最近、いろんなところで、
英語だけでなく、中国語・韓国語でも書かれた、
案内表示などをよく見かける。
多くの旅行者にとっては有難いのかも知れないが、
自分がそれらの言葉がわかる旅行者なら迷惑千万だ。
自分が海外に出たとき、
日本語の案内や説明書きのある店はまずパスする。
ロンドンのコヴェントガーデンで、
瀟洒な外観のインド料理のレストランがあったので、
迷わず入ってみると、渡されたメニューは日本語。
入るんじゃなかったと後悔した。
しかし、店を飛び出す気持ちにまではなれなかった。
で、何品か注文すると、何といずれもが絶品。
それはよかったのだが、
もうひとつ割り切れない思いが当然ながら残った。
ま、しかし、こういうのも旅の醍醐味と、あとで思い直した。
モン・サン=ミシェルに行ったときに泊まったホテルは、
最寄り駅ポントルソンに近いごく普通の一軒家。
中年夫婦が住み、余った部屋を宿泊客用にしていた。
おばあさんらしき女性も見かけたが、
家族そろって英語ができず、こちらは仏語ができず、
宿泊料金や朝食の時間など、
愛嬌ある夫人がニコニコしながら紙に書いてくれた。
楽しいやりとりだった。
ついでに、そのあとの話。
ホテルに着いたのが夕方だったせいか、
これからモン・サン=ミシェルに行くと伝えると、
部屋の鍵のほかに玄関の鍵も渡された。
モン・サン=ミシェルで日没を迎え、
徒歩とヒッチハイクで駅前まで戻り、
レストランで食事してホテルに帰ると、
経営者の皆様はもう寝たのだろう、
家全体が静まり返っていた。
そこで、抜き足差し足で部屋に入ったのだが、
入ると問題が生じる。
浴槽の蛇口をひねると、お湯がやたらぬるいのである。
しかし、寝ている人を起こすわけにもいかない。
真冬だったので、結局、ぬるいぬるいお湯に長時間浸かって、
身体を温めるしかなかった。
このホテルでも十分な醍醐味を味わった。
もうひとつ。
パリは普通なら、値段の安い左岸のホテルを探す。
しかしその日は事情があって、
凱旋門に近いホテルに泊まらなければならなくなった。
シャンゼリゼの裏手で、いちばん見かけのショボいホテルに入り、
受付の、ちょっと薄気味悪い中年男にトラベラーズチェックを差し出すと、
現金しか扱ってない、という返事がかえってきた。
男の印象が悪かったので、これ幸いと外に出ようとすると、
ほとんど命令口調で、すぐそこに銀行があるから、
荷物をそこのソファに置いて現金に替えてこいと言われる。
逆らうことなどとても不可能な雰囲気。
仕方なく言われた通りにして1泊したのだった。
すると、そこの風呂もぬるかった。
チェックインから時間が経っていたが、
まだおなじ受付係かも知れないし、
だとしたらふたたび口を聞く気にはなれないし、
結局、苦情を申し立てないことにした。
時は2月なかば。またもや寒い寒い夜だった。