしい人たちとは、

自分はソリが合わない。

モノは必要最小限でいい、というのが自分のポリシー。

このたび、蔵書を大量に処分して、

あらためてその意を固くした。

 

しかし、筆記具だけは、12本だけでなく、

何となく気に入ったモノを、1本、2本と買っているうちに、

溜まりに溜まって、かるく200本はある。

これが面白くない。

思いきって処分したいが、

どれも、いつか役立ちそうで、

なかなかそうもいかない。

 

まさに、二律背反!

 

ま、しかし、処分したいと思っているのだから、

思いきれる日は、やがて確実に来るにちがいない。